2-14:手合わせその二
カルミナさんに代わって今度はアビスが広間に行く。
対する相手はカミューさんとか言う小柄の女性の騎士。
小柄ではあるものの、彼女は両の手にショートソードくらいの木刀を両手に持っている。
二刀使いと言う事だろうか?
「両者良いか? では始めっ!」
副団長は双方を確認してから開始の合図を送る。
と、まず初めに動いたのはカミューさんだった。
しかし他の二人と違って最初から「操魔剣」を使っていない?
普通にアビスに踏み込んで両の手に持つ短い木刀を打ち込む。
「ほう、なかなか」
その動きは見事に双方の木刀が別の意志を持つかのように動き回る。
実際に両手持ちの剣はどうしても意識が一点に集中してしまうので別々に剣が動くと言うのはかなりの上級者だ。
なにせ、前世の私は高校の時には剣道部!
宮本武蔵でさえ実戦では刀一本と言われる程に二本の刀を自在に動かすのは至難の業というのを知っている。
だって、実際に高校の時面白半分でやってみたけど難しいのなんの。
どうしても片方の動きに気を取られるともう片方の動きが鈍くなる。
しかしあのカミューって女騎士は、まるで手に持つ木刀が別々の意志があるかような動きをさせる。
実質同時に二人と剣を合わせているようなものだ。
「しかし私には届きませんね」
だがアビスはどれもこれも余裕で避けている。
そしてまだ一度も攻撃をしていない。
「『操魔剣』二刀流奥義、
が、完全にアビスの懐に入ったカミューさんが動きを見せた。
上下に大きく開いた木刀がまるで竜の顎のようにアビスに襲いかかる。
が、その一撃は上下ともに見えない壁でふさがれている。
「このタイミングで技を繰り出すとは、貴女、戦い慣れていますね?」
アビスは嬉しそうにそう言って指をパチンと鳴らす。
と、カミューさんは慌ててその場から横に転げるように身をかわす。
見ればさっきまでカミューさんの立っていた地面から土の槍が伸びていた。
「いい判断です。しかし詰めが甘い」
そう言ったアビスはまた指を鳴らすと、カミューさんの周りに黒い雷が発生する。
と同時にカミューさんは短い木刀を地面に突き刺し、身にまとっていた鎧を一瞬で空中に放り投げる。
そして、自分はつきたてられた木刀のそれより低く上体を伏せる。
ばちっ!
ばちばちばちっ!
黒い雷はカミューさんを襲ったと思った瞬間、宙にまう金属製の鎧や地面に突き刺された木刀に全て吸い込まれるかのように流れて行く。
「『操魔剣』無手奥義、
カミューさんは雷の一撃が自分を捉えてないのを確認すると、バチバチと電撃がスパークする中、まるでオオカミのようにアビスに飛び掛かり片手を伸ばす。
「無駄です」
が、やはり見えない壁に阻まれる。
しかしそこへカミューさんはもう片方の手を重ねるように打ち込む。
ばんッ!
ばばんっ!!
一体何をと思ったら、アビスがお腹を押さえた。
「あの子、あの若さで無手奥義、
思わずマリーが唸った。
そして珍しく驚きに目を見開いている。
「どう言う事?」
「あの技は、振動です。いくら固い壁や防具でも振動を伝えられればダメージは伝えられます」
はい?
振動って、波のあの振動!?
いやいやいや、ちょっと待ってくださいマリーさん。
確かにアビスの前には防壁が張られているでしょうけど、防壁とアビスの間には少なくとも五十センチはあるのよ?
その間に例え空気があったとしてもそんな激しい振動を繰り出すだなんて!!
だが、アビスがお腹を押さえたと言う事はダメージが届いている?
「少しはやりますね? こちらの世界で受肉して初めて触れられましたよ。だが、軽すぎる」
そう言うアビスはにこやかな顔のままだ。
あれって、まさかやせ我慢じゃないでしょうね?
「まいりました…… 私の負けです」
しかし、ここでカミューさんはその場で動かなくなり、両の手をだらーんとしたまま敗北宣言をした。
驚き彼女を見ると、肌のむき出しになった両の手が所々紫色になっていた。
驚きマリーを見ると、苦虫をかみつぶしたような表情をしている。
「『操魔剣』で無理をしましたね……実際には素では出来ない技を瞬時ではあるものの『操魔剣』で力を底上げして無手奥義、槌を使った反動ですね」
私の意を介したように解説をしてくれた。
しかしその無理が祟ったのだろう、彼女は両手を全く動かせないでいる。
「そ、そこまで!」
流石に副団長も状況を分かっていて、ここで終了を宣言する。
カミューさんはすごすごと戻ってゆくと、回復魔法が使える人がすぐにカミューさんの腕に回復魔法をかけている。
「くっくっくっくっくっ、なかなかでしたね。この私に一撃を入れた事を誇りに思う事ですね」
そんな彼女にアビスが珍しく賞賛の言葉をかけた。
が、副団長はそれを聞いてアビスを睨みながら次の対戦者を呼ぶ。
「ロッゾ! カミューに恥じぬ戦いをしろ!」
「はっ!」
呼ばれたロッゾという男性はアビスを睨みながら広場に足を進めるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます