4-10:山道
「ちょっと待とうかみんなぁーっ!!」
私は思わずそう叫んでしまった。
それもそのはず、険しい山とは聞いていたけど、なにこれ!?
「こらこら君、気を許すと足元踏み外すわよ?」
エルさんはそう言ってすたすたと前を進む。
「アルム様、お辛いようでしたら私がアルム様をおんぶしましょうか?」
「いや、おんぶってこの状況でどうしろと!?」
山道に入って数時間、だんだん険しくなってきて二足歩行が難しくなってきた頃、岩ばかりの断崖絶壁になってきた。
流石に他のルートでもあるだろうと思っていたら、先頭のエルさんはすたすたと先に進んで行く。
そして数分前から崖の壁に張り付くような場所を歩き始め、とうとう足場が幅十五センチくらいしかないような道を進み始めた。
問題は誰一人として気にせず進んでいることだ。
下を見れば数百メートルはあるだろう。
森の木々が小さく見える。
「これ本当に道合ってるの!?」
「エル殿にしては珍しく合ってます。先ほど地図を確認しましたが、このルートで間違いないようです」
後ろにいるマリーがそう答える。
壁際の岩をつかみ、足を踏み外さないように注意しながら歩くけど、前を行くエルさんはすたすたとどんどん前に行く。
「アルム~、遅いニャ。早く先に行くニャ」
「いや、これ無理ぃっ! なんでみんなは平然としてるんだよ!?」
私がそう叫ぶと、カルミナさんは不思議そうにする。
「このくらい普通にゃんだけどニャ?」
「それどこの普通ッ!?」
「ジマの国にいた時はよく鍛錬で崖から落とされたものです」
いや絶対に違うってぇッ!
そう私が思った瞬間だった。
ボコッ!
「あ”っ!?」
足元が崩れた?
私はそのままバランスを崩し、崖の下へ落ちる。
「う、うわぁあああああぁぁぁぁっ!!」
「アルム様っ!?」
「アルムニャッ!」
「我が主よ!!」
しまった、落ちる!
そう思った瞬間だった。
「危なっかしいわね、仕方ないからこのまま運んであげるわよ」
ふわっと体が浮いたかと思ったら、下から風が吹いてきて私は宙に浮いた状態になる。
そして声のした方を見ると、同じく空中にエルさんが浮いていた。
いや、同じく風に押されて宙にいたのだった。
「こ、これって?」
「風の精霊よ。まぁ全員はさすがに一度には運べないので君と私くらいなら大丈夫なんだけどね。ほかの人は問題ないみたいだから、あと数キロ先まで私がこの子を運ぶわ。みんなは問題ない?」
「ありがとうございます。こちらは問題ありません」
「あたしもニャ!」
「くーっくっくっくっくっ、我が主が無事でなにより。では貴女に我が主を運んでもらいましょうか」
どうやらほかのみんなは問題ないみたいだ。
なので私はエルさんに向かってお礼を言いながら運んでもらうこととする。
「ありがとうございます。それではお言葉に甘えて運んでもらいます」
「うん、じゃぁとっとっと行こうか?」
そう言ってエルさんがふわっとなった瞬間私の体も引っ張られるかのようにいきなり高速で移動を始めた。
「うわっ、うわぁあああああぁぁぁぁぁっ!!」
ジェットコースター張りの移動に思わず叫んでしまうが、エルさんは気にもしないでそのまま一緒に移動を続ける。
視界の端ではマリーやアビス、カルミナさんが崖を走るかのよう追ってくる。
「みんな絶対に普通じゃなぁーいぃいいぃぃっ!!」
私だけそう叫ぶのだった。
* * *
「はぁはぁはぁ、死ぬかと思った……」
「何を弱気なこと言ってるのよ君は? この辺じゃこんなの普通よ?」
いや、これが普通じゃおかしいって。
突っ込み入れたいけど、まだ回復していないので心の中でだけ突っ込みを入れておく。
「ここから先は比較的歩きやすい場所よ?」
「はぁはぁはぁ、エ、エルさんってここ通ったことあるんですか?」
「う~ん、もう何十年も前だけどね。この辺もだいぶ変わったわ~」
まぁ、相手はハーフエルフだから見た目の年齢に対して実年齢は人族のそれに対してかなり違うだろう。
それなりに色々知っているみたいだから人族の世界も長いのかもしれない。
「そろそろ休憩ですね。この先はどうなっていますか?」
「うーん前は野盗とか出てたけど今はどうかしら?」
さらっと物騒なこと言うエルさん。
と言うか、こっちのルートってあまり人が通らないんじゃないの?
そんなところで野盗やってるって、実入りなんかあるのだろうか?
そう私が思っていると……
「ひゃっはぁーっ! こんなところに若いねーちゃんたちがいるぜ!」
「おいおい、別嬪さんぞろいじゃねーか? 後はガキとひょろいにーちゃんか? 女を置いてけば命だけは助けてやるぜ?」
「ひゃひゃひゃひゃひゃ、俺はそのガキでもいいがなぁ♡」
はい、出ました野盗の皆さん!!
なんでこんなんところで出るのよ?
というか、最後の私の趣味じゃないからパス!
「へぇ~、まだこの辺って野盗が出るんだ。悪いやつはお仕置きしなきゃね!」
「へっ! お前ハーフエルフか!? 上玉だ、しっかりとしつけてから売り飛ばしてやるぜ!!」
岩山でも崖の部分は終わって、この辺は広場みたいになっていた。
なので野盗の皆さんが休んでいた私たちをすでに取り囲んでいる。
しっかし、こうもお約束通り出てくるとは!!
でも相手が悪い。
「操魔剣無手奥義、槌!!」
バンッ!
「ぐぼっ!?」
マリーが野盗の鎧の上から手をつくと、鎧に身を包んだはずの野党が血を吐いて倒れた。
「遅いニャ!」
バキッ!
あっちでは身体能力の差にモノを言わせたカルミナさんが野盗たちをぼこぼこに殴り飛ばしている。
「くーっくっくっくっくっ! 相手が悪かったようですね!」
バリバリバリバリ!!
「ぐわぁああああぁぁぁぁっっ!」
アビスはアビスで黒い雷を発生させて数人の野盗を一度に感電させる。
「な、何だこいつら? つえぇええぇ」
「ひ、ひるむな! 一度にかかれっ!」
「無駄なことを、大地の精霊よ、風の精霊よ!!」
ひるんだ野盗だけど、まとめてかかれば勝機があると踏んでかエルさんに数人がまとめてかかる。
しかし、地面が隆起してげんこつの形になって野盗を殴り飛ばし、風の刃が野盗たちを斬りつける。
「く、くそぉ! ひけっ、引くんだぁ!!」
「うわぁあああぁぁぁ」
「ひえええええぇぇっ!」
「ちくしょう―っ!」
完全に力の差を目の当たりにして、野盗のお頭みたいのが撤退の号令をかけた時だった。
「うわぁあああああぁぁぁぁっ!」
先に向こうに逃げた野盗が悲鳴を上げる。
いったい何があったのかそっちを見ると……
大きな黒い影が野盗を咥えていたのだった。
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