ネカマしてたら元カノが釣れたのだが?
青井風太
余韻の長い初恋
「私たち、友達に戻らない?」
大学一年の春、彼女から来たRINEにはそう書いてあった。
確かにここ最近は倦怠期というか何というか、互いに不満を感じていたのかもしれない。
だからとは言え高校一年から三年も付き合ってきた彼氏にそんな言葉を送ってくるとは夢にも思っていなかった。
「何だよそれ・・・」
そのメッセージを見た途端色々な言葉が頭をよぎったが、僕はたった一言。
「わかった・・・」
と返信をし、僕【
* * * *
食欲がない。
そうは思っていても体は正直だ。
別れてから四日間はまともに食事を取ってない。妹からの食事の呼び出しにも「食欲ないからいらない」
の一点張りで自室に篭りっきりだ。だが流石に腹が減ってきているのは自分自身が一番理解している。
人は七日間何かを口にしないと死ぬというのはどうやら本当らしい。
目の下にできたくまとボサボサの髪の毛、何よりもこの腹の音がその証拠だ。
「うっ・・・あぁ、もう五日も経ったのか」
暗い自室で見た携帯の光に少し目が眩んだ。
「ん?」
手元の携帯に数件RAINの通知が来ている事に気づいた。
短い内容が五件だったがそれは全て親友からだった。
『直人~週末暇?』
『買い物行こうぜ』
『お~い』
『無視か?』
『泣いちゃうぞ!!』
ため息が出そうな内容だったが今はそれすら出なかった。
『ごめん、ここ数日スマホ見てな・・・』
返信の文字を打ち込もうとしたが文字を消した。
「まぁいいか、どうせ明日大学で会うわけだしその時言えばいいか」
そう独り言を吐いてその日は終わった。
自室には陽光が差し込みゴールデンウィーク明け初日の大学登校の日が来た。
布団の外からなにやら声が聞こえる
「おにぃー!いつまで寝てんの?」
「今日からまた学校でしょ?早くしないと遅刻だよ」
普段はうるさいと思う妹の朝の叩き起こしも今日は何故か不快に感じなかった。
その枕元から聞こえる声を無視して僕は起床した。
「ん・・・ふぁぁぁ」
「お?やっと起きたね、おにぃ。」
「あぁ、おはよう和葉。起こしてくれてありがとな」
あくびと共に起こしに来た妹にお礼をし頭に手をやった。
「ど、どうしたの?おにぃ?」
「え?何だよ急に」
なぜか妹は困惑していた。
軽率な行動だったか?
確かに普段妹の頭に手をやる事なんてなっかた。
それにもう十六歳になる妹だ、こんな行動を気持ち悪がられても仕方ないのか?
「だっておにぃ、普段起きた時にお礼なんて言わないじゃん。」
「まだ体良くないの?」
そっちか、と言いそうだったが言わなくていいや。
「体は・・もう大丈夫だよ。心配かけたな」
「別に心配なんて、ほら朝ごはん冷めちゃうよ」
そう言うと妹は一階にあるリビングへ向かい僕もその後に続いた。
そして朝食を取り大学へ登校した。
* * * *
教室に着くと数人の生徒がすでに教室に来ていた。
講義開始までまだ30分はある。
教室の中を見渡してみるが”彼”の姿はまだない。そうして探していると
「痛っ!」
頭を誰かに叩かれてしまった。
痛みの方へ振り返るとそこには少し不機嫌そうな青年が立っていた。
「蓮、今日は遅かったんだな」
「おい、そんなことより直人、何か俺に言う事があるんじゃないか?」
前かがみになって蓮は僕にそう聞いてきた。
僕はすぐにRAINの件と理解したそして
「RAINの件は悪かったよ、ごめん。ちょっと色々あって携帯すら見ていなかったんだ」
と謝罪をした。
「まぁいいや、また暇な日にでも付き合ってくれたらいいからさ」
さらっと許してくれた。
中学校からの親友【
高身長で銀髪が目立つイケメン。
今みたいに必要以上に聞いてこないところも
「性格までイケメンなんだよなぁ」
と小声で呟いてしまうくらいにいい奴だ。
「だが、既読無視した件と買い物の件は埋め合わせしてもらうぞ」
「へ?」
「駅前に新しくできたクレープ、奢れよな」
やっぱりさっきの”性格が良い”発言は無しにしたい。
「クレープって、蓮は甘い食べ物苦手だろ?」
「バーカ俺じゃねーよ、柚がいたらあそこになるに決まってるだろ」
そんな奢りの話をしていると後ろから声がした。
「呼んだ?」
直人の後ろには眼鏡をかけ、桃色の髪が特徴的な女の子がいた。
少し大人しめな表情と声のトーンでその女の子【
蓮同様、中学で知り合った柚木とは偶然高校も大学も同じになり、大学内でも三人で良く過ごしている。
「おぉ柚、噂をすれば、だな!」
「おはよう、柚」
「う、うんおはよう・・・」
「何だよ柚、顔赤いぞ?」
直人の挨拶の返事に少し顔を赤くした柚に気付いた蓮はニヤつきながらそう言った。
「うっさい!!」
「痛ぁ!!」
茶化した蓮に蹴りを入れる柚木。
相変わらず仲が良いのか悪いのか、相性は良さそうだけど・・・
「それで?私がどうかした?」
「いやまぁ、直人が何か奢ってくれるって言うから何がいいかなぁって考えてた所だ。」
「ちょっ!蓮!!」
「本当!?じゃあ私、駅前のクレープがいい!!!」
勝手に話が広がっていき普段クールな性格の柚木は珍しくウキウキし、ムカつく事に蓮はニヤついている。
