永遠の魔女は、もういない
春木千明
魔法のオノ
第1話 木こりの男 1
木々が良く育つ森だった。
間伐は必要無いくらいに均整が取れていて、背の高い木ばかりでなく、野生の草花もよく育つところだった。
木こりの男は森の所有者の親戚で、稼ぎのために森の奥の方まで木材を取りに来ていた。
深い森の中、方向感覚を失い彷徨い初めて二日が経ちそうになる。
腹も減り、眠気と疲れが出て来ていた。
気がつくとそれはいつの間にかあった。
質素な家だった。
築何年立っているのかわからないが、壁にツタが這い、緑化している。
「誰か、ごめんください。誰かいませんか」
木こりの男は扉をノックして尋ねてた。
ギィと扉の音がなると中から少女が出てきた。
黒染のワンピースにトンガリ帽子、一目でこの少女は魔女だと男は悟った。
「あぁ、魔女様の家でしたか。私はこの森を管理する木こりの一族のものです。薪を取ろうとやって来たのですが、道に迷ってしまいました。どうか助けてはくれませんか」
「そうか。ミーシャの一族の子か。森の中は大変だったろう。飲み物でも飲んで行くと良い」
魔女は手招きして家の中へと案内した。
家の中は透明な食器やら棒やらが立ち並んでいたが、整頓されている様子ではなかった。
魔女は奥の方から陶器のカップを持ってくると水を注いで木こりの男に渡した。
「ありがとうございます」
木こりの男は礼を言うとカップの水を飲み干して一息ついた。
「ところで木こりの君。君はなぜここまで来たのかな」
「先ほども申した通り、薪を取るためでございます」
「あぁ、質問が悪かったね。ここは何か望みのある人間だけがよりつける場所なんだ」
「望み、ですか?」
「そうだ。そういう風に魔法で作られた場所なんだ。何か欲しいものが無ければここには来れないんだ」
魔女はとても落ち着ついた声で話す。
「今の子達は『魔女の家』の話を知らないのか」
木こりの男は何のことかさっぱりわからなかった。
「……森の中には魔女が住んでいる。魔女の家には願いのあるものしか辿り着けない。魔女はそんな人間に興味を持ち、ひとつだけ魔法をかけてくれるだろう……。少し昔の言い伝えさ」
木こりの男は理解するのに時間がかかった。
そんな上手い話があるのだろうかと疑った。
魔女はそんな木こりの男を見透かしたように笑みを浮かべる。
「まぁ、疲れているところだろう。今日はここに泊まって、明日の朝まで考えるといい」
そう言って魔女は空き部屋に招待すると、木こりの男は一人になった。
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