1-33:国境の砦
馬車に揺られながら一日ちょっとでうちの国の国境の砦と言う所へ到着した。
「へぇ~、あれがうちの国の国境の砦か? 結構デカいな」
「そうだね、なんか小さな村くらいあ入りそうだね?」
それは高さ十メートルくらいはありそうな城壁に囲まれたところだった。
イージム大陸はどこもかしこもこのくらいの城壁を持っている町や村ばかりだ。
それはこの過酷な大陸で生きていくためには必要不可欠のものであって、これが無いとすぐに魔物などにやられてしまうからだ。
「アルム! 見ろよ、『鋼鉄の鎧騎士』だ!!」
エイジが砦を指さしながらそう言う。
私もつられてそちらを見ると、大きな門が開かれそこから巨大な人型の全身鎧をまとった巨人が出て来た。
「あれが『鋼鉄の鎧騎士』……」
そう言えば初めて見る。
今まで城にいても「鋼鉄の鎧騎士」を間近で見る事は無かった。
「鋼鉄の鎧騎士」は国防の要でもあり、大型の魔物が街の近くや街道で発生した場合はそれの駆除に出るのが普通だった。
だから城内で見る事は無く、また修理などは専用の工房へ行くのでまず見る事は無い。
だが今私の目の前にはその巨体を動かし、門の左右にまるで仁王像の様に立ち並び、私たちが到着したのを歓迎している。
「凄い、あれが『鋼鉄の鎧騎士』なんだね!」
「アルムは初めて見るんだっけ? だったらレッドゲイルのオリジナルも見なきゃ損だよな~。伝説の十二体のうちの一つだもんな!」
そう言えば、イザンカ王国の守り神的に言われているオリジナルの「鋼鉄の鎧騎士」。
魔王が作ったと言われる十二体のオリジナルは、劣化もせず通常の「鋼鉄の鎧騎士」よりもはるかに高い出力を誇り、そしてその体はミスリルで出来ていると言われている。
ほとんど神話級の強さを誇り、言い伝えではガレント王国のティナア姫が駆った機体は真紅のイナズマと言われる程で、あの「女神殺し」の赤竜との戦いにも勝利されたと言われている。
「魔道の結集とも言われる『鋼鉄の鎧騎士』かぁ。もの凄く興味をそそるよね」
「お前は魔術に関してはやたらと興味があるよな。まぁ、オレもそうなんだけどな」
エイジと二人、馬車の窓から「鋼鉄の鎧騎士」を見上げながら国境の砦へと私たちは入ってゆくのだった。
* * *
「殿下、ようこそおいでくださいました」
「うむ、ご苦労。変わりはないか?」
「はっ、この砦は完璧であります。どうぞごゆるりとなさっていってください」
砦について馬車から降りると偉そうな人が早速アマディアス兄さんの前で膝をつく。
そしてその後ろにも何人もの兵士たちが同じように膝をついていた。
この砦はイザンカ王国の最南端にある砦。
ここより南はドドス共和国領となる訳だけど、正直森や林が見えるだけであとは街道くらいしか見えない。
周辺には村すら見えないけど、ここってどうやって生活を……
そう思いながら周りを見渡すと、あっちに畑?
こっちには家畜??
いや、なんか住民みたいのがいる??
「アルム様、ここイザンカの国境砦は一つの村と言っても過言ではございません。他の村や町同様城壁内で無ければ生活が出来ませんから」
マリーがしっかりと解説してくれる。
なるほど、そりゃそうだ。
基本的には自給自足が原則だもんね。
そうするとあっちにいるのは民間人?
