目覚めたら眷属にされていました~「万能魔力を持った少女」は「モフモフ神様」と旅に出る
白鳥座の司書
1章 水彩都市フランドレア〜絵画にて眠る少女
1 お巡りさん。こっちです
もし、二度目の人生が手に入るなら、君はどうする?
もし、何でも願いを叶えられる万能の力を手に入れたならば、君はどうする?
俺は――とうに答えを知っている。
*
変な音がする。
同じスパンで、繰り返し聞こえてくる電子音。どこかで聞いたことがある音だ――例えば、病院、あるいは実験室。
――病院?
――実験室?
何となく嫌な予感がして、目を開けると、奇妙な風景が広がっていた。
絵本に出てくる様な中世風のお城に、似つかわしくない奇妙な物が並んでいる。
それは点滴や、心拍計、謎の計測器など。
余りにもアブノーマルすぎる光景に、思わず頭を抱える。
――え? どういうこと?
これは夢だろうか?
いや、夢にしても、この風景は異質すぎる。ストレスが溜まりすぎて、ついにホラーな夢でも見始めたか――。
辺りを探索しようと、寝転んでいたベッドから降りた、その刹那。
「起きたか?」
隣から男性の声。
突然の出来事に、思わず悲鳴を上げる。
そして、声がした方を見ると、見知らぬ男性がそこに居た。
銀髪。赤い瞳。紅色の耳飾り。
そして、漆黒の和装。
彼が誰なのかは知らない。
それでも、一つ確信できることがあるとすれば、今、私の視界に映る者は人間では無いということだけだ。
肌が白い。異常に白い。
全く、血の気を感じない。
こんな肌を持つのは、海外の映画で見かけるゾンビぐらいだ。
「貴方は……誰?」
「オレはアルシエラ。裁定神と崇め称えられる神だ。呼び方は――君が決めると良い」
「分かりました。では、エラと呼ばせていただきます」
「さっき言った事は取り消そう。全く、わざわざ、助けてやったというのに……」
助けてやった?
彼が放った言葉の意味を理解するため、ここで目覚める前の記憶を呼び起こす。
――確か私は、お母さんの研究所に呼ばれて……そこで、火災事故に見舞われて……死にかけた……。
そうか、私は死にかけていたんだ。
「火災事故に巻き込まれた私を、助けてくれたのですか?」
アルシエラが首を縦に振る。
「どうしてですか?」
「人の子が危機に瀕しているなら、手を貸すのが、神というものだろう」
周囲を見渡す。
ベッドの周りに並ぶものは、どれも病院に並んでいそうな物ばかりだ。
「こんな
首を傾げながら返答したが、当のアルシエラは、こちらの発言など、どうでもいいらしく、そのまま戸棚から何かを取り出し始めた。
「腹が空いているだろう。人間の食事を用意してやるから待っていろ」
確かに言われてみれば、胃の中はスッカラカンだった。ベッドの周りに点滴がある事から察するに、ここで眠っている間、何も食べていなかったのかもしれない。
出会ってから数分しか経っていない人――いや、神から提供された食事を頂くのは正直気が引けるが、今は大人しくこの神様の言うことを聞いていた方が、いいかもしれない。
本能が、そう告げている。
理由は分からないが、彼と話していて『恐怖』とか『警戒』と呼ぶべき感情は一切湧かなかった。
むしろ、何故か安心してしまうぐらい。
「アルシエラさん――いや、アルシエラ様。貴方が本当に神様だと言うのならば、ここはどこですか?」
先ほどは、こちらの質問を無視して、戸棚を漁り始めたアルシエラであったが、今度は、返答してくれた。
「並行世界――分かりやすく言い換えるならば、異世界だな」
並行世界に、異世界。
マンガや小説で見たことがある単語だ。
要は別の世界だということだろう。
それにしても、私が眠っていたこの建物は何だろう?
部屋の外はどうなっている?
何となく、廊下が気になった私は、ベッドから降り、扉の方へ向かった。
豪勢な装飾が施された扉に、金色のドアノブがついている。
そして、ドアノブに手をかけた、その時。
「コハク。何処へ行く?」
突如、アルシエラが叫び声を上げた。
まるで、怒っているような叫び声だ。
何故、急に怒り出したのか――これも気になるが、今、一番気にするべきなのは、彼が最初に発した台詞。
コハクは私の名だ。
どうして、アルシエラが知っている?
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