第35話 秀頼 阿波鳴門に現る 改訂版
※この小説は「続 政宗VS家康 秀頼公諸国巡見記」の改訂版です。実は、パソコンのトラブルで編集中に保存できなくなり、新しいページで再開した次第です。文言や表現を一部修正しております。もう一度読み直していただければと思います。
空想時代小説
冬になろうとしているころ、秀頼らは鳴門の渦潮を見ていた。
「あんな渦は初めて見ました」
と大助が言うと
「あの渦にのまれたらどうなるのでしょうか? そのまま地獄行きですかな」
と義慶が返す。
「その前に船が壊れるだろうから、やはり地獄行きかな」
と秀頼が応えると
「おーこわ。これだから海は怖い。上田の山の方が平和だ」
と坊主らしくない言葉に
「義慶はそろそろ帰りたくなってきたか?」
との大助の言葉に
「いえ、そんなことはござらん。ただ足が地についていないと不安なだけだ」
と義慶が応える。秀頼も心からそう思っていた。浮ついた気持ちを戒めねばと常々思っているが、全国を巡見してきてより一層強く感じていた。
「殿、そろそろ寒くなってまいりました。ここで冬を越すことを考えては?」
と大助が言うと、秀頼はうなずいた。その言葉に義慶は喜んで、勇んで前に進む。と、そこへ
「助けてー!」
と一人のおなごが駆けてくる。後ろから数人の男が追いかけてくる。そのおなごは義慶の後ろに隠れる。
「お坊さま、お助けくだされ。悪い男たちに追われております」
そう言われると義侠心の厚い義慶は見過ごせない。薙刀をふるって、その男たちを追い払った。
「ありがとうございます。一時はどうなるやと思いましたが、助かりました」
と頭を下げて、去っていった。義慶はその後ろ姿をにやけた顔で見送る。それを見た大助は
「なにをにやついている。このくそ坊主が」
と言うと、でれーとした顔で
「いい女だったぞ。香のにおいもよかったなー」
と怒りもせずにいる。ふだんならば追いかけっこをするところである。
湯治宿に入ると、そこに先ほどのおなごがいた。義慶がすぐに気づいた。
「おぬしは、先ほどの・・・」
「先ほどはどうもありがとうございました。同じ宿でございましたな」
「奇遇であるな。殿、いかがですか? 一緒に夕餉でも」
と聞かれた秀頼は黙ってうなずいた。
「殿の許しがでたぞ。一緒に夕餉をとろう。後で我らの座敷に参れ。ところでおぬしの名は?」
「ありがとうございます。わたしの名は加代と申します」
夕餉の時間となり、加代が秀頼らの座敷にやってきた。旅姿ではなく着物姿はなかなか艶っぽい。義慶は鼻の下を伸ばしている。そこで、大助が加代に声をかける。
「加代殿はどうして旅をしているのだ?」
「三味線のお師匠のお供をして諸国を歩いておりました。ですが、お師匠は昼間の物盗りに殺されてしまい、一人になってしまいました」
「それで、これからどうされるつもりじゃ?」
「大坂にお師匠のご実家がありますので、そちらに行こうかと思っております。遺品もありますし・・」
「加代どののご実家はどちらなのじゃ?」
という問いに加代は返事をためらった。しばしの時間を経てから
「松江でござりまする」
と応えた。だが、それ以上深くは応えようとしなかった。少し気まずい雰囲気がながれた。故郷のことには触れられたくなかったのかもしれない。もしかしたら身売りをされたのかもしれない。大助が話を続ける。
「加代どのも三味線をなさるのか?」
「はい、修行中の身ですが、できまする」
「それでは後で聴かせていただけるかな」
「はい、お助けいただいた御礼です。喜んで・・」
ということで、三味線を聴く機会があったが、決してほめられる技量ではなかった。修行中というのは本当のようだ。
夜半、秀頼は床に入った。秀頼は一人部屋である。隣室に大助と義慶が控えている。深夜、秀頼の部屋の障子があく。そこに一人の影。懐から短刀を取り出し、振りかざすと同時に秀頼の布団に突き刺す。だが、そこに秀頼はいなかった。部屋の隅にうずくまっていたのだ。それに気づいた賊が秀頼におそいかかる。しかし、秀頼はさる者、短刀をかわしてその腕をとる。おなごの腕であった。
「加代どのか?」
その声に隣室の大助と義慶が灯りをもって入ってきた。義慶が
「お加代どの、どうして?」
と口をあけて放心状態だ。大助がとりおさえて、縄で手をしばる。
「何かおぬしに殺気を感じ、用心をしておった。なにゆえ、われをねらった?」
「弟の仇ゆえ」
「弟?」
「月山富田城で討ち取られた松原次郎介だ。血はつながっていないものの幼きころから一緒に過ごした仲。叔父より仇の名は木下秀頼と聞き、四国にいると聞いてさがしていた次第」
「あの次郎介であるか、仇と思われても仕方ないな。われが斬った唯一の人間だ」
「しかし、あれは真剣勝負の上でのこと。お互い納得づくの勝負でございました」
と大助が助け船をだすが、
「殺したことには変わらん。加代どのを放してやれ」
「そんな、番所に届けないのですか?」
「仇討ちは公認じゃ。われとて不幸な者を増やしたくない。それに負の連鎖は避けたい。われは次郎介にいどまれて戦ったが、勝ったのはこちらじゃ。恨まれて当然だ。だが、われが亡くなれば負の連鎖は無くなる。妻や子はおらんからな」
「そんなー殿! 殿が亡くなれば多くの者が悲しみまする」
「悲しまれるうちが華だな」
ということで、加代は解き放たれた。加代は軽く会釈をして部屋を去っていった。
「いいのですか? またねらわれるのでは・・」
と大助が心配すると
「その時はその時だ。それもわれがもつ運命やもしれぬ」
「そんな悠長な」
鳴門は土佐の支藩であり、鳴門城には城代がいる。土佐ほどの被害はなかったものの、崩れた家があったので。秀頼らは湯治宿に泊まりながら復興作業にあたっていた。その輪が広がり、多くの者が片づけ作業や家づくりに汗を流していた。しばらくして、その中に加代がいることに秀頼らは気づいた。警戒はしたが、秀頼は殺気を感じないということで、そのままにしておいた。義慶だけがやたらと気になっていた。
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