3-26:開戦
イザンカ王国はドドス共和国との開戦に向けてすべてが動いたいた。
『マジで開戦になるとはな~。でも俺だってオリジナルに慣れたぞ、ドドスが攻めてきたら蹴散らしてやるからな!』
エイジから風のメッセンジャーでそんな動画メッセージが来ていた。
本来はエイジとこんなことで風のメッセンジャーを使ってはいけないのだけど、オリジナルの搭乗者との事前打ち合わせということで使わせてもらっている。
「相変わらずだな、エイジは。さてと、返信のメッセンジャーをっと……」
言いながら動画を撮ろうとしてふと気づく。
そこにはミリアリア姉さんが立っていた。
「ミリアリア姉さん?」
「アルム……エイジに風のメッセンジャーですの?」
「うん、今返信をするところ」
私がそう言うと、ミリアリア姉さんは何となくもじもじしている。
私はふっと笑って、ミリアリア姉さんに言う。
「最初の所は余裕があるから、ミリアリア姉さんもエイジの奴に何か言ってやってよ?」
「いい……のですの?」
「どうぞどうぞ」
私はそう言いながらミリアリア姉さんに席を譲る。
ミリアリア姉さんはちょっとためらってからも風のメッセンジャーの前に座り、そのオーブに向かって手をかざし起動をしてメッセージを話し始める。
「エイジ、危なくなったらオリジナルを捨ててでも逃げないさいですわ! 『鋼鉄の鎧騎士』は何度でも作りなせますわ! でも操縦者はそうはいかないのですわよ! だから!!」
そこまで言ってミリアリア姉さんは席を立つ。
そのままどこかへ走り去ってしまった。
私は苦笑をして席に着き続きを話し始める。
「エイジ、ミリアリア姉さんの言うとおりだよ。『鋼鉄の鎧騎士』はいくらでも作り直せる。でも君はそうはいかない。危なく成ったら無理をせず逃げてね。あとことは僕たちに任せてくれても構わないからね。約束だよ、今度の『興輝の鎧騎士祭』はエイジのおごりで遊ぶんだからね!」
私はそこまで言って風のメッセンジャーを切る。
送信をして貝殻のようなふたを閉めてから走り去ったミリアリア姉さんの方を見る。
いつも口ではあんなこと言ってるけど、やっぱり姉弟は気になるんだよね。
そんな姉弟愛を目の当たりにして思う。
「エイジの浮気ものぉ~! 僕というものがありながら!! って、それは野暮だったな。さてと僕もいろいろ準備しなきゃ……」
そう言って私も私の出来ることを準備始めるのだった。
* * * * *
「開戦は三日後となる。国境の砦にはすでにキャノンタイプとタンクタイプ、それと一体の新型が送付された。数日後にはレッドゲイルからの増援も駆けつける。『草』たちの情報では予想通り見かけは国境街道側からのユエバの町制覇を目的とする動きだが、それは陽動部隊だ。本命はやはり西の森に作られた砦からのブルーゲイルへの奇襲攻撃だろう。予想ではレッドゲイルのの増援が国境の砦で開戦が始まったのを見て動き出すと思われる」
アマディアス兄さんは作戦会議室で今までの情報から予想を立てている。
こちらは「草」である諜報部隊と、ジマの国のローグの民が協力して入手した情報なので精度は高い。
「それと……イギナ伯爵、貴公は拘束させてもらう」
「なっ!? どういうことですか殿下!?」
「内通者をいつまでも放っておくわけはないだろう? 貴殿の流した情報はすべてローグの民が抑えている。貴殿は終わりだ。連れて行け!」
いきなりアマディアス兄さんはそう言ってイギナ伯爵を捕らえさせようとする。
「くそっ! かくなる上は!!」
そう言ってイギナ伯爵は私に向かって懐の短剣を抜いて襲ってくる。
なかなかいい判断だ。
無力な子供を血祭りにあげるか人質にとれば活路が見いだせるとでも思ったのだろう。
だが。
「アルム様への狼藉は許しません!」
「我が主への無礼、万死に値します!!」
「余計なことするでないニャ! アマディアス様のいうこと聞くニャ!!」
一瞬でマリーに手刀で短剣を叩き落され、アビスに顔をつかまれ床にたたきつけられる。
そしてカルミナさんが爪を伸ばしてその心臓を突き刺す。
「ぐっ!」
あまりにも一瞬のことに周りは固まっているも、イギナ伯爵が倒されると一斉に動揺の声が上がる。
「まさかイギナ伯爵が!?」
「内通者がいたのか!?」
「そんな!」
しかしアマディアス兄さんは静かな声で言う。
「静まるがいい。イギナ伯爵については残念だが、我がイザンカは負けることはできない。ドドスの無礼者たちに思い知らせてやるのだ!!」
アマディアス兄さんがそう言うと、その場にいた皆は一斉に立ち上がり、背筋を伸ばして右手を握って左胸の前に掲げている。
「イザンカのために心臓をささげよ!!」
「イザンカのために心臓をささげます!!」
こうして軍事会議は終わるのだった。
* * * * *
「アルム様、よろしいのですか?」
「うん、エイジは大丈夫だよ。問題はブルーゲイルに奇襲をかけてくる連中だよね。大型の魔獣も使役しているって話だから、こちらの『鋼鉄の鎧騎士』は新型三体と旧型七体。そしてキャノンとタンクが各一体ずつ。相手は少なくとも量産型が二十体。数の上では不利だからね……」
正直「鋼鉄の鎧騎士」同士の戦いではやや不利と思われる。
いくら新型が頑張っても連携をとれない旧型は今まで通りの一撃離脱の戦法しか取れない。
それに3号機は私以外が操った場合、私ほどの反応速度を見せなかった。
だからエイジほどの使い手はこちらのブルーゲイルにはいないこととなる。
「本当は僕が三号機に乗り込んで前線に出たいところだけどね。流石にそうもいかないだろう?」
「当然です。アルム様の身になにかあったらこのマリー、どのようにジュリア様に顔向け出来ましょう?」
ですよね~。
本当は私が出ていきたいのはやまやまだけど、そういうわけにはいかない。
まぁ、本気を出せばうちの連中だけで「鋼鉄の鎧騎士」を駆逐する事もできそうだけど、それは本当に最後の手段。
城内にはすでに準備が終わった兵士たちが街の城壁の各所へと移動を始めている。
傭兵部隊はすでに国境の砦に向かっているから、あの五体の中古の「鋼鉄の鎧騎士」が露払いをすることはない。
「この風、まさしく戦場だね……」
私はそう言って五号機に装着された魔光弾ランチャーを見上げるのだった。
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