第30話 秀頼 再び琉球に現る 改訂版

※この小説は「続 政宗VS家康 秀頼公諸国巡見記」の改訂版です。実は、パソコンのトラブルで編集中に保存できなくなり、新しいページで再開した次第です。文言や表現を一部修正しております。もう一度読み直していただければと思います。


 空想時代小説


 鹿児島へもどった秀頼一行は、琉球に行く船に便乗して、またもや南の国へ向かった。ロドリゴ・ロペスとの約束は初夏である。まだ春なので、琉球国内を巡見することにした。

 中城(なかぐすく)村で下船し、まずは城跡まで登ってみた。急な登りは今までの城の中で随一である。一刻(2時間ほど)で登ることができたが、皆ばてている。義慶は頂上で横たわっている。

「歩くのはもう御免だ」

 と騒いでいる。

 頂上の本丸の石垣は日の本と大きく違っていた。薄い板を重ねるように積み重ねている。それに石垣が曲線となっている。直線が多い内地の城よりは守りやすいと思った。なんといっても違うのは見晴らしの良さである。海の果てまで見えるし、地球が丸いというのがよくわかる。

 陸地側はなだらかな斜面になっている。この城を攻めるならば、陸地側からでないとつらいと思ったが、すでに廃城となった城である。これからの時代の城ではない。統治するには、ふもとの館で充分なのだ。

 その日は、中城村の旅籠に泊まった。港町なので、荒くれ者が多い。飲んだくれている客も結構いた。下の階で義慶と春馬が酒を飲んでいると、義慶がからまれた。

「おぬし、坊主のくせに酒を飲むのか。くそ坊主だな」

 と言われたのだ。最初は相手にしていなかったが、あまりにもからむので、

「なりは坊主だが、武家監察取締役の配下だ。文句を言われる筋合いはない」

 と応えると、

「なにを生意気な。表に出ろ!」

 とけんかになりそうな勢いだ。一緒にいた春馬が必死に止める。

「ここでけんかをしたら、殿と一緒に旅ができなくなるぞ。がまんしろ」

 と春馬にきつく言われたので、義慶は自分から手をださなかった。何発か殴られたが耐え忍んだ。

 秀頼らが外から帰ってきて、義慶の姿を見て驚いた。しかし、春馬からことのあらましを聞いて

「義慶、よくぞ耐えたな」

 とほめていた。その後、お糸から心のこもった手当を受けて、目尻が下がっている義慶であった。

 首里への道中は、のんびりしたものだった。水牛にひかれた台車に乗ったり、見知らぬ果物を食べたりと、今までの巡見で一番楽な旅であった。

 その日の夕餉で、大助と義慶・春馬はしこたま飲んだ。

「琉球はいいところですな。あたたかいし、飯はうまいし、酒もいい」

 なんて3人で盛り上がっている。義慶がのんだくれるのはいつものことだが、3人ともいうのは珍しかった。その3人を甲斐甲斐しくお糸が面倒を見る。

「困った方々ですこと」

 と言いながら、細々と動くお糸を見て、秀頼は目を細めていた。

 夜半、寝入ったところで旅籠で火がでた。秀頼は宴会場で横になっていた3人をたたき起こし、逃げることができた。だが、お糸がでてこない。部屋がないということで奥の女中部屋に寝ていたというのだ。他の女中は逃げ出してきたが、お糸は逃げ道がわからず煙にまかれたのかもしれない。大助は火の中にとびこまんばかりの勢いだ。義慶と春馬が必死に止めている。

「お糸ー!」

 という大助の悲痛な叫びが響く。


 火がおさまって、焼け跡に一人の焼け焦げた死体が転がっていた。全身真っ黒で、炭の色になっている。宿の主人に聞くと、女中や客でいなくなった者はいないという。その黒焦げの死体がお糸であることは間違いなかった。大助は泣き崩れている。黒焦げの死体に抱きついて

