【完結】追憶

第1話 傷痕

能古島の夕暮れは、赤く染まる空と穏やかな海が一体となり、まるで絵画のような美しさだった。しかし、その美しさとは対照的に、島の住民たちの心には深い悲しみと不安が広がっていた。名探偵の三田村香織と藤田涼介は、最近解決した殺人事件の余波を感じていた。犯人は捕まったが、被害者や加害者の家族の心にはまだ癒えない傷が残っている。

「涼介、この島の空気はどこか重いわね」香織は海を見つめながら呟いた。

「そうだな。事件は解決したが、彼らの心の傷はまだ深い」と涼介は応えた。

「私たちの仕事は、まだ終わっていないわ」と香織は決意を新たにした。

翌日、香織は被害者の妹である佐々木真由美に会うため、能古島のカフェに向かった。カフェの窓から見える風景は、どこか懐かしさを感じさせるもので、心を落ち着かせる効果があった。香織はコーヒーを頼み、真由美が来るのを待った。

少しして、真由美がカフェに入ってきた。彼女の顔には疲れと悲しみが滲んでいたが、それでもなんとか微笑んでいた。

「香織さん、今日はありがとうございます」と真由美は静かに言った。

「いいえ、こちらこそ来てくれてありがとう。少し話しましょう」と香織は答え、真由美に席を勧めた。

真由美がコーヒーを注文し、二人はしばらく無言で過ごした。その静寂が、どれだけ真由美が傷ついているかを物語っていた。

「姉の彩香について、何か話したいことはありますか？」香織は優しく尋ねた。

真由美は涙をこらえながら、口を開いた。「彩香は…いつも明るくて、皆に愛されていました。あの夜も、彼女は新しい観光プロジェクトについて話していて、すごく楽しそうでした。でも…」

「でも？」香織は促した。

「健二さんがあんなことをするなんて、誰も思っていませんでした。彼はただの漁師で、そんなことをする理由なんて…」真由美は言葉を詰まらせた。

「それが事件の真実なのよ。人は時に予想もしない行動をとることがある。大事なのは、その後どうするかよ」と香織は静かに答えた。

一方、涼介は加害者の家族である田中誠に接触していた。公園のベンチに座る誠は、深い苦悩を抱えているように見えた。

「田中さん、少しお話を伺ってもいいですか？」涼介は丁寧に尋ねた。

誠は疲れた目を上げ、涼介を見つめた。「息子の健二が、こんなことをするなんて…。私はどうすればいいのか、分からないんです」

「息子さんの行動に対して、あなたが責任を感じるのは無理もありません。しかし、今は彼のためにも、自分自身を大切にすることが重要です」と涼介は優しく言った。

「どうすればいいんでしょうか。私は彼を失いたくない。でも、彼の罪は許されるものではない」と誠は涙を浮かべながら言った。

「彼が償いをするためには、あなたのサポートが必要です。家族として彼を支えることが、彼が立ち直るための助けになるんです」と涼介は誠を励ました。

香織と涼介は、それぞれの家族が抱える問題に直面しながら、彼らの再生を手助けする決意を新たにした。能古島の静かな風景の中で、彼らは新たな希望の光を見つけようとしていた。