26 客船での邂逅
いくつも、いくつも、廊下を抜け、らせん状の階段を降りると、そこは客船のメインたる巨大サロンであった。
天井にいくつものシャンデリアが浮いているその部屋には、無数の暖炉、そして、テーブルが並んでいる。
「ここがサロンだよ」
手を広げた状態で腕を伸ばし「どうぞ」と笑顔を浮かべる。
「ありがとうございました」
こちらが一礼すると、男性は「気にしなくて良いよ」と言いながら手を振った。
「実を言うと魔法学校の生徒でも、一年生のうちはよく迷うんだ」
「やっぱり、そうなんですね」
「なにせ、廊下や階段の配置が時間によって変わるからね」
なんだその不便なシステムは。
「食事の時間は、食堂へ繋がる階段が増えたり、日中は勉強する生徒の為にサロンや図書館へ繋がる階段が増えるのさ」
なんだその非常に便利なシステムは。
「そんな工夫がされているのですね……」
「あぁ、僕も初めて乗った時は驚いたよ。ところで君に聞きたいことが……」
男性が何かを尋ねようとしたその時、聞き覚えのある声が響く。
「やぁ、久しぶりだね」
話しかけてきたのはクラリスお姉さんの店で出会った着物の女性であった。
「お久しぶりです。今、こちらの男性と話しているので少し待って下さ……」
そう言いながら振り向くと、途端に全身へ寒気が走った。
男性の姿が消えていた。跡形も泣く、完全に。
――まさか。お化け?
今のところ、この世界で幽霊に会ったことは無いが、獣人や妖精が普通に暮らしている世界なのだ。もしかすると、本当に幽霊だったのかも。
「こっち向いてごらん」
余りにも衝撃な事件に、再び言葉を失っていると、着物の女性に呼びかけられた。言われるがままに女性の方を向くと、中指を曲げて親指の腹に当てていた女性から、中指による強烈な一撃――いわゆるデコピンが炸裂する。
「ちょっと、何するんですか」
「目は覚めた?」
何を言っているんだ、この人は。
頬を膨らませて抗議しようとする。
しかし、その前に先ほどから全身を包んでいたフワフワとした高揚感が無くなる。
「頭がフワフワしなくなった……」
「やっぱり――もしかして、あの男と目を合わせたのかな?」
「合わせましたけど……どうかしましたか?」
女性は首を傾げ、眉を八の字にした。
「
「イーブ……え?」
「君がさっきまで一緒に居た男の目は
「それは……えーと、どういう……」
「
「つまり、私は呪いにかかっていたと……」
こちらの様子を見た女性は苦笑いする。
「そんなに顔面蒼白になる必要はないよ。直ぐに解呪出来たという事は命に関わる呪いではないだろうから。せいぜい魅了の
いや、安心出来ない。
だって、もしかすると命が危うくなっていたかもしれないし――なにより、魅了の呪いって何?
「それにしても奇妙だな。
「要するに……わざと、私に
女性がニヤリと笑う。
「そうだな。例えば、君が
「えぇ、そんなぁ。怖すぎますって」
「なぁに、冗談だって」
ニヤけ顔が一転。
女性は満面の笑みを浮かべた。
「そんな事より、せっかくサロンで再開したんだから、お茶でもしながら話そうよ」
「そうですね」
あれこれ考えを巡らせてみたものの、単純にあの男性が
ほら、いきなり初対面の女性を
そうに決まっている。
「そういえば名乗っていませんでしたね。私は
「そうか。よろしく、コハクさん。私はシデン――元奴隷の身でね、生憎苗字は持っていないんだ。今は私より強い存在を求めて、色んな世界を旅している。端的に言えば君と同じ異世界人だ」
強いヤツを求めて旅って――ヤンキー漫画の主人公かよ。
「へぇー、もしかしてログレシアへ向かっている理由もカチコミの為ですか?」
「物騒な表現をするな。私がログレシアへ向かっているのは、とある人物の遺産を探す為だ。暴力を振るう予定は無い。今のところは」
予定次第では、ログレシアにて大惨事が起こる可能性があるらしい。
「遺産を探すって――まるで宝探しみたいですね」
「そうだな。実際に宝探しみたいな物だよ。レイ博士という千年前の人物が残した遺産さ」
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