「おいとー! ごめん。オレと一緒の部屋にいれてやれば、こんなことにはならなかったのにー!」

 と、わめいている。

 宿の空き部屋が2つしかなくて、秀頼と大助、義慶と春馬に分かれて泊まることになり義慶らの部屋で宴会を始めて飲みつぶれてしまったのだ。女中部屋に泊まると言ったのは、お糸自身なのだ。だが、暗い奥の部屋で火事に気付くのが遅れ、煙で逃げ道が分からなかったのだろう。苦しんで死んでいったお糸を思うと、皆、涙を隠せなかった。

 首里城の麓に墓地があり、そこにお糸を葬った。大助は放心状態が続いている。食事もまともにとっていないし、人生で初めて好いたおなごを失ったのだ。無理もないことである。結局3日間、墓の前で泣き続けていて、4日目に秀頼らが行くと大助は横たわっていた。衰弱しきっていた。義慶と春馬が抱きかかえて、宿での看病が始まり、目を覚ましたのは翌日であった。


 そこにロドリゴ・ロペスが乗ったポルトガル船がやってきたとの知らせが入った。約束の日よりもひと月早い。余裕をもってやってきたのだろうか。

 数日後、秀頼は大助らを伴って那覇の港まででかけた。

「ヒデヨリさま、もういらしていたのですか?」

 ロドリゴはなれなれしく話しかけてきた。正式の場ではないし、自分の船ということもあり、態度が大きくなっていたのかもしれない。秀頼にしても正式な場ではないので、気楽に対応できる。

「そちらこそ、はやく琉球入りされたんですな」

「嵐にあわずに来れたので、早く来ました。ここでゆっくり過ごすつもりです。どうぞわが船を見てください」

 とロドリゴは船内を案内し始めた。日の本にはない大きさの船である。船倉の一層目は作業部屋と船長室なのだが、大砲が左右に一門ずつ置いてある。窓は閉じているので、外からは見えない。

「海賊対策です」

 とロドリゴは言っていたが、逆もあり得ると秀頼は思った。商船なのにいつでも軍船に転換できる船なのだ。二層目は船員の部屋である。だが、櫓が左右に10本ずつ置いてある。

「風がない時に、この櫓をこいですすみます。ふだんは船内においてあります」

 敵に追われた時も、この櫓を使うことは明白だ。三層目は倉庫である。水や食料だけでなく、商品も置いてある。木箱に入っており崩れないように工夫されている。さすがポルトガルの商船である。四層目には水が木箱にためられている。

「この水は飲むためのものではありません。船の傾きを防ぐための物です」

 この仕組みには驚いた。日の本の船は平底でこの四層目がないのだが、ポルトガル船は丸底なので、これができる。転覆を防ぐには友好な工夫だ。

 最後に操舵室を見せてくれた。舵だけでなく、そこに見慣れぬ計器があった。

「羅針盤と申します。星の位置を確かめて方向を決めるものです。広い海を行く時は必要でござる」

 そこで秀頼が聞いてみた。

「われも広い海を渡って、異国へ行ってみたいと思うのだが、行けるかの?」

「もちろん」

 とロドリゴは即答した。それを聞いた大助が

「殿、今は武家監察取締役の身、異国へ行ったら、その役目を果たすことができませぬ。行くならば全国をめぐった後にしてくだされ」

 と大助にきつく言われた。秀頼は大助が元にもどったことが嬉しかった。

「そうだな。大助の言うとおりだな」

 ということで、ロドリゴの船をあとにした。


 ひと月後、琉球王朝で調印式が行われた。薩摩藩からは家老がやってきており、九州探題の加藤家からも目付がやってきていた。秀頼は立ち会い人である。無事調印式が終わり、九州諸藩はポルトガルとの交易ができるようになった。

 秀頼はポルトガルの代表にクギをさした。ロドリゴが通訳する。

「朝廷も交易は認めると言っておる。ただし、領地委譲などということはあってはならんし、征服につながるような武力の行使は絶対に認めない。そういうことがあれば、日の本全体と戦うことになるし、キリシタンも禁止とする」

 ポルトガルの代表はかしこまって聞いていた。最後に祝いの酒ということでポルトガルの酒を飲んだ。やたら甘ったるい酒だったが、その後に酔いが急にまわってきた。飲み過ぎると大変らしい。シェリー酒であった。

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