2-27:レッドゲイルへ
シューバッド兄さんとエシュリナーゼ姉さんの努力あって、みんなでレッドゲイルに行ける事になってしまった。
「ふふふふふ、これでミリアリアの魔の手からアルムを守れるわ!」
「何とか許可をもらえたよ~。いやぁ、流石にエナリアも一緒って言うのは反対されたけど、エシュリナーゼ姉さんが面倒見るって事にしたから何とかなったよ~」
二人してそろって額の汗をぬぐって良い笑顔を見せる。
既にやり切った感満載だ。
「そうすると、いつ頃行けばいいのかな?」
「レッドゲイルの収穫祭は一週間後くらいに始まるから、そのくらいに行けばいいかな? レッドゲイルまでは馬車で二日くらいだからね、数日中に出発すれば大丈夫だろう。風のメッセンジャーでも僕たちが行く事は向こうへ伝えてあるからね」
シューバッド兄さんはそう言ってにっこりとほほ笑む。
この辺の手配の速さは流石だ。
アマディアス兄さんとは違うけど、仕事のできる男の子はお姉さん大好きよ!
中にいる私のシューバッド兄さんへの評価が上がる。
いやいっそお持ち帰りしたい。
このくらいの肌がまだ綺麗な筋肉の出来上がっていない男の子は思わずぎゅう~っと抱きしめたくなっちゃう♡
……今は五歳児の男の子だから無理だけど。
「でもそすると、何かお土産も準備しなきゃですね?」
「お土産??」
「流石に遊びに行くのに手ぶらでは行けないでしょう? 大丈夫、私に任せてねアルム君♡」
確かにアプリリア姉さんの言う通りだ。
遊びに行くとは言え、何かお土産くらい持って行かないと先方様に失礼となる。
頷く私にアプリリア姉さんは早速お土産を見繕う為に出て行った。
さてそうすると後はこいつらか。
「カルミナさん、アビス、聞いての通りレッドゲイルの収穫祭に遊びに行くから準備してね」
「に”ゃッ!? あたしも行くニャ!?」
「当たり前でしょ? 一応カルミナさんも僕と契約した間なんだから、それに表上は僕の護衛なんだよ?」
「そんニャ、イータルモアに先を越されるニャ!!」
「あきらめて、言うこと聞かないと強制力発動させるよ?」
「うにゃぁ~」
そうそう、カルミナさんもアビスも強制力と言うモノがあったらしい。
あの契約で左手に紋章が出来たのは主従関係の証らしい。
当人と言うか、使い魔の意思に対してこちらの言う事を聞かせるには魔力を込めた命令をその紋章に送り込めば言う事を聞くしかなくなるらしい。
もっとも、私の場合声に魔力を乗せただけでかなりの強制力になっているらしいけど。
しぶしぶ頷くカルミナさんに対して、普段あまりやることが無いアビスは少々嬉しそうだ。
「我が主よ、道中の護衛はこの私めにお任せを。立ちはだかる者はすべからく血祭りにあげて御覧に入れましょう。くっくっくっくっくっ!」
「いや、そこまで頑張らなくていいから……」
護衛としては十分に役には立つだろうけど、こいつの場合加減と言うモノを知らない。
下手に許可を出すとチリ一つ残さずに始末しかねないからね。
さて、こっちは良いとすると最大の問題は……
私は今日は午後からのエマニエルさんの授業の事を思い出すのだった。
* * * * *
「なんですって? レッドゲイルの収穫祭に行くのですか!?」
やっぱりエマニエルさんが目の色を変えた。
後ろには魔力充填がまだされてない回収された魔晶石が沢山転がっている。
一応は、各国にばらまく用のは準備が出来た。
アマディアス兄さんの婚約の発表と共に各国へ通知をすると同時に粗品として送り付けられるのが魔晶石。
そして婚約の発表と同時にその魔晶石が送りつけられ、今後イザンカは魔晶石を融通する事が出来る旨を書いた親書も同封されているから「草」やローグの民が流した噂も相まって、既にイザンカ王国の後ろ盾には黒龍だけでなく、女神様の息もかかっていると思われるだろう。
