第2話夏の電力問題

私の名は『真実 一路(まなみ かずみち)』。


この国を想い、人生をこの国の為に捧げるべく国政に身を置く職業に従事する、いわゆる国会議員である。


政治家なんて、みんな自分達の利権ばかり考えているような奴らばかりだ!


なんて事を嘆く有権者の方もおられるが……確かにそんな政治家が居ないとは言わない。


だが、少なくとも私は違う。


この日本の為、そして国民の幸せの為にこれまで粉骨砕身国政に従事して来たつもりだ。



政権政党としての責任は重い。


さしあたって今の最大の課題は、未曽有の規模でこの日本を襲った大震災後の復興。


そして、この震災によりその安全性が疑問視されている原発の問題……


皆さんも御存知のとおり、日本の電力供給は今、非常に厳しい状態であるのだ……



          *     *     *




 今朝方、党の幹事長から電話を頂き、今年の夏のエネルギー問題についての相談を持ちかけられた。


「解りました。では、早速これからそちらの方へ伺いますので!」


私が幹事長のもとに顔を見せると、幹事長は酷く浮かない表情で、煙草の煙と共に開口一番こう呟いた。


「困った事になったよ、マナミちゃん」


私の名前は『真実 一路(まなみ かずみち)』。


「幹事長…その『マナミちゃん』っていうのは、やめて貰えませんか?

私、行きつけの飲み屋のねーちゃんじゃないんですから」


「じゃあ、マナリン!」


「……殴るぞ」


「…まあ、そんな事はどうでも良い。実は相談というのはだね……」


あっさりと話題をすり替える幹事長。


私はどうでも良いとは思わないが、とりあえず今は幹事長の話を聞く事にしておこう


「総理の判断で、東北に続き静岡の原発が停止されたのは知っているね?」


「勿論。…しかし、今は良いとしても、電力需要の多くなる夏はどうなさるおつもりなんです?」


私は、単刀直入に幹事長に尋ねた。


「そういえば、去年の夏は暑かったねぇ……ホントにが無かった!」


今のはダジャレなのか?……私は笑った方が良いのだろうか?


「そうです、去年の夏は酷い猛暑で、それ故エアコン使用の急増で電力需要がかなり上がったと記憶しています。何か対策を打たないと、今年は大変な事になりますよ!」


「クール・ビズ推進という政策も提案されているようだがね……総理主導で、こんな方針も検討されている」


そう言って、幹事長はスーツの内ポケットから一枚の写真を取り出し、私に差し出した。


「こっ…これは……」


写真には、とある高級クラブで美女三人に囲まれ、その中心で満面の笑顔でピースサインを決め込む幹事長の姿が写っていた。


「あっ、間違えた!…それでは無くて、これだ」


まるで、手品師並みの素早さで私の手からその写真をひったくり、別の写真とすり替える幹事長。


次に渡された写真に写っていたのは、赤いふんどし一丁で誇らしげな表情と共に、肩を並べてポーズを決める総理と幹事長の姿だった。


「どうだね、だ。夏の国会は議員全員それで臨もうという話があるんだが……」


「シュール過ぎますよ…幹事長……大体、議員は男性ばかりではありませんからね」


「なる程、女性議員からセクハラだの何だのと抗議されても厄介だからな……じゃあ、この法案を提出するのはやめて……」


ホントにやろうとしてたんだ……



          *     *     *




「あの震災以来、節電の意識は国民にも定着しつつあります!ただ、エアコンの快適さに慣れてしまった国民が、あの暑い夏にもそれを続けてくれるかどうか……」


クール・ビズもいいが、何しろ夏の暑さと言ったら裸でいても暑い位である。電力需要の伸びは、避ける事は出来ないであろう。


すると……


「夏は暑いからダメだと言うんだね?」


突然、幹事長が真剣な顔で私にそんな事を尋ねて来た。


「それはまぁ、当然と言えば当然の論理だと私は思いますが……」


今更、そんな当たり前の事を私に訊かれても困る。


もしも、夏の暑さを自由にコントロール出来るというのならば、話は別だが……


真剣な表情で考え込む幹事長の真意が掴めずに、私は暫くの間幹事長の前で無言のまま、その様子を傍観していた。


一分……二分……


そして三分が過ぎた。


先程から、煙草の煙をくゆらせながら何か真剣な表情で思案していた幹事長が、突然意味不明な事を言い出したのだ!



「じゃあ、かぁ~」


















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