自覚なく性転換
「しまった・・・」
日も暮れ、周辺の家々から夕食の匂いが夕食前の僕のお腹を刺激する。
蓮と柚木の二人と別れた後、帰路に就く際にある事を思い出してしまった。
我が家には数少ないルールがある。
それは直ぐにわかる事になるのだが、今は一秒でも早く妹に連絡をしなくてはいけない。
RAINで妹に送るメッセージを打っては消してを繰り返していたが、良い言い訳が思いつかないまま自宅についてしまった。
まじでやばい・・・
玄関のドアノブを握ることを躊躇していると自宅の中からただならぬ気配を感じた。
うん、これは死んだかもしれない・・・・
こうしてはいられない、一%でも自分の生存率を上げるために僕は玄関扉を開いた。
「ただい・・・ま・・・」
恐る恐る自宅に入ると目の前には仁王立ちした妹の和葉がいた。
「ねぇ」
「は、はい!」
「おにぃ、今何時かな?」
「じ、十九時半です・・・はい・・・」
「私言ったよね?十八時を回るときは連絡してって」
「はい、聞きました。」
父は海外出張、母は作家で家に帰ってくることが少ない為、料理が好きな妹が食事を作ってくれるのだが、僕の分の食事も必要なのかを十八時までに、帰宅が遅れる際には心配させないように連絡をしておく事が我が家の数少ないルールである。
僕は気づけば正座で妹の説教を聞いていた。
毎朝起こしてくれるほどに優しい妹だが、こういう時は別人のように変わる。
その紫色のオーラは何ですか?兄ちゃん怖すぎて汗止まらないんだけど・・・
「何してたの?」
「べ、べんきょー」
「もう一回聞かせる気?おにぃは嘘つくときそうやって右下に視線を移すよね」
「うっ・・・」
勉強という嘘の言い訳を言い終わるまでもなく詰められてしまった・・・なんでそんな冷たい声出るの?
ただクレープ食べていただけなのに言いだしづらくなってしまったがもう嘘は止めておこう。
「その・・・クレープを食べてました」
「デート?」
「へ?」
「デートしてたの?」
「ち、違うよ!蓮と柚だよ!」
それにうちの妹の目が死んでいるような・・・ゴミを見る目で兄ちゃんを見ないで・・・
「なんだ、蓮君と柚ちゃんか・・・」
「ならいいや、早くご飯食べよ」
「ゆ、許してくれるのか?」
「うん、でも今度同じ事したらご飯抜きだからね!」
一年程前、元カノと出かけた際に連絡を忘れ三時間ほど玄関前で正座をさせられた経験から嘘をついたが、こんなにあっさり許してくれるとは・・・
(ごめん和葉、兄ちゃん・・・正直に生きるよ・・・)
そんな事を考えていると先にリビングに向かった和葉がこちらに振り返り微笑む。
「今度私もそのクレープ屋さんに連れてってよね、もちろんおにぃの奢りで」
既に寂しい財布からは空気が出てきそうな気もするが、僕は「りょーかい」と答え、リビングに向かい夕食を食べ始めた。
* * * *
食後、自室のベットで横になり携帯をいじっていると一つのアプリが目に映る。
「あ、SNSやってみよ」
蓮に教えてもらったSNSアプリ【ツイスト】
アプリ内で彼女を探す方法や、アプリ開始方法を普段このSNSを活用している蓮の言葉を思い出しアプリを開く
画面を開くとアカウント登録画面が現れる。
『アカウント名は何でもいいが本名は避けろよ』
甘いものが苦手な蓮はクレープの代わりにコーヒーを飲みながらアドバイスをしてくれた。
アカウント名どうしよ・・・《直人》はダメなんだったよな。
ローマ字表記で《naoto》とか、好きな食べ物の名前にでもするか?
いや、止めておこう。もしSNS内で仲良くなった人に『たい焼きさんの好きな食べ物は何ですか?』なんて質問が来たら何だか恥ずかしいし。
三十分程悩んだ結果自分の苗字【春宮】と名前【直人】の頭文字をもじった
《ハナ》と言うアカウント名に決定した。
我ながらいいアカウント名を思いついたな。
アカウントも作れたし次はハッシュタグと呟きだな。
『アカウントを作ったら《#マッチング》ってつけて何か投稿してみな』
『そしてら同じ利用目的のユーザーからフォローなりコミュ二ティの招待が来ると思うから』
アカウント名のほかにもアドバイスを貰い早速行動に移す為に投稿内容を考えることにした。
何を書こう・・・単純に『ツイスト始めました~』とかでいいかな?
いや、もしかして既に駆け引きは始まっているのか?
目を引くような投稿、面白い投稿をした方が女の子ウケが良いのか?
結局アカウント名と同じく三十分程書いては消してを繰り返した結果。
【投稿完了しました】
飼っている猫の写真と一言「ツイスト始めました!よろしくです』と投稿した。
我ながら何の捻りもない投稿にあきれるが、まぁ何もしないよりはいいだろう。
とりあえずチュートリアルと言うか初期設定のようなものは終わったし、次どうしよう
そう考えて画面を眺めていると、画面右下、自身の投稿内容を見ることができる【マイページ】に反応があった。
人型のマークが目印の【マイページ】には赤い丸の中に数字の1、つまり一件自身の投稿に動きがあった事を示すマークが表示され、その数字はものの数秒で一から十へ、そして三十にまで変化した。
「うそ・・・あんな投稿に【イイね】なんてつくんだ・・・」
何も知らない直人はその増えていく数字をただ眺めていた。
「わわ!もうメッセージ来た!!」
マイページの横には手紙のマークが目印な【メッセージ】があり、そのマークにもマイページと同じ赤丸マークが付き、数字が増えていく。
このSNSはフォロワーでなくてもメッセージのやり取りができる為、現状
フォロワー0人の直人にもメッセージを送る事ができるのだが・・・
すご・・・うちの猫すごい人気じゃん・・・
いやぁ、あんな何気ない投稿でも数分で”100イイね”を超えるなんて・・・
直人は盛大に勘違いをした。
自身のアカウント名がSNS内の男共を撒き餌のように集めていたのだが、当然直人は何も気付いておらず
僕、意外とSNSセンスあるのか?もしかして早々に彼女できてしまうのでは?
と浮かれる直人はニヤニヤしながらそう思った。
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