女子校に赴任した俺の家に生徒が押しかけて来た

あかせ

第1話 生徒に手を出されるなんて…

 「帰りのホームルームはこれで終わりだ。気を付けて帰れよ!」


教壇に立っている俺、磯部いそべ颯太そうたは、担任している2-Aの女子生徒全員に対して言う。


俺が女子校である“相坂高校”に赴任して1年。中途採用された身なので、歳は27歳になる。赴任して早々、1-Aの担任にされたのは大変だったな~。


相坂高校は、卒業までクラス替えを一切しないスタイルらしい。なので1-Aと2ーAの生徒は全員同じ。俺が問題を起こさなければ、3-Aの担任も確実だ。


…なんて、俺が問題を起こすなんてあり得ないけどな。生徒は約10歳年下だから、異性というよりお子様や妹に近い。そんな相手にを起こすはずがない。


それに俺は友達と付き合ってる人がいないから、休日は買い物を済ます以外家にいる。問題とは無縁の生活を送っているだろう?


定年まで今の生活を送る事になっても、後悔はしない…と思う。



 放課後を迎え、ゆっくりではあるが教室を出る生徒達。


「先生さようなら」

いそちゃん、バイバ~イ♪」

「また明日ね~、そう君」


こんな風に、俺を先生として見てない生徒もそこそこいる。嫌われてないだけマシかもな。


本当は全員帰るのを見届けたいが、職員会議があるからそうも言ってられない。


「いつまでも教室に残ってないで、さっさと帰れよ~」

俺はそれだけ伝え、教室を出る。



 長い職員会議と大量のプリント作成を終え、俺はようやく学校を退勤した。家までは徒歩10分で着く近さだ。


通勤時間は長ければ長い程、肉体・精神にダメージを与えるのは前職で思い知った。なので近さ優先で物件を選んだのだ。


……そして、マンションの自室前に着く。開錠するためにカバンにあるカギを探してると…。


「せんせ~、来ちゃった♡」


何やら聞き覚えがある声がしたので顔を上げると、生徒で私服姿の早川はやかわ つむぎさんが目の前にいる。


「早川さん、どうしてここに?」

何で俺の家がわかる? 誰にも言ってないぞ?


「この前の夜、バイトから家に帰る途中で先生を見かけたからさ~。気になって後をつけちゃった」


それで俺の家がわかったのか…。


「おいおい、遅くまでバイトしてたらダメだろ。学生は勉強が本分だぞ?」


「未成年でも22時までなら働けるんだから問題ないじゃん。先生を見かけたのも、22時より前の話だよ?」


「……」

早川さんの言い分は正しいから反論できない。


のんびり話してるが、この状況はマズいんじゃないか? 今は20時ぐらいだが夜に変わりないし、相手は生徒かつ未成年。周りの人に見られたら…。


「先生の家、興味あるな~。どんなに散らかってても文句言わないから入れて♡」


「それはできないから、家に帰ってくれ」

言うまでもなくアウトになる。


「…ここで叫んじゃうけど良いの?」


教師の俺を脅すだと? ふざけやがって!


「そんな怖い顔しないでよ。あたしは卒業までお世話になる先生の力になりたいんだから」


「俺の力になる…?」


「うん、ここでは話せないから中に入れて。そうしたら話すから」


このまま話しても埒が明かない。仕方ないな。


「わかった。ただし、話を聴いたらすぐ帰ってもらうからな」


「わかってる。お母さんにはバイトと嘘付いて来てるから、長居はしないよ」


…カバンにあるカギを取り出してから、俺に続いて早川さんも家に入る。



 玄関で靴を脱ぐ、俺と早川さん。すぐ帰ってもらうんだから、部屋に上げる必要はない。渡り廊下の立ち話で十分だな。


「早川さん。俺の力になりたいというのはどういう事だ?」


「…先生、んじゃないの?」

そう言って、早川さんはズボン越しに“あそこ”をさすってきた。


「おいっ!」


初めて他人に触られる感覚は…、予想に反して悪くない。それどころか気持ち良い。


「朝のホームルームの時がほとんどだけど、先生の股間ってモッコリしてる事が多いから欲求不満だと思って…」


その理由は、朝の職員会議で顔を合わせる村松先生を少しにしてるからだ。そのオカズのおかげで、一日頑張れるってもんだ。


「俺の股間がモッコリしてる? 気のせいだよ」

何とかごまかさないと!


「あたしだけじゃなくて、みんな言ってるけど?」


「…本当か?」


「本当だよ。こういうのを“灯台下暗し”って言うんだっけ?」


この状況で誤用なんて考える余裕はない。


「女子校でも、いや女子校、男の人に興味あるの♡


マズイ、この状況はマズいぞ。理性が崩壊しかけている。


「さっきよりも大きくなってる♡ 抜いたほうが良いよね?」


それは一線を越えてしまう! 俺は早川さんの手を掴んで阻止する。


「早川さんの気持ちは分かった。だが、それ以上してもらう訳にはいかない。気持ちはありがたく受け取っておくよ」


本当に我慢の限界だ。耐えて偉いぞ俺!


「…今日はここまでかも。先生、お願いがあるんだけど良い?」


「なんだ?」

嫌な予感しかしない。


「あたしと連絡先交換して♡」


「…もしダメだと言ったら?」


「“先生に家に連れ込まれた”って言おうかな~?」


また脅しか。今の時代、証拠がなければ生徒の言い分が圧倒的に有利だ。定年まで働くには、平和と安定が欠かせない。今クビになったら…。


「心配しなくても、他の人には絶対言わないよ」


今の俺に出来るのは、交換しかないだろう。


「本当に誰にも言わないでくれよ?」


「大丈夫だって。先生は心配性だな~」


……俺と早川さんは、連絡先を交換した。


「先生。一応言っておくけど、あたしのフルネームで登録しないでね。 バレた時のダメージが大きいのは先生のほうだからさ~」


「わかった…」

その言葉は事実だから大人しく従う。


「それじゃ、また明日~」

早川さんは俺に手を振った後、家を出て行った。



 彼女が帰ってすぐ、俺は思わず座り込む。まるで夢のような時間だった。…

いや、夢ではない。半覚醒したが現実の証拠だ。


俺は連絡先を交換した早川 紬さんの名前を“H・T”に変更した。これで安心だな。


今回の件、俺は一切手を出していない。だから万が一バレても罪は軽めのはず。そう決め付けてから、部屋に戻るのだった。

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