「それじゃぁ、あっちにいるのはここの人?」
「ほとんどが兵士たちの家族ですね。兵士たちも基本はここで暮らしている訳ですから、一緒に畑や家畜の飼育をしてます」
あー、なるほど。
つまり最前線の村って事か。
そうなれば何か有った時はその団結力も必死さも変わってくるもんね。
意外とえぐいな、イザンカ王国。
「こちらがアルムエイド様ですか?」
「ああ、我が弟だ。厄介になる」
その偉そうな人はアマディアス兄さんにそう言って私を見る。
そして膝をついたままこちらに顔を向ける。
「お初にお目にかかります、アルムエイド様。砦の責任者アンマンと申します。どうぞ以後お見知り置きを」
「あ、アルムエイドです。よろしくお願いします」
そんな感じでエイジにも挨拶をしてこの砦を案内してもらう事となったのだ。
* * *
「そうですか、ドドスが……」
「まだ確定したわけではないがな。こちらも細心の注意を払ってくれ」
「分かりました」
軽く砦を案内してもらってから応接室に通される。
そしてしばしアマディアス兄さんとアンマンさんは話をする。
まぁ、私が襲われた所までは流石に話さないけど、道中グリフォンの群れに襲われたとか、ユエバの町でも色々あった事とか、カリナさんの推測も話をした。
アンマンさんはそれらを聞き、人を呼んで何か指示をしていた。
「我々としましても何時ドドスが攻め入るか分かりませんので要注意いたしましょう。時に、ジマの国に現在黒龍様が不在とは本当ですか?」
「カリナ殿の話だ。多分間違いないだろう。もっともエラルド殿は微塵もそのそぶりは見せなかったがな」
アマディアス兄さんはそう言ってお茶を飲む。
だけどアンマンさんはにっこりと笑って兄さんに応える。
「大丈夫ですよ、お任せあれ。ここには『鋼鉄の鎧騎士』が五体もあるのです。生半可な戦力では落とせませんよ」
「そうだな、我が国保有するニ十体中五体も配備しているのだからな」
そうか、さっき見た二体以外にまだ三体もあるのか。
後でもっとよく見せてもらおう。
「アルム、アルム。これ終わったら砦の探索しよーぜ!」
「あ、いいね。でもちゃんとアマディアス兄さんに許可もらわなきゃね」
「ああ、楽しみだな!」
まだ話は続きそうだったけど、私とエイジはこそこそとそんな話をするのだった。
* * *
「ここが『鋼鉄の鎧騎士』の格納庫かぁ」
見上げるとそこには椅子に座ったかのように「鋼鉄の鎧騎士」が三体座っていた。
その周りには足場が出来ていて、整備士らしい人たちがうごめいていた。
「『鋼鉄の鎧騎士』、全く厄介な相手です」
マリーはそう言ってそれらを見上げてため息を漏らす。
そう言えばマリーは元ジマの国の騎士だって聞いた。
と言う事はイザンカとは元は対立する存在?
「マリーは『鋼鉄の鎧騎士』に乗った事あるの?」
「まさか。これは国家機密ですよ? 模擬戦はした事ありますが」
いやちょっと待ってくださいマリーさん?
今、模擬戦て言いました??
相手は「鋼鉄の鎧騎士」ですよ??
「した事、あるんだ……」
「ええ、スピードでは勝っていましたがあの装甲、何をやっても刃が通りませんからね。本気で打ちこんだ技が肩の関節を捕らえなければ引き分けに出来ませんでした」
「ちょと待って、引き分けにしたの!?」
「ええ、勿論。こちらにも意地がありますから」
いやいやいや、意地でどうにかなる相手なの!?
「くっくっくっくっくっくっ、流石マリーさん。私の防壁を破壊するだけの事はありますね? しかし私だったらこんな鉄くずには遅れは取りませんよ?」
「『鋼鉄の鎧騎士』ニャ? イザンカのはスピードが速いけどパワーが無いって聞いたニャ。にゃらあたしだって負けないニャ!」
「ほほう、面白い事を言いますね? 我がイザンカの『鋼鉄の鎧騎士』が確かにパワー不足は認めますが、そこまで容易に制せると思っているのですか?」
マリーとそんな話をしていたらアビスとカルミナさんが余計な事を言い始める。
当然今はイザンカ王国に身を置くマリー。
聞き捨てならないとばかりに二人を睨む。
「ちょちょっと、止めてよ。みんながすごいのは分かったから、ここの人たちに迷惑かかるような事は……」
「いいでしょう、それでは『鋼鉄の鎧騎士』の恐ろしさ、特と味わうがいいでしょう!! アンマン殿!!」
「おおっ! 模擬戦ですな? 今度は負けませんぞマリー殿!!」
「え、あ、ちょちょっと!?」
「ふむ、久しくマリーと『鋼鉄の鎧騎士』の模擬戦か。五年前の決着が今ここで決まるのだな!」
いつの間にかアマディアス兄さんも来ている!?
「許す! 存分に戦うがいい!! マリー、今度はあの時の様にはいかんかもしれんぞ?」
「アマディアス様、私はアルム様の剣となり盾となる存在。あの時の私とは一味も二味も違います!」
「くーっくっくっくっくっ、この私に『鋼鉄の鎧騎士』如きがかなうとでも?」
「イザンカの『鋼鉄の鎧騎士』は初めてニャ! ホリゾンのやつより強いかニャ?」
え、えーとみんな?
既にやる気満々のみんなを前に私は頭を抱えるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます