22 次なる目的地へ

 フランドレアの中央図書館。

 吹き抜けの天井はどこまでも高く、天井に描かれた妖精達は何やらヒソヒソと話し込んでいる。時々、歌声も聞こえてくる辺り、この世界では絵の話し声が聞こえる現象は珍しく無いらしい。

 更に、本の中には、自ら話しかけてくる奇妙な物もあった。


 そして、中央に生えた大きな樹木からは、ときおり、桃色の花弁が舞った。その周りに設置されたテーブルにて、私が開いているのは、この世界における旅行雑誌。 


 見た目は革表紙の本なのに、中身はれっきとした旅行雑誌とは……。何だか、複雑な気分だ。


「エレシュリ様が居るのは、この可惜夜あたらよ島ですよね?」


「あぁ、そうだ」


 隣で雑誌を眺めていたアルシエラが頷く。

 周囲に人が居ない為か、姿は人型だった。


 そして、どうして今、旅行雑誌を眺めているのかと言うと、次の目的地を決める為だ。

 シャナは何時までも、ここに残っても良いと言っていたが、それは私がアルシエラの眷属であるからだろう。


 いい加減次の目的地へ向かう準備を、するべきだ。


 一つ心残りがあるとすれば、シアン君がベアトリーチェに再会できていない事かな……。


「雑誌を見る限り、可惜夜島へ向かうルートは幾つかあるみたいですね」


「そうだな。コハクは何処に行きたい?」


 どうやら行先は自由に決めさせてくれるらしい。今回に限らずアルシエラは、私の事を眷属呼ばわりする割には、大体のことは、自身で決めさせれくれ、更にサポートもしてくれる。


 それ以前に、アルシエラも付いてくるなら自分で因子を回収すればいいのに……。


「どこにしようかなー。このミラーハーバーとか……あと、蓬莱島も良さそうだな」


 観光雑誌を眺めながら、あれこれ迷っていると、アルシエラが口を挟む。


「中々決まらないなら、このログレシアはどうだ?」 


 そう言って、白く細い指が示したのは、大陸から、離れた孤島だった。


「随分と大陸から離れた島ですね」

「厳密に言うと、この島は常に、この場所に有る訳では無い」

「そんなぁー、島が動き回っているみたいな言い方をしないで下さいよー」

「その通りだ。ログレシアは動き回っている」


 そんな馬鹿な。

 元々暮らしていた世界でもプレートの動きによって、島が移動する事はあったが、『動き回っていた』かと問われれば、否である。


「ログレシアは浮遊島だ。だから、何処へでも移動できる」


「ガリバー旅行記のラピュタじゃないですか。スウィフトもドン引きですよ。ところで、ログレシアの守護神霊はどなたです?」


「ログレシアに守護神霊は居ない」


「そんな事って……」


 伝承によれば、守護神霊の配置を行ったのはアルシエラだろう?

 どうして彼は、ログレシアに神霊を配置しなかった?


「ログレシアはオレが今の守護神霊システムを作った後に、完成した都市だ。一部の魔術師マギーズが知識の探求をする為に作った学園都市で、様々な神に仕える魔術師マギーズが集まる為、ログレシア自体には守護神霊が居ない。聞いた話では、学生同士で出身地を隠すことが暗黙の了解らしい」


 魔法使いが住まう浮遊島。

 まさしくファンタジーな世界観だ――いや、現在進行形でファンタジーな世界に居るけど。


「現在ログレシアでは、吟唱祭というイベントが催されている。君にもわかりやすいように言い換えるならば、学園祭だな」


「学園祭……つまり魔法学校の学園祭?」


「あぁ、そうだが……」


「何だかワクワクしますねぇ!」


「おぅ……」


 ノリノリで飛び跳ねるこちらを見たアルシエラは、苦笑いを浮かべた。

 すると、図書館の中央を占拠する大木から、一枚の花弁が、ひらりと舞い落ちる。

 そして、アルシエラの透き通った銀髪の上に落ちた。


 手を伸ばし花弁を取る。


「すまない。君の手は……暖かいな」

「手は誰でも暖かいと思いますよ。死人でも無い限り」


 紅蓮の瞳が、少し震えた。


「えーと、私何かまずいことでも言いました?」

「いや、何でもない……」

 














 

 

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