転生男装悪役令嬢!のお助け役

黒丸

第1話ヤミガラスの少女

 ︎︎ヤミガラス。

 ︎︎夜の闇に紛れ、国の闇を屠る者。

 ︎︎国王の命令の元で活動する諜報兼暗殺部隊。

 ︎︎たまに生まれる黒髪の子。

 ︎︎世間から疎まれる黒髪の子。

 ︎︎国王直々に隠された場所で生きる人々。

 ︎︎殺すことを望まない。

 ︎︎死ぬ事だって望まない。

 ︎︎黒髪を悔やんでも色は変わらない。

 ︎︎ならば闇に溶け込もう。

 ︎︎死ぬまで知らないふりをして。

 ︎︎家族と、仲間と楽しく過ごすため。




???の日記より引用


『エルシェ、黒髪に産んでしまってごめんね』


 ︎︎これは僕の母、アリアがよく言う言葉


『お前を人殺しとしてしか育てられない、本当にすまない』


 ︎︎これは僕の父、ルーカスがよく言う言葉


 ︎︎2人の言葉を理解する前は、ここにいるみんな黒髪なのになんで謝るんだろう。

 ︎︎実際に言うと母は泣き、父は苦虫を噛み潰したような顔で謝ってきた。

 ︎︎5歳の時、村の外に連れて行って貰った。

 ︎︎初めて親の、いや僕らの仕事を知った。

 ︎︎村の会議で全て聞いた。

 ︎︎子供ながら何となくは分かっていた。



 ︎︎外に黒髪の人は一人もいなかった。



「エルシェ、この国、世界で有名なおとぎ話をしようか」


「どんなお話?」


「俺たちが隠れて過ごさなくてはならなくなった昔々のお話さ」


「歴史?」


「そうだね、それに近い」


「勉強?それともただのお話?」


「どちらも、かな」


「面白い?」


「人による、けど俺たちは辛いかな」


「僕は?」


「分からない、けど俺たちはこんなヤツらにはなれない、それだけは⋯分かってくれ」




昔々、黒髪と桃色髪の双子が産まれました

その子らは特別だ!神からの贈り物だ!と、騒がれました

しかし、10歳の頃双子は変わりました

桃色髪は瀕死の青年の傷を光の魔法で癒し

黒髪は森から出てきた魔物を闇の魔法で倒しました

最初は2人を褒めたが黒髪の方は怖がられました

なんて強い力なんだ、いつか我らに危害を加えるかもしれない

次第に桃色髪は幸福を、黒髪は不幸を運んでくると噂されました

黒髪はそんなことには耐えきれず逃げ出した

逃げ出す内に魔物が仲間になりました

魔物に唆され、黒髪は魔王となりました

兄弟が魔王になったことで桃色髪は悲しみました

弟を撃てるのは兄である自分しかいない

そう思い、勇気を振り絞って魔王のいる城へと向かいました

桃色髪は涙を流し謝りながら魔王を撃ちました

生還を果たした桃色髪は勇者と呼ばれ始めました

勇者は子孫に言葉を残した

もし、また魔王へとなってしまった者がいたら

説得してくれ、無理なら殺してくれ

黒髪の者を追い詰めてしまうこの力を持ったから

それが桃色髪として、光の魔法の使用者として産まれてきた者の責任だ




「おしまい。」


「父さん、この内容ならなんで僕らは疎まれるの?」


「これは有名な物語の裏話。」


「裏話?」


「そう、勇者の子孫と黒髪の者、そして王族しか知ることが出来ない事実。」


「なんで、これを世間に出さないの?」


「昔、これを世間に言った者は勇者を侮辱したと殺されてしまったよ。」


「そんなに、勇者がすごいと思えない。」


「息があればどんな病気でも寿命以外は治せる、こんな奇跡としか言えない魔法を使えるからね。」


「勇者の子孫はみんな使えるの?」


「いいや、勇者の子孫でもピンク髪の子しか使えない。」


「そうなんだ。」


「けど、そんなことはもう忘れられてるけどね。」


「えっ、じゃあ子孫は今どうなっているの?」


「みんなとても強くて国の為に戦っているよ、た沢山の声援と共にね。」


「僕らと違うね、やってる事は同じなのに。本当に光と闇だよ。」


「⋯そうだね。ごめんね黒髪なのに子供を産んでしまって。」


「いいよ。黒髪じゃないかもって希望があったんでしょ?僕こそ黒髪でごめんね」


「いや、俺らの元に産まれてきてくれてありがとう。俺たち2人は幸せだよ。」


「僕だって2人の子供で良かった。」












「ふぅ⋯」


 ︎︎エルシェは溜息をこぼした


「大丈夫か?」


 ︎︎ルーカスは心配そうに聞いた


「うん。人殺しって結構きついね。あの死が近づいたことに気付いた絶望の顔がまだ瞼に焼き付いてるよ。」


 ︎︎そう言って少し震えた右手で右目を抑えて、先程の光景を思い出した


「ほんとに、すまん。」


 ︎︎苦い顔をして、下を向き謝った


「また謝った。もう7歳だよ、7年間で聞きあきたよ。」


「けど⋯」


 ︎︎そういいルーカスは下の方に見える煌びやかな光を見つめた


「8歳のお披露目パーティーだっけ?少し羨ましいとは思うけど、なんで僕だけとかは思わないからね?」


「なんでそんなに達観してるんだよ。」


「ルーやアリーも同じだった。もちろん村のみんなも。だから僕だけでは無い。それが心の支えになってるのかも。」


「そうか。」


「この前来たあいつらの為にも僕が悲しんでたらダメだとも思ったし。」


 ︎︎ヤミガラスにはルールがある。

 ︎︎子供の頃は個人情報を守るため、必ず一人称は僕、髪は短く切る

 ︎︎そして名前は愛称で呼び合うこと


「逃げ出したっていいんだぞ。俺が誤魔化してやる。」


「別にいいよ。逃げ出したかったら国王様に交渉してやる。」


「流石。エルには口で勝てる気はしないな。」


「本読んで語彙を増やしたら?」


「本嫌いだって知ってるだろ?」


「それでも、読んで損は無い。」


「⋯善処する。」


「じゃあ帰ろっか。」


「あぁ。」






「国王陛下、お願いがあります。」


「聞こうじゃないか。我が愛しのエルよ。今日もクルクルの癖毛が可愛いな!」


「ありがとうございます陛下。」


「気楽にしてくれ!ここには私以外いないのだから。」


「では、クランゼート公爵令嬢の監視を僕に変えてくれ。」


「ふむ。理由わけを話せ。」


「彼女の突然の性格の変化、それが何かあるのではと我らに監視の命を下していますよね?」


「あぁ。そうだな。」


「その任務を行っている者が、我々の中で1番弓の扱いが上手んですよ。そして、子供らがそろそろ弓術の訓練が入ります。なのでその者を村へ返して頂きたい。」


「なら、なぜお前なんだ。他の者もいるだろ?」


「あの者以外、表情を殺すことに慣れていたり寝不足であったりで顔が怖いのです。何より年齢が近いと採用される確率が高いとみました。」


「しかし⋯」


「採用されなければ諦めます。もし、採用されれば休日や時間が空きそうな時に直ぐに会いに来ますので。」


「休日は必ずなのだな?」


「はい。」


「ではいつもより回数が増える可能性の方が高いのでは!?許可しよう。」


「有難き幸せ。では僕は監視に事情を説明してきますので。」


「ま、まってくれ!エルゥゥウ!!」

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