28.嬉しい変化の訪れ
オティーリエ王女は、がらりと変わった。
落ち着いて、物腰が柔らかくなった。
「側妃殿下がオティーリエ王女殿下をお見捨てにならずに、導いてくださって何とお礼を申し上げていいかわかりません」
カテーナ王国からついて来た侍女が言う。
「オティーリエ王女殿下は、芯からお悪い方ではないのです。お母上が…色々とありまして…」
「そうなのです。オティーリエ王女殿下を雁字搦めにして、おかしな方に導いてしまったのです」
もう一人の侍女が言う。
「本当にお可哀想でした。気まぐれに優しくなさるから、オティーリエ王女殿下は見捨てられまいと必死だったのです」
「時には罵倒され、叩かれても、オティーリエ王女殿下はお母上に縋っていらっしゃいました。国王陛下はお二人に冷淡でいらっしゃったので」
悲し気な侍女達。
「お小さい頃はばあややねえやがいらっしゃって、オティーリエ王女殿下に優しく、時には諫めていましたが、婚約が決まると二人共解雇されしまい、オティーリエ王女殿下は寂しかったのです」
「それに…」
少し口ごもる。
「わたくし達のお仕着せをご覧になって、驚かれたでしょう?わたくし達はここ三年、何も支給されず給金も払われない時もあったのです」
「もちろん、オティーリエ王女殿下も…新しいものはお母上が独り占めなさっていましたの」
侍女達によると、ここ三年は特に酷かったと言う。
度々オティーリエ王女の食事さえ忘れられるほど、侮られていた時期もあった。そこでオティーリエ王女は
「私は未来のインジャル王妃なのよ!言うことを聞かないなら斬首にしてやるわ!」
と言うようになった。
小さい頃、母親が言っていたのを真似ていた名残の記憶があったのだ。
侮られないために、必要以上に攻撃的に振舞うことでご自分を守っていらっしゃったのだ。
インジャル王国に来て私に必要以上の敵愾心を持っていたのも、侮られたら蔑ろにされると思っていらっしゃったからだ。
オティーリエ王女の治療は効果を上げ、もうほとんどしみは目立たない。もう少しで完全に消えるだろう。
化粧かぶれと腫れがすっかり治まり、顔全体がすっきりなさった。目は切れ長で涼やかだ。
私はその瞼の際に、髪の色に似たレッドブラウンの線を引く化粧を勧めた。
オティーリエ様は肖像画とは正反対の美しさを持った方だったのだ。
今では授業も熱心に受け、王妃殿下も驚いている。
「この調子では、あなたが正妃の王太子妃になっても、側妃としてうまくいくかもしれませんね」
と、私におっしゃった。
私とオティーリエ王女は、ほぼ毎日午後のお茶をご一緒し、時にはセリーナ様も加わって楽しく過ごしていた。
オティーリエ王女はすっかり角が取れて、穏やかに過ごしている。
その理由のひとつには、私が国王殿下に願い出たことが受け入れられて、すっかり安堵なさったからだ。
私はオティーリエ王女の母親を始め親族を、決してインジャル王国に入れないよう願い出た。オティーリエ王女のカテーナでの境遇を話すと、国王殿下はすぐに取り計らってくださった。
「わたくし、もうお母様に怯えなくていいのね」
と、オティーリエ王女は安堵の涙を流した。
秋が深まった頃、私の懐妊が発覚した。
定期的に侍医の受診を受けていたが、その日
「もう間違いはございません。側妃殿下はご懐妊なさっていらっしゃいます。まことにおめでとうございます」
と告げられた。
「これからご体調不良も出るかと存じますが、どうぞ御身をお労わりください」
と、侍女達に様々な指示を出し、熟練の産婆がつけられた。
「乳母も探さなくてなりませんね」
王妃殿下は嬉しそうにおっしゃった。
「生まれるのは来年の晩春か初夏ですって。楽しみだわ」
とはしゃぐ王妃様。
「ありがとうを言わせてもらうよ。体を大事に」
と国王陛下も労わってくださった。
オティーリエ王女は心から微笑んで
「おめでとうございます」
と祝ってくださった。
国王陛下は特に褒美を与えたいとおっしゃる。
「其方の心労を出来得る限り取り除きたい。アシャールを取り潰すことも厭わない」
「それでは弟のダニエルを巻き込みます。取り潰しはご容赦ください」
とお願いする私に
「ではダニエルが当主になればいいのだ」
と含み笑いをなさった。
きっと近いうちに、アシャール子爵家でも変化があるだろう。
懐妊の公式発表は大事を取って、新年祭の席で行うことになった。
「バシュロへはあなたが言いたいでしょう?それに」
王妃殿下が笑いを含んでおっしゃった。
「あの生意気な子より先に、この大事を知って秘密にしているのは小気味いいわ」
などと笑われるのだ。
私もいたずら心がおさえきれずに、手紙を書くのも控えた。
早くバシュロ様にお会いしたい。
もう私だけ幸せでいいのかと案じることはしない。
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