目覚めたら神様の眷属にされていました〜貰った万能魔力を使って自由気ままに異世界旅行
白鳥ましろ
1章 水彩都市フランドレア〜黄金蝶の画家〜
1 おはよう。また、会えたね
20××年。
一人の少女が火災事故に巻き込まれた。
日本という極東の島国にて、作られた極秘研究所、そこで、コハクという少女が、不幸なことに火災事故で瀕死になった。
幸い助かったコハクはこれから、異世界にて長い旅をすることになる。
あぁ、誰が彼女の気が遠くなるほどの長い冒険譚を語り継いでくれるのか。
部屋中を埋め尽くす薬品棚には、古今東西様々な
視点を下ろすと、薄く緑色に染まった液体の中を見ると、長身の少女の体が、いまだに横たわっている。
液体の中で、長い黒髪が漂っている。
気がおかしくなるほどの長い時間を、ずっと、ずっと、ずっと。
彼女の肩が揺れていることから、まだ息をしていることは分かる。
されど、彼女が目覚めることは無い。
――俺は何を間違えた?
薬品棚の傍には、切り刻まれた魔法植物が散乱しているが、全て俺の役には立たなかった。
「次は成功させなければ」
そう己に言い聞かせ、少女の
『笑ってよ。そうすれば、どうにかなるからさ』
耳元で少女の声が響く。
笑う程度で願いが叶えばどれ程良いか。
*
変な音がする。
同じスパンで、繰り返し聞こえてくる電子音。どこかで聞いたことがある音だ――例えば、病院、あるいは実験室。
――病院?
――実験室?
何となく嫌な予感がして、目を開けると、奇妙な風景が広がっていた。
私が眠っていた場所は、絵本に出てくる様な中世風のお城だ。ゴシック調のベッドに、可愛らしい猫足のテーブル。
しかし、付近を見渡せば、そんな幻想的な風景には似つかわしくない奇妙な物が並んでいた。
それは点滴や、心拍計、謎の計測器など。
余りにも、ツッコミどころ満載な光景に、思わず頭を抱える。
――え? どういうこと?
これは夢だろうか?
いや、夢にしても、この風景は異質すぎる。ストレスが溜まりすぎて、ついにホラーな夢でも見始めたか――。
辺りを探索しようと、寝転んでいたベッドから降りた、その刹那。
「起きたか?」
隣から男性の声。
突然の出来事に、思わず悲鳴を上げる。
声がした方向を見ると、戸棚の上で奇妙な生物がこちらを見つめていた。
柔らかい白毛。
狐のような耳。
オオカミのごとき尻尾。
見たことがない生物だ。
さらに――。
「喋った……」
珍妙なモフモフは耳をピクピクさせてから、床へと降り立つ。
「なんだその珍獣を見るような目は」
「これが、伝説のUMA……ビックフット」
「今、適当に知っているUMAの名前を挙げただろ。この姿の何処がビックなんだよ」
モフモフが床へと降りる。その刹那、小柄な獣姿は男性の物へと変化した。
銀髪。赤い瞳。紅色の耳飾り。
そして、漆黒の和装。
その上には中華風の衣を羽織っている。
彼が誰なのかは知らない。
それでも、一つ確信できることがあるとすれば、今、私の視界に映る者は人間では無いということだけだ。
肌が白い。異常に白い。
全く、血の気を感じない。
こんな肌を持つのは、海外の映画で見かけるゾンビぐらいだ。
そして、一番特筆すべきなのは容姿。
顔、体格、何から何に至るまで全てが完璧だった。美しい、美しすぎる容姿。まるで、人形。
こんなに綺麗な人を産まれて初めて見た。
そこら辺の絵画や彫刻より、この男の方がよっぽど美しい。
「貴方は……誰なの?」
「オレはアルシエラ。裁定神と崇め称えられる神だ。呼び方は――君が決めると良い」
「分かりました。ではエラと呼ばせていただきます」
「さっき言った事は取り消そう」
エラというあだ名は却下らしい。
「誰が魚介類の呼吸器官だ。全く……助けてやったのにこの仕打ちか……」
助けてやった?
彼が放った言葉の意味を理解するため、ここで目覚める前の記憶を呼び起こす。
――確か私は、お母さんの研究所に呼ばれて……そこで、火災事故に見舞われて……死にかけた……。
そうか、私は死にかけていたんだ。
「火災事故に巻き込まれた私を、助けてくれたの?」
アルシエラが首を縦に振る。
「どうしてですか?」
「人の子が危機に瀕しているなら、手を貸すのが、神というものだろう」
周囲を見渡す。
ベッドの周りに並ぶものは、どれも病院に並んでいそうな物ばかりだ。
「こんな
首を傾げながら返答したが、当のアルシエラは、こちらの発言など、どうでもいいらしく、そのまま戸棚から何かを取り出し始めた。
「腹が空いているだろう。人間の食事を用意してやるから待っていろ」
確かに言われてみれば、胃の中はスッカラカンだった。ベッドの周りに点滴がある事から察するに、ここで眠っている間、何も食べていなかったのかもしれない。
出会ってから数分しか経っていない人――いや、神から提供された食事を頂くのは正直気が引けるが、今は大人しくこの神様の言うことを聞いていた方が、いいかもしれない。
本能が、そう告げている。
理由は分からないが、彼と話していて『恐怖』とか『警戒』と呼ぶべき感情は一切湧かなかった。
むしろ、何故か安心してしまうぐらい。
「アルシエラさん――いや、アルシエラ様。貴方が本当に神様だと言うのならば、ここはどこですか?」
先ほどは、こちらの質問を無視して、戸棚を漁り始めたアルシエラであったが、今度は、返答してくれた。
「分かりやすく表すならば、異世界だな」
異世界……。
マンガや小説で見たことがある単語だ。
要は別の世界だということだろう。
それにしても、私が眠っていたこの建物は何だろう?
部屋の外はどうなっている?
何となく、廊下が気になった私は、ベッドから降り、扉の方へ向かった。
豪勢な装飾が施された扉に、金色のドアノブがついている。
そして、ドアノブに手をかけた、その時。
「コハク。何処へ行く?」
突如、アルシエラが叫び声を上げた。
まるで、怒っているような叫び声だ。
何故、急に怒り出したのか――これも気になるが、今、一番気にするべきなのは、彼が最初に発した台詞。
コハクは私の名だ。
どうして、アルシエラが知っている?
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