2-28:収穫祭


「アルム、来たかっ!」



 そう言って元気よく私たちを出迎えたのはエイジだった。


「私たちもいるわよ!」


「エシュリナーゼ姉ちゃんもかよ。またミリアリア姉ちゃんと喧嘩は勘弁してくれよなぁ~」


 私たちはレッドゲイルに来ていた。

 ここレッドゲイルはブルーゲイルより作物が良く育つので、毎年のように収穫祭が行われている。

 なのでエイジとの約束でその収穫祭を見に来るのと同時に遊びに来たわけだ。


 ブルーゲイルからレッドゲイルまで大体馬車で二日の距離だけど、その間にもしっかりと魔物が現れた。

 ストレス発散か何か、今回はアビスとカルミナさんが率先して魔物退治してくれたおかげで難なくレッドゲイルまでたどり着いた。


 問題は馭者の人が現れた魔物たちに驚いていた事だったけど、上位モンスターと言われる部類が何故かちらほらと現れていた。

 キングオークとか、ゴブリンヒーローとか、オーガファイターとかが出て来たけどみんな瞬殺だったのが馭者の人を更に驚かせていたらしい。

 一応私に付いているこの護衛は特殊な精鋭部隊と言う事になってはいるけど。




「あら、アルムエイドよく来ましたわね。歓迎いたしますわ」


「ミリアリア、お久しぶり」


 いとこのミリアリア姉さんが私に挨拶してきたらすぐに間にエシュリナーゼ姉さんが割って入る。

 そしてにらみ合う二人。



「おかしいですわね、私はアルムエイドに挨拶したはずなのに何故姉がでしゃばるのですかしら?」


「私は今回アルムの保護者として来てるのよ。アルムはまだこんな可愛らしい年なんだから、何処かの雌猫に変なことされないように見張らないとね?」


「あらそうですの、エシュリナーゼ姉さん。ところで、そのような雌猫などこのレッドゲイルにはおりませんわよ?」



 ばちばちばち


 

 うん、姉たちの戦争には巻き込まれないようにしておこう。

 私はエイジに連れられて屋敷へと案内される。



「やあ、アルムエイド君よく来たね。歓迎するよ。それとエシュリナーゼにシューバッド、アプリリアにエナリアも来たのかい? 収穫祭は明後日に始まる。それまで家で十分休んで楽しんで行ってくれ」


 屋敷にはイザーガ兄さんがいて、笑顔で私たちを迎えてくれる。

 そしてサッと私の肩に手を回し、小声で聞いてくる。



「アマディアスがお嫁さんもらうって本当かい?」


「あ、はい。イータルモアって言うんですけどね。黒龍と女神様の孫娘に当たるそうです」



 私がそう答えるとイザーガ兄さんはにっこりと笑って言う。


「アマディアスのやつも年貢の納め時か! いい気味だ!!」


 そう言って極上の笑顔を浮かべる。

 もしかして、イザーガ兄さんってアマディアス兄さんとあまり仲が良くないのかな?


 そんな事を思っているとエイジが奥の部屋に私たちを呼び込む。

 そしてそこにはマルクス叔父さんがいた。



「親父殿! アルムたちが来たぜ!」


「エイジ! なんど言ったら分かるんだ!! 部屋に入る時はノックくらいせんか!!」



 いきなりマルクス叔父さんに怒られるエイジ。

 相変わらずだなぁ~。

 私は叔父の前まで行って挨拶をする。



「マルクス叔父さん、お久しぶりです。しばらく御厄介になりますけど、よろしくお願いします」


「相変わらず兄上の所の子供は良くしつけられておるな。アルムエイド、よく来た歓迎するぞ。収穫祭を存分に楽しんで行ってくれ」


 マルクス叔父さんはそう言ってにっこりと笑う。

 そしてそこへすかさずアプリリあ姉さんがお土産をサッと出して叔父さんに挨拶する。



「マルクス叔父様、お久しぶりです。アルム君同様しばらく御厄介になりますね!」


「ははは、わざわざこんな土産を持ってこなくてもいいのにな。だが有難くいただこう。アプリリアたちもゆっくりとしてゆくといい」


「はい、ありがとうございます!」



 その後もシューバッド兄さんやエシュリナーゼ姉さん、エナリアもちゃんと挨拶をしてマルクス叔父さんから頭を撫でられてたりしていた。

 一通り挨拶が済むと、エイジが私の手を引っ張って屋敷を案内してくれる。

 そして客間に通されてここで寝泊まりするように言われる。



「それではアルム様、皆様のお荷物も各部屋に運んでおきますね」


「それは良いんだけど、何故にマリーの荷物を僕の部屋に置くの?」


「いえ、アルム様の操を昼夜問わずお守りするのが私の義務ですので」


 いや、務めでなく義務になってるんですが……


 しかしそんな事を考える暇もなくエイジが部屋のバルコニーの扉を開く。

 途端に涼やかな風が入り込み、秋の香りを運んでくる。



「アルム、ここからだと畑も見えるんだ。見ろよ、今年も豊作だぜ!」


 そう言ってエイジは手招きしてくれる。

 私はバルコニーに行ってその外の様子を見ると……



 ぶわっ!



 風が吹き込んで一瞬目を細めるけど、眼下に見えるのは黄金の海原だった。



「凄い! こんなに麦畑が大きいだなんて!!」


「この畑はレッドゲイル最大の麦畑だからな。毎年この時期はここからの眺めが一番いいんだ。でも明日辺りから刈り入れが始まるからこの光景も今日限りだけどな。アルムに見せられてよかったよ」


 そう言ってニカっと笑うエイジ。

 年相応の屈託のない笑顔は、ストライクゾーンから外れていても良いモノだ。

 きっとあと数年して成長すれば私好みに成長してくれるだろう。


 うん、いろいろと楽しみが増えて良きかな♪



「うわぁ、凄いわねぇ。刈り入れ前の畑は初めて見たわ。噂通り黄金の海原ね!」


「ほんと、凄いですね~。これ全部小麦だなんて」


「うわぁ~うわぁ~すごいすごい!」


「これだけあれば食料も一年くらい持つんじゃないかな?」



 エイジとバルコニーで畑を見ていたら、みんなもやって来た。

 もうじき収穫祭も始まる。

 そして今年は豊作だったらしい。


 これは祭りも期待が出来そうだ。



「時にアルム、なんで私の部屋にあなたが来ないのよ?」


「そうですよアルム君、せっかくのお出掛け、私と一緒に居ましょうよ~」


「わたしもわたしも!」



 和やかに畑を見てたのに、姉妹が余計な事を言い出す。

 そしていつの間にかミリアリア姉さんも混ざって私と誰が一緒にお風呂に入るかモメ始めた。




「な、なぁアルム、俺も一緒にお風呂入っていいいか?」

 

「エイジ……君ってやつは」





 そんな中、鼻の下を伸ばしたエイジがこっそり私にそう提案してくるのだった。

  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る