僕が金欠って知ってるくせにこんな提案、いや命令に近い事して来やがって。
「なっやっぱりクレープになっただろ?」
「こいつ・・・」
自分の予想が的中したせいか、僕に向かってドヤ顔をしてくる蓮。
やはりさっきの褒め言葉は撤回しようと心に決めた。
「わかったよ、元はと言えば僕が悪いんだし今回は奢るよ」
財布の中身が寂しくなる事を覚悟しながら直人はその日の講義を終え、三人でクレープ屋に向かった。
日も落ちかける夕暮れ三人は駅前でクレープを食べながら会話をしていた。
「そういえば何で直人は蓮に奢る約束なんてしていたの?」
「えっとそれは・・・」
頬をかいて言うまいか考えていると横から蓮が入ってきた。
「実は~直人が~既読無視してきたんだよぉ~」
「間違ってないけど何だその気持ち悪い言い方」
所々文字を伸ばしおねぇ口調で話し出す蓮
僕も思わず言葉が出てしまった。
「へぇ、直人が既読無視するなんて珍しいね、いつも三分以内にはメッセージ返してくれるのに」
黙ってるほどのことでもないし二人には打ち明けることにした。
「そっか・・・なんか悪かったな、無理に聞き出しちまって」
「いや、いいって別に二人が謝ることじゃないだろ?僕が勝手にフラれて落ち込んでたってだけの話なんだからさ」
言葉ではそう言っても表情や声のトーンが沈んでいるのは自分でもわかる。
「でもなんだか元カノの事、忘れられなくてさ・・・女々しい話だけどさ」
スマホアプリの【アルバム】内にある元カノとの思い出の写真一つ一つを説明できそうなくらいには記憶に焼き付いていた。
初めて好きになった相手だからなのかはわからないが、その写真を見るたびに涙が落ちそうになる。
「僕・・・大好きだったんだな・・・」
願っても戻らない現実にそう呟いてしまう。
「お前のその傷穴を埋める方法を教えてやろうか?」
「え?」
そう話す蓮の方を向くと当然と言えば当然な答えが来た。
「新しい恋をすればいいんだよ」
「そう簡単に言っても・・・」
「その点は安心しろ、過去何人も彼女作ってきた俺が教えてやる」
それは誇って言う事なのか?
「それに意外と身近に転がってるかもしれないし・・・な」
その言葉と共に柚木の方を見る蓮だったが。
「余計な事言うな!!」
と、また少し赤面した柚木に蹴り飛ばされてしまう。
やはり仲が良いのかわからないが、そんな二人のやり取りを見ていると不思議と笑えてきた。
その表情を見た蓮と柚木も安心したように微笑む。
普段から仲のいい二人に打ち明けて正解だったかもしれないな。
まだ完全に忘れられたわけではないが、少し心がすっきりしたように思う。
「そう言えば、蓮はいつもどんな風に彼女作ってるの?」
純粋な疑問でもあった。
中学性時代から彼女がいない期間のほうが短い蓮、告白される事も多いみたいだが、本人曰く自分から告白したいみたいだ。
そもそも僕は女性との出会いが少ない、蓮のように誰とも明るく話せる性格でもないし・・・
そう考えていると蓮はスマホをいじり、とあるアプリが表示されている画面をこちらに向けてきた。
その画面を僕と柚木は覗き込む。
画面には赤い鳥が飛び立ちそうなアプリアイコンが表示されていた。
「なにこれ、SNS?」
「そう、《ツイスト》つってなここ最近若者の間で有名になってきた所だ。」
「あーこれ知ってる、大学の友達も最近始めたって言ってたよ」
どうやら認知していないのは僕だけのようだ。
SNSの類は《RAIN》しか経験のない直人は首を傾げていた。
「私もこのアプリについて少し聞いたことがあるけど、直人にはおススメしないなぁ」
「どうして?」
「だって・・・直人は純粋すぎるから」
「そんな理由!?」
少しうつむいた表情でそう言う柚木、純粋な自覚はないけど…ダメな事なのか?
そう考えていると柚木が直人の肩を持ち自身の方へ引き寄せる
「SNSの女は怖いんだよ!」
「直人は顔が小っちゃくて、かわい・・・純粋だから!」
「きっと悪い大人の女性にひょいって食べられちゃうよ!!!」
川井?誰だ?
まぁ、そこはどうでもいいか
「あはは、食べられちゃうって、そんな子供をビビらすような表現しちゃって・・・」
「そう言うとこ!!!」
「はい!!!」
急に慌てたように怒り出すから思わず返事をしてしまった。
そんな怒らせる事言ったかな?
「ま、まぁ物は試しだ。とりあえず帰ったら試してみろよ」
「このアプリって本来はSNS用として活用されてて、マッチングアプリと違って金もかからない。女の子とのワンチャンス狙ってる男が多い事を女の子側も理解してるから、誠実なメッセージを送ると意外と話せる人が多いんだぜ。」
「なるほどね、蓮はいつもこうやって彼女作ってた訳か」
「まぁな、ただ!」
急に大きな声で忠告するように蓮は言葉を発したので少し体がビクッと跳ねてしまった。
「柚が言うみたいに援助交際を仕掛けてくる女の子もいるから気をつけろよ」
「とりあえず了解、ありがとう」
「おう」
そうやり取りをする二人をみて柚木は「心配だなぁ・・・」と呟いた。
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