第18話 秀頼 伯耆鳥取に現る 改訂版

※この小説は「続 政宗VS家康 秀頼公諸国巡見記」の改訂版です。実は、パソコンのトラブルで編集中に保存できなくなり、新しいページで再開した次第です。文言や表現を一部修正しております。もう一度読み直していただければと思います。


 空想時代小説


 秋が感じられるころ、秀頼らは鳥取城跡のふもとにいた。見上げる標高263mの山全体が城であり、その堅固さは見ただけでわかる。石垣が幾重にも積み上げられ見事である。ここは吉川経家が守る鳥取城を秀頼の父秀吉が「渇え殺し」をしかけたところである。いわゆる兵糧攻めをしたのだ。それが半端な兵糧攻めではなく、城兵1500人のところに地元の民百姓を追い立て、4000人に増やし、その上異常なほどの高値で近在の村々から米を買い取ったのである。それもあろうことか、城の家老が兵糧米を一部売り飛ばしたという話もある。

 吉川経家は、この戦のために毛利家から呼ばれた将で、実権は家老どもが握っていたからの所以である。家老どもがそういう輩たちであるから士気は高まらない。しかし、経家は毛利本家から死守せよとの命を受けていたので、頑として抵抗を示したのである。そこで、馬だけでなく、死者の肉も食べたという悲惨な話が残るという壮絶な飢えの世界が城内におきたのだ。

 秀頼はいたるところで手を合わせ、冥福を祈った。父秀吉が行った戦の中でも特筆すべき凄惨な城攻めであったのだ。

 城下の旅籠に泊まった。旅籠で海の幸に舌鼓をうっていると、代官所から役人がやってきて、明日代官所に来るようにとの命がきた。大助は

「何事でしょうか? 我らの素性がばれたのでしょうか?」

 と秀頼に話しかける。

「うむ、少なくとも捕まえる気はないようだな」

「でしょうな。捕まえるならば、この場で連れていくはずだからの」

 と不思議な命に迷いながらも眠りについた。

 翌日、秀頼らは代官所に出向き、客間に通された。そこに代官の内藤修理という侍がやってきて、

「鳥取へようこそいらっしゃいました。木下秀頼公と見受けられますが、いかが?」

 秀頼は隠す必要はないと思い、

「たしかに木下秀頼である」

「やはりそうでございましたか。京の細川忠興公から各代官所に文が届きましたし、秀頼公らを警護せよとの命が毛利本家からもきております」

「警護?」

 秀頼は思いもよらぬ言葉を聞いた。大助が代官に聞く。

「なぜ警護を? 我らは諸国見聞の途中、警護をされたのではそれは叶わぬ」

「実は、鳥取をはじめ、松江にしても旧山名家の領地には隠れ武士が多数おります。秀吉公に討ち取られた者たちの身内です。各地の代官所に秀頼公来訪の知らせがきているということは、その者たちにも情報が流れていると考えてもおかしくありませぬ」

「父秀吉の蛮行には胸を痛めておる。いくら信長公の命とはいえ、多くの者の命を奪うような戦は避けるべきであった。それに渇え殺しという卑劣な手段をとったことは武士としてあるまじきことだと思っている」

「そのお言葉、毛利家の者として感謝申しあげまする。それゆえ、警護をして萩の地までお供したいと思うのです」

「せっかくのお申し出でございますが、先ほども大助が申したように我らは諸国見聞の途中、少数で歩いていることで目立ちませんし、攻めてくる方も少数でまいりましょう。大勢で歩いていれば、相手も大勢、それこそ死んだり傷つく者は多くでます」

「そうでございますか。それでは警護の者を少なくし、離れて付いていかせるようにいたします。そうせねば毛利本家から私めが罰せられます」

「見えぬところで付いて来られるのであれば、我らの関知することではござらぬ」

「それでは、配下の者10名ほどを萩の地まで行かせます。これ、松原を呼べ」

 と、代官は配下の松原次郎介を呼んだ。しばらくして、松原がやってきて秀頼らにあいさつをした。

「松原次郎介と申します。陰ながらお守りいたします。何かの際には、この呼び笛をお使いくだされ。その笛の音が聞こえる範囲内にいるようにいたします」

 ということで、呼び笛ふたつを渡してきたので、大助と義慶が持つことになった。

 しかし、この呼び笛がくせ物だったのである。

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