1-34:模擬戦


 どうしてこうなった……




 私は広場に対峙するカルミナさんと鋼鉄の鎧騎士の模擬戦を目の当たりにして頭を抱えていた。



「なぁ、アルム。カルミナさん大丈夫なのか?」


「エイジ…… 僕に聞かないでよ。カルミナさん自身はホリゾン公国の『鋼鉄の鎧騎士』に勝ったとか言ってるけど。本当かどうか……」


 この模擬戦が始まる前にカルミナさんに聞いた。

 いくら何でも未経験の者が「鋼鉄の鎧騎士」に模擬戦を挑むのは無茶過ぎると。

 しかしカルミナさんは笑って言う。


「大丈夫ニャ、前にホリゾンの『鋼鉄の鎧騎士』とやり合って勝ったニャ!」


 自信満々にそう言うカルミナさん。

 カルミナさんが普通の人より強いのは知っている。

 しかし相手は「鋼鉄の鎧騎士」。

 アビスや過去引き分けになったマリーならいざ知らす、獣人であるカルミナさんには酷ではないのだろうか?




「それでは模擬戦はじめ!!」



 アンマンさんの掛け声と共に模擬戦が始まる。

 これってどう考えてもカルミナさんの方が不利では?


 そう誰もが思っていた矢先だった。



『悪いがこれで終わりだ!』


 「鋼鉄の鎧騎士」を操縦している騎士がそう言ってあの巨体の割りにかなり早い動きで一気にカルミナさんの間合いを詰める。

 そして木刀でカルミナさんを薙ぎ払おうとするも、カルミナさんが目の前から消える。



『なにっ!?』



「確かにホリゾンのより早いニャ。でもあたしには追い付けにゃいのニャ!」


 そう言って、いつの間にかカルミナさんは「鋼鉄の鎧騎士」の後ろに回り込み、膝の裏を思い切り蹴飛ばす。

 まさしく膝カックン状態!


 流石の「鋼鉄の鎧騎士」も不意打ちに近いこれにはバランスを崩して倒れそうになる。

 が、流石に重量差があり過ぎる。バランスを崩すも倒れる事無く「鋼鉄の鎧騎士」は立て直そうとすると、今度はいつの間にかカルミナさんは「鋼鉄の鎧騎士」の胸元至っていた。



「遅いニャ!」



 そう言ってカルミナさんは「鋼鉄の鎧騎士」の頭を思い切り全体重を乗せたドロップキックをかます。

 いくら「鋼鉄の鎧騎士」でもバランスを崩した所へ一番上の頭部に衝撃を受ければバランスを完全に崩す。


 カルミナさんは頭頂部にドロップキックをかました勢いのまますぐに背後にまわり、もう片方の膝裏に膝カックンを回し蹴りをしながら行うと、完全にバランスを崩した「鋼鉄の鎧騎士」がとうとう上を向いたまま地面に倒れる。



 どばったぁ~ん!!



『ぐぁっ!』


 土ぼこりを立てながら「鋼鉄の鎧騎士」は仰向けに倒れる。

 そしてその上にカルミナさんはさっと登り片腕を上げて宣言する。



「倒したニャ! あたしに勝ちニャ!! お腹見せて倒れれば服従ニャ!!」



 そう言ってキャイキャイと喜ぶ。


 あ、えーと……



「そこまで! 勝者カルミナ!!」



 だがここでアンマンさんが大声でカルミナさんの勝利宣言をする。

 カルミナさんはすぐにアマディアス兄さんの前まで来て犬の様に尻尾とお尻を振ってアピールをする。



「アマディアス様! あたし勝ったニャ! ご褒美に一緒にお茶するニャ!!」


「うむ、見事。分かった、後で茶の用意をしてやろう」


 そうアマディアス兄さんに言われてカルミナさんは、ぱぁっと明る顔してお大喜びする。



「やったニャ! アマディアス様とお茶ニャ!! これでアマディアス様のハートは鷲掴みニャ!!」



「いや流石にそれは……」


「いいいなぁ、オレもカルミナさんとお茶したいなぁ」


 大喜びするカルミナさんだけど、アマディアス兄さんをお茶会くらいでどうこうできるとは思わない。

 というか、この前もいつも一緒にお茶飲んでなかったっけ??

 それとエイジ、君もしょっちゅうカルミナさんと一緒にお茶してるんだけど。

 うちの国って、お茶会ってなんか特別の意味あったっけ?