なにせ魔晶石は現在古代魔法王国時代のモノしか存在しなかったからだ。
ロストマジックアイテムとまで言われ、便利な魔晶石は使ったら最後二度と元には戻らないただの黒い石になってしまう。
古代魔法王国では通貨代わりに使われていたと言う程重宝された魔晶石だが、現代ではその生成方法が失われている。
それがイザンカ王国で出来るようになったとなれば、何処からかその技術か何かが支援があったと誰でも勘繰るだろう。
となればいち早く思いつくのが孫娘の婚約の祝いとして女神様からその技を教えられてもおかしくはない。
そしてそれは、イザンカ王国の後ろには女神様がいる事を暗示している。
と、言うのがアマディアス兄さんの目論見だ。
実際には偶然の産物の積み重ねと、私のやっちまったの結果だけど今の時代ではこれは大きな問題となる。
イザンカ王国はただの使えなくなった石を再利用できるようになって宝石と同じくらいの価値にして他国へと販売できる。
新たな産業の誕生となる。
既に事情を知ったアマディアス兄さんは、魔力量の多い魔術師をかき集め始めている。
量産体制を構築するためだ。
そして、その筆頭となるのがエマニエルさん。
私が改造した術式の魔法陣は渡してあるのでそれをコピーして魔晶石に魔力充填をすればいいのだけど、その術式の魔法陣がこれまた作るのが難しかったりする。
エマニエルさんですら、一つの魔法陣を作成するのに一週間かかるらしい。
さらに言えば魔力伝達を上げる為にはミスリルの粉を混ぜたインクが必要となり、その生成もめちゃくちゃ面倒くさいらしい。
ちなみに、あの時私がエマニエルさんの術式を解読再構築させたのは膨大な魔力に物言わせ、結構強引に術式自体を動かして形成したので、分かりやすく言うとA3のコピー用紙にびっしりと書かれた文字を、A6くらいのコピー紙に強引に圧縮したような感じだった。
「アルムエイド様ぁ~」
「はいはい、ちゃんとこれ準備してありますから。とりあえず十枚は有りますから何とかなりますよね?」
私はやはり魔力量に物を言わせて作っておいた術式を織り込んだ魔法陣が書かれた羊皮紙を十枚ほど渡す。
それを受け取り、エマニエルさんはぱぁっと明るい表情へと変わる。
「ありがとうございました! おかげで何とか間に合いそうです!!」
「良かったですね。と、エマニエルさんに聞きたい事があったんだ。オリジナルの『鋼鉄の鎧騎士』ってどう言うモノか」
私がそう言った途端、エマニエルさんの様子が変わる。
眼鏡のずれを直してからしゃきっとした趣で振り返る。
「オリジナルの『鋼鉄の鎧騎士』ですね? アルムエイド様、それにご興味があると言うのですね??」
「え、あ、ま、まぁ、せっかくレッドゲイルに行ってオリジナルを見せてもらえるって話なので予備知識としてもう少し詳しく知りたいかなぁって」
何だろう?
ただならぬこの雰囲気?
「いいでしょう、私が魔法学園ボヘーミャを首席で卒業した時の論文がまさに『鋼鉄の鎧騎士』についての考察でした。当然そうなるとオリジナルの十二体についてもいろいろと調べ、我がイザンカ王国に存在する一体についてもいろいろと調べました。アルムエイド様がご興味あるそうなので、この辺のお話はみっちりとお話をさせていただきますね!」
あ、しまった。
変なスイッチ入れちゃった。
技術屋もそうだけど、自分の研究したり深くかかわった事を聞かれると途端に饒舌になる。
そしていらない事まで事細かく説明してくれる。
エマニエルさんは今まさにそんな目の色をしている。
私はおののきつつエマニエルさんの饒舌たるその「鋼鉄の鎧騎士」についての考察を永遠と聞かされる羽目になるのだった。
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