第7話 帰還、そして衝突
暗い。
きちんと歪みを通り抜けたのだろうか。
それとも奴らに捕まってしまったのだろうか。
少し寒い。
『蛍烏賊』
…?。
『蛍烏賊』
魔法が使えない。
と言うよりは、付近に全く魔素が無い。
「アデーラ?」
「おお、ユウキ、そこにいた」
声のした方に近づく。
「ここがどこだか分かるかい?」
「たぶんゆうきくんのいえ」
「そうか、着いたんだな」
全く光が差さないということは、
地下室か何かか?。
案外ユウキを転移させた
組織の施設かもしれない。
慎重に立ち回るべきだろう。
まずこの部屋の大きさを測る。
壁に手を付き伝って歩く。
冷たく、
滑らかではないがそこまで粗くもない肌触り。
石室か何かか?。
途中、壁が途切れる。
その空間を手で探ると、
地面が段となっていることが分かる。
おそらく階段だろう。
「階段だ、上がろう」
「ん」
今更ながら、自分が裸足であることに気づく。
歪みに飛び込む際に
置いてきてしまったのだろうか。
手を突き出しながら登っていると、
やがて壁に当たる。
壁というよりは、金属製の扉。
ユウキは拘禁されていたのか?。
だとしたら脱出防止に
魔素を無くしていることも納得できる。
ユウキは実家でも
酷い目にあっているのだろうか。
だとしたら、私が…。
扉ののぶを探し当て、掴む。
以外にすんなりと回せ、そして軽々と開いた。
まるで別の人間が扉を引いたかのように。
「「あ」」
原文の続きが途切れてから数時間。
暴力的な焦燥感を解消するため、
全ての部屋を見回る。
もう何十と繰り返したが、それでも抑まらない。
この労力を外に向けて行うか、
あるいはもっと建設的なことに
使えるかもしれないのに、
最短で焦燥感を抑えられる
この方法を取ってしまっている。
あの地下室などもはや鍵もかけず、
なんの恐怖心もなく出入りしている。
手順、見回る順番は決まって
1階は玄関から初まり、地下室に終わる。
今回も同様に、1階最後の地下室に至る。
最早なんの躊躇もない。
躊躇が無くなったからだろうか。
今回の扉は、いつもより軽い気がする。
まるで誰かが向こう側から押しているような。
「「あ」」
人だ。
女。
裸だから、すぐに分かった。
圧倒的不審者。
頭の中でこの女と勇気を結びつけるより先に、
右手がスマホの緊急通報の用意をしている。
「…!なんで裸なんだ!?」
女が喚く。
今のうちにスマホを耳に当てる。
「まって」
聞き覚えのある、聞きしに勝る、
聞きたかった声。
声の主は、女の影にいる。
勇気だ。
裸の女と、服装が乱れ汚れた勇気。
何を思ったのだろう。
何かを思ったのだろうが、
後の衝撃で忘れてしまった。
「勇気に何したあああああああ!!!」
私の中の糸が切れた。
警戒への電話を切らずにスマホを空中で手放し、
空いた両手を女のこめかみにあてがう。
「ッ」
女が何か言い終わる前に、
自分の額を女の額目掛けて衝突させる。
「いッッッ!?」
こちらの方が痛い。
「ハヒッハフッあう…ヒッ…グズ」
自分は今どんな顔をしているのだろうか。
どんな一撃を見舞わせたのだろうか。
酸いも甘いも多少心得ているであろう、
成人するかしないかの女を
涙目にするほどのことを、したのだろう。
それでも収まらない。
勇気を思ってのことだとしたら、
私はいい人間なのだろう。
だが捜索の徒労から来る怒りだとしたら、
私は悪い人間なのだろう。
後にも先にも知るよしはなかった。
「…」
「守よ!守よ!」
『ガシッ』
「ひえええええ!」
頭を振り上げたところで、脚の感触に気づく。
「やめてぇ」
ユウキだ。
半泣きのユウキが膝に抱きついている。
もっとやれと言うなら分かる。
もっとやってやろう。
でもやめてと言うのは、
合わないような気がする。
勇気は賢い子だ。
つまりは私が、間違っている?。
女を掴んでいる手を離す。
「はっ…はああ、ひぃぃ」
情けない声を上げて身を震わせながらも、
女は勇気と私を間合いに入れ、
常に何か事を起こせるような立ち位置にいる。
ムカつく。
その感情を抑えて、屈む。
「何があったか、話せる?」
「うん、んとね、んとね」
「私から話した方が」
「あ?」
「ひ」
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