「ふん、猫の割りにはなかなかやりますね。確かにいくら『鋼鉄の鎧騎士』でも倒されてしまえばかなり不利ですからね。あの状態で数の暴力に蹂躙されれば流石に身ぐるみはがされ凌辱されますからね」


「マリーさん言い方ッ!」



 マリーはその様子を見てなぎなたを振って前に出る。



「次は私がお相手しましょう」


 そう言って起き上がった「鋼鉄の鎧騎士」の前に歩み出る。

 何故かこれにはみんなが前のめりになってその様子を見る。




「ブラッドマリーが相手か…… いいだろう、五年前の屈辱晴らす時だ! 両者準備はいいか? それでは模擬戦はじめっ!!」



 何故かアンマンさんもやる気満々で模擬戦開始の合図をする。

 それに呼応してマリーがいきなり飛び掛かる。



「操魔剣なぎなた奥義、疾風!!」



 マリーは踏み込み二歩目で爆発的な動きをする。

 構えたなぎなたに全体重を乗せて「鋼鉄の鎧騎士」へと突っ込む。

 それを盾で迎撃しようとする「鋼鉄の鎧騎士」だが、途中でマリーは地面に足を着けたと思ったらその軌跡が一気に変わった。

 そして盾の無い胸元にその一撃が入る。



 ぎゃりんっ!



『くそ、以前より動きが!!』


「まだまだです! 操魔剣なぎなた奥義、昇竜!!」


 ぐらついた「鋼鉄の鎧騎士」にマリーは止まらず次の技を放つ。

 それは正しく上り上がる竜そのもの。

 マリー自身も回転しながら周りの空気をまとって上空へとなぎなたを突き上げる。

 それになんとあの巨体の「鋼鉄の鎧騎士」の鎧騎士が吸い上げられ、その足元を浮かせる。



『なっ!? バカなっ!?』


「例え『鋼鉄の鎧騎士で』も空中では身動きが取れませんよね? 行きます、操魔剣なぎなた奥義、雷落としっ!!」



 まるで空中に足場でもあるかのようにマリーは上空から一気に「鋼鉄の鎧騎士」に襲いかかる。

 しかもその動きが自由落下で無く、ジグザグにまるで雷の様にその軌跡を読ませない動きをする。

 いや、これもう人の動きじゃない!!


 銀色の髪の毛がキラキラと光りながら閃光の如く「鋼鉄の鎧騎士」を襲う。



『うわぁっ!!』



 ガガガガガガっ!!!!



 一体何か所を切りつけたか、空中で「鋼鉄の鎧騎士」の体中から火花が上がる。

 そしてそのまま地面にたたきつけられた。



 どぉーんっ!



 すたっ。


 マリーは何事も無かったかのように地面に降り立ち、ポニーテールになっている銀色の髪の毛をはらりと後ろに撫で払う。

 そして長刀の刃をすっと見て落胆する。


「流石に「鋼鉄の鎧騎士」ですね、刃が欠けてしまった」


 いやいやいや!

 それ刃がこぼれる程度の問題じゃないって!!


 思わず唖然として見てたけど、これカルミナさんの戦い以上にとんでもない。



「そ、そこまで! 勝者ブラッドマリー!」


「すみませんがその二つ名、やめていただけませんか? 今はアルム様の専属メイドですので」


「う、うむ、勝者マリー!!」


 じろりとアンマンさんを睨むマリーに思わずたじろいでアンマンさんは勝利宣言を言い直す。

 と、マリーがすぐに私の所に来て、まるで尻尾でも生えたかのよううに嬉しそうに言う。



「ご覧になられましたかアルム様? しっかりとアルム様の為に『鋼鉄の鎧騎士』を倒してまいりました。それで、その、出来れば私もアルム様とお茶会をしたく存じ上げます///////」


 いやマリーさん、何故そこで赤くなる?

 お茶会って何!?

 普通にお茶飲むだけだよね??


「あ、うん、分かった。すごかったねマリー」


「はい♡」


 なんか今日一番の笑顔のマリーさんだった。



「くーっくっくっくっくっ! 皆さんやりますね? これは私も少しは本気を出さないといけませんね?」


「いやちょと待て! アビスは本気出しちゃダメっ!!」


「おや? そうすると主様は指先一つでダウンさせろと言うのですか? 何なら華麗に切り刻んでもよろしいのですが?」


「それもだめ! ひでぶもひょぉーもダメぇっ!!」


 アビスは嬉しそうにそう言うも、こいつが本気なんか出しちゃったらとんでもない事になる。



「あまり目立たない程度にお願いします!!」


「我が主がそうおっしゃるなら。分かりました、あまり目立たない程度ですね?」


 そう言ってアビスは中央の広場に赴く。



 本当に大丈夫なのかこいつ?

 私は心底不安でならなかったのだ。


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