Time river
星之瞳
第1話繋いだ手
「放して!放して!!」
「駄目よ!ここは走り回る所ではないの。行きたいところには一緒に行かないと」
「嫌だ!!!!!」と言いながら逃げようとするが私は絶対手を離さない。一度手を離したら、ものすごい勢いで走り出し、迷子になるくらいならいいが、道路に飛び出したりしたら危険。航太を連れての買い物が終わるといつもぐったりなっていた。
そんな私を見かねてか、
「航太を幼稚園の年少から通わせないか?」と主人から提案があった。
「幼稚園に?」
「ああ、幼稚園で思いっきり動けば少しは落ち着くだろう」
「でも、早生まれよ」
「そんなの関係ないよ。それに幼稚園に行っている間は君少し休めるだろう」
「ありがとう」
こうして航太は3歳で幼稚園に通うことになった。
だが新たな問題が、幼稚園バスのバス停に行くまでが大変なのだ。
手を繋いで行くのだが、航太は興味があると走り出そうとする。力が強くなって手を離さないように必死になった。
だが、数か月もすると航太は少し落ち着いてきた。おとなしく手を繋ぎながら歩くようになってきた。それでも私は気を張ったままだったが。
そして年長になると手を繋がなくてもよくなった。私の緊張も解け、道すがら色々話をするようになった。
航太の成長を喜んでいたが、一抹の寂しさを感じていた。大変だったけど手を離さないよう強く手を握っていた日々が懐かしく思えた。
時は過ぎ、航太は成人し、就職。数年後には結婚して男の子と女の子を授かった。
『もしもし母さん、久しぶり元気?』
「元気だよ、どうしたの電話なんて久しぶりだね」
『
「ふふふ」
『なんだよ、笑い事じゃないって』
「だって、あなたがそうだったんだもの。『放せ!放せ!』って言い張って苦労したわ。お父さんがね見かねてあなたを年少から幼稚園にやったのよ。血は争えないわね。まあ数年すれば落ち着くと思うけど」
『え!俺そうだったの、あちゃ~全然覚えてない。ごめんね母さん苦労掛けて』
「いいのよ。年長さんになって手を繋がなくなったころには寂しくなったくらいだから。慶太くん保育園行ってるんでしょう。だったらしばらくすれば落ち着くわよ。
『ああ、まだよちよち歩きだよ。外ではまだ歩けない』
「歩けるようになったら、手を引いて散歩したいわね。楽しみだわ」
『散歩できるようになったら帰省するよ』
「約束よ」
電話を切った私は、慶太の手を引いた時の事を思い出していた。本当に航太そっくり。
「そんなに早く歩けないからゆっくり歩いてお願い」と言ったものだった。
だが、孫たちの手を引けたのも小学校に入る前まで。それ以降は手を繋ぐことも無くなっていた。
時は止まらない。川のようにどんどん流れていく。
私は喜寿を迎える年になっていた。主人に数年前に先立たれ、息子夫婦と同居している。体も思うように動かなくなってきて足元がおぼつかなくなってきた。
すると外出の時など息子や嫁、孫たちが手を引いてくれるようになった。
「おかあさん(おばあちゃん)そっちに段差があるよ。手を離さないで」
手を引く立場だったのに、今ではでは手を引かれるようになった。でも優しい家族に囲まれて私は穏やかな余生を送っている。
Time river 星之瞳 @tan1kuchan
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