終末世界はエントピア

隼ファルコン

第?話 未曽有の大災害

 西暦20XX年

 

 世界は平和をうたっていた。幾千いくせんもの危機を乗り越えた先にある真の安寧あんねい協定きょうていの時代。

 全ての危険因子きけんいんしが取り除かれたわけではない。ただ、過去の暗雲災厄を二度と訪れさせないよう、人類が奮闘ふんとうしているだけだ。そのおかげか、少なくとも未知の恐怖に人間が怯える世界はとうに過ぎた。


 そんな時だった。平和な時代に終止符ピリオドが打たれたのは。


 謎の生物の大量発生。現代のテクノロジーと人間の底力をもってしても抗えない絶対的な狂気きょうき


 この時人類は初めて気づいた。やはり人類には真なる楽園らくえんは訪れないのだと。誰もが楽しく暮らせる空想的くうそうてきなユートピアではなく、時を重ねようと確実に訪れる偏執的へんしつてきなエントピア。


 この時に、世界全土で何億、何十億の人間が滅んだことだろう。目途めどすら立てることのできない大規模だいきぼ崩壊ほうかい。人類が今までに積み上げてきた道筋ぶんめいは、この時完全に瓦解がかいしたのだ。数少ない生き残りの人類も、自身の崩壊を望む者ばかり。


「俺は…こんな世界…」


 そんな中、一人の男が小さく言葉をこぼす。彼も漏れなく、絶望的ぜつぼうてきな表情を浮かべている。


 ここは、日本の中の東京都世田谷区に存在する小さな集落だ。今の人類には都市といった大それたものはない。細々と、狭い範囲で暮らすしかないのだ。


 だがしかし、幸いなことに今現存している人類は強い。何億もの人類が死んだ。逆を言えばあのを生き残ることができた者たちだ。大量発生した謎の生物たちのかげくぐり、食料を調達することも可能だ。


 だが、それだけではいけないのを人類は重々承知している。


「俺が…この世界を変えて見せる」


 ある男は、決意を固めた。変えられないかもしれない。変える前に自分がどうにかなってしまうかもしれない。そう分かっていながらも、運命に抗うことを決めたのだ。


 男は集落の仲間たちに別れの言葉を告げると、たった一人でこの場を離れる。この男は運命に抗うことができるのか、はたまた運命を享受きょうじゅさせるのか。

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