扇風機の囁き

O.K

第1話:扇風機の囁き

主人公の佐藤健一は、ある日リサイクルショップで一台の扇風機を購入した。それは古びているが、どこか魅力的なデザインで、健一の目を引いた。店員からも「特に問題はない」と言われたので、健一は迷わず購入を決めた。


家に帰ると早速扇風機を設置し、その涼しい風に心地よさを感じながら眠りに就いた。しかし、三日後の夜、深夜に目が覚めた健一は、トイレへ向かうため寝室を出た。トイレから戻る途中、健一は寝室から何かが聞こえるのに気づいた。部屋の扉を少しだけ開けると、確かに声がする。それは、低く囁くような女性の声だった。


「だれ...?何かの聞き間違いだろう」と自分に言い聞かせ、健一は扇風機の前で立ち尽くした。確かに扇風機の音と一緒に、かすかに女性の囁きが混じっているように聞こえる。恐怖を感じつつも、健一はそのまま扇風機のスイッチを切り、再び眠りに就いた。


次の日から、健一は奇妙な夢を見るようになった。その夢には、毎回同じ女性が登場する。彼女は長い黒髪を持ち、白い着物を纏っており、扇風機の前に立っている。彼女は何かを伝えようとするかのように健一に手を伸ばすが、いつも目が覚めてしまう。


その夢が続くにつれ、健一の不安は増していった。ついに彼は扇風機を処分することを決意した。次の休日、健一は扇風機をゴミ収集所に持って行き、他のゴミと一緒に置いてきた。


しかし、その夜、玄関を開けた健一は驚愕した。扇風機がそこにあったのだ。確かに処分したはずの扇風機が、何故か自宅の玄関前に戻っていた。信じられない思いで、健一は再び扇風機をゴミ収集所に持って行ったが、翌朝にはまた玄関に戻っていた。


この奇妙な現象に耐えられなくなった健一は、扇風機を家から遠く離れた場所に捨てることにした。山奥の廃棄場まで車を走らせ、扇風機を捨てた健一は、ほっと胸を撫で下ろした。


だが、翌日の朝、健一が玄関を開けると、そこには再び扇風機が鎮座していた。もう逃げ場はないと感じた健一は、その夜も扇風機の前で囁く声を聞きながら、夢の中で女性と再び会うことになった。


彼女の手は、どんどん近づいてきた。健一はその手を取らないように、必死に目を覚まそうとしたが、目覚めることはできなかった。


扇風機の風が健一の顔に当たり続ける中、彼の耳元で女性の声が囁く。


「あなたも、ここにいるべきなのよ...」


その言葉が何を意味するのか、健一はもう知る術はなかった。彼は深い眠りに落ち、そのまま目を覚ますことはなかった。翌朝、彼の家の玄関には、再び扇風機が静かに置かれていた。

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