悪の片鱗

第1話 絶望の通告

 2025年


 世界の生態系せいたいけいに大幅な変化がおとずれた。既存の生物の水準常識を大きく超える新生物【魔遇獣マリオネータ】が出現した。


 最初こそ世界各国の軍隊ぐんたいで対処可能なレベルであったが、時間が進むにつれ、迅速じんそくかつ容易な対応ができなくなった。


 そこで国際連合こくさいれんごうは新たな政策を発表した。これを機に人類は新たな次元ステージへと進むことを余儀なくされた。


 国際連合によって新たに開発された新薬を赤子から老人まですべての人類に投与することで、全人類ぜんじんるい超常ちょうじょうの力を得ることができる。超常の力の内容は、完全ランダム性であり戦闘向きの力を持つものが新たに魔遇獣マリオネータと戦うこととなった。


 国際的な連携れんけいにより、世界には再び安寧あんねいが訪れた。


「いやぁ…歴史ってマジめんどくせぇよなぁ…今が平和なら結局それでいいのにさ」


「そうだよなぁ、めっちゃ分かる。結局魔遇獣マリオネータと戦うのに知力なんかいらねぇだろ。こんなんそういう能力持ってるやつの方が有利じゃん。」


「それより知ってっか?魔遇隊日本支部の支部長の『五月テミス』さんって滅茶苦茶美人らしいぜ?」


 第一次人類変革期の授業が終わり、室内のいたるところで談話だんわが聞こえてくる。昨今さっこんの実力社会において、学術がくじゅつというのはあまり人気がなく、やる気のない者が多い。


 ここは、日本の東京都世田谷区に存在する新時代の軍【魔遇隊マリオネータキラー】を育成する学校である。この学校では魔遇獣マリオネータ討伐とうばつするために必要な知力、精神力、そして戦闘能力せんとうのうりょくはぐくむことを目的とする。


「お前たち、勉強は真面目にするべきだぞ。そうすることで相手の弱点や―――」


「あ~あ、始まっちまったよ。こうなっちまったらこいつは止められねぇんだよな」


 学業がくぎょうに真剣にいそしまない生徒たちに、激励げきれいの言葉を投げかけるのは、この校の生徒会長を務める『阿久戸楽芽あくどらくが』だ。


 この校で最も優秀な魔遇隊マリオネータキラー候補である。それどころか18歳以下であれば、世界全体で見たとしても10本の指に入るであろう程の実力者だ。


 魔遇隊マリオネータキラーが掲げる知力、精神力、戦闘能力のどれもが高水準こうすいじゅんであり、超常の力を殆ど行使せずとも魔遇獣マリオネータ討伐とうばつすることができる。


「―――ということだ。君たちもいそしんで学校生活を謳歌おうかするように」


 楽芽らくがの長い話が終わり、当の本人は満足げな表情をしてこの場を去る。


「いい奴だし、すげぇ奴なんだけど…ちょっとお節介すぎるよなぁ。…でもなんかやる気湧いてきたわ!!後で特訓しようぜ!!」


 楽芽らくがの説得の甲斐かいもあり、また未来ある若者の運命が変わった。


「それにしてもすげぇよな…あいつ。確か10年前ので両親がいなくなってるってのに…」


「おい!!それ、絶対楽芽の前で言うなよ?多分末代まつだいまで殺しにかかってくるぞ」


 何やら不穏ふおんな会話が聞こえてきたが、信憑性しんぴょうせいの欠片もないただの噂だ。


「はぁ…」


 今日はどっと疲れた。幸いなことに今日は放課後の用事はない。最近やっと俺の超常の力の制御ができてきた。『未来予知』超が付くほどの強能力ハイスペックだが…扱いこなせないとり歩くすべての人の数秒先の未来が見えてしまう。そのせいで廃人はいじんにでもなりそうなほど辛い。


「…とりあえず今日は、部屋に帰って寝よう」


 この学校は寮制度りょうせいどを採用している。少し離れてはいるが、迅速じんそくな活動を行えれるようにだ。だが、半ば強制的に寮生活なせいで、生徒には少し不評だ。まぁ、俺にはほとんど関係ないが。


 俺は疲れをいやそうと自室へ歩みを進める。気丈きじょうにふるまってはいるものの、人間というのは常に心身をすり減らす生物だ。休息は早めにというのは俺のモットーだ。


 俺は寮室りょうしつに戻ると、そのままベッドに直行する。風呂に入ったりなど身だしなみも整えたかったが、そんな余裕すらない。

 明日の5時に目覚まし時計をセットし、俺はどろのように深い眠りにつく。


 俺は夢を見た。予知能力の影響か、良く夢を見る。まぁ別に整合性のない夢ばかりだ。予知夢よちむなどではない。

 

 今日も夢の内容を適当にこなすつもりだった。だが、今回は少し異様いような夢のようだ。荒野こうやはいビル、都市の中に草木が生い茂る。まさしく世紀末せいきまつな光景だった。


「見たこと無いタイプの夢だな…終末世界か?まぁ…適当にこなすか」


 今回の夢も、タスクのようにこなすつもりだった。だが、俺の願いはすぐさま叶わぬものになった。


『10年後、お前は人類のほぼ100%が滅びる光景を見るだろう』


 脳内に直接言葉が流れる。その言葉と同時に、俺は目を覚ます。10年後に人類が滅びるだって?そんな夢見るなんてな。相当疲れてるかなんかだろう、うん。


「はぁ…朝だってのに、こんな馬鹿げた夢見るとなんか憂鬱だな」 


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