第11話 秀頼 信濃松代に現る 改訂版

※この小説は「続 政宗VS家康 秀頼公諸国巡見記」の改訂版です。実は、パソコンのトラブルで編集中に保存できなくなり、新しいページで再開した次第です。文言や表現を一部修正しております。もう一度読み直していただければと思います。


 空想時代小説


 秀頼らは、川中島の古戦場にいた。武田信玄と上杉謙信が死闘を繰り広げたところである。多くの侍が、この地で亡くなったことを思い、皆で手を合わせた。そこから海津城跡に向かった。今は真田の兵たちが常駐している。戦国の城から北信濃の中心としての城に改装中である。城代家老の海野三郎為頼が住んでいる真田屋敷に招かれた。

 その度、海野が妙なことを言いだした。

「実は、この屋敷に化け物がでます。どうやら川中島の合戦で亡くなった武田信繁公のようです」

「武田信繁とは信玄公の弟君か?」

「そうでござる。刀を振りかざして、おそってくるのだそうです」

「それはこわいな」

「中には気がふれておかしくなった者もおります」

「それはまた難儀なことだ。でも、名のある武将だから会ってみたいものだ」

「秀頼公は剛毅でござるな。おそろしくござらんか」

「この世には、化け物より怖い物が多い。化け物ならかわいいものだ」

「そうでござるか、それでは今夜もでるやもしれませぬ。どうぞお気をつけて」

 ということで、秀頼らは寝所にもどった。秀頼一人で一間を使い、その隣に大助ら3人、お糸は一人では寂しかろうということで、世話役の女中衆の部屋で寝ることになった。


 丑三つ時、異様な音が秀頼の部屋に聞こえてきた。ウーウーといううなり声である。秀頼は、起きようとしたが動けない。何かがおおいかぶさっている。

「だれじゃ?」

 と言うのがやっとだった。

「ウーウー、お主こそだれじゃ?」

 という返事がきた。まるで地獄から聞こえる不気味な声である。そこで

「木下秀頼と申します」

 と応えると

「上杉勢か?」

 と聞き返してきた。

「いえ、大坂の者でござる」

「大坂? 本願寺勢か?」

「いえ、その後の豊臣勢でござる」

「豊臣? 聞いたことがないな。あやしいやつじゃ、覚悟せい」

 と、鈍く光るものが見えた。そこで化け物は消えた。体におおいかぶさっているものも消えた。隣の部屋に行くと、3人は寝ていた。というか、眠り薬をかがせられているようだ。部屋の隅では太一も寝ている。


 朝に、皆が目を覚ました。昨晩のことはだれも覚えていないということであった。太一も屋根裏にいたが、何か異変を感じ、部屋に下りたところで眠気を感じたとのことである。

 朝餉の時に、お糸が大助に耳うちをする。

「わたし、見ました。女中の方々が大助様たちの部屋で何かお香みたいなものをたいておりました」

 そのことを秀頼に伝える。

「何かあるな」

 ということで、海野がいない時に女中部屋に行ってみた。

 二人の女中は、かしこまって頭を下げている。

「昨夜、大助らの部屋でお香をたてていたというが、それはどうしてか?」

 二人の女中は、お糸の顔を見た。見られていたことを察知したのだ。部屋が離れていたし、小娘だったので女中たちは油断をしてしまったのだ。

「それは、お香ではございませぬ」

「であろうな。眠り薬であろう」

 それに対し、返事はなかった。

「罪には問わぬ。なぜ、こんなことをしたのか、それを知りたいだけじゃ」

 しばらくして、年長の女中が口を開いた。

「ご家老の命で、屋敷の者皆でやっております」

「なに! 皆でやっているのか。どおりでしかけがこっていると思った」

 家老の海野が戻ってきたところで、呼び出しをした。

「昨夜、化け物が出たぞ」

「やはり出ましたか? 大丈夫でしたか」

「うむ、なかなかおもしろかったぞ。しかけがこっていたからな」

「しかけとは?」

「うむ、あれを持て」

 と言われて、春馬がひもがついたうすい布団をもってきた。

「昨夜、これをかぶせられて寝ていて、化け物がでても起きられなかった」

 家老の海野はへなへなとなった。

「なぜ、こんなことをしているのか、そのわけを教えてくれぬか? それなりのわけがあるのじゃろ」

「そ、それは、海津城を直しているのですが、藩札を発行して費用を捻出しております。ですが、その藩札がなかなかさばけませぬ。藩の支所ということであれば、この真田屋敷でも充分なのですが、松本の殿は由緒ある海津城の復活を願っております」

「ゆえに、この地で亡くなった武田信繁公の霊が出るとなれば、城の修理をしなくていいと思ったわけか」

「そうでござる」

「大助、これは父に会わねばならぬな」

「もっと先と思っていたのですが・・いた仕方ありませぬな。それとお糸を海野殿に頼もうと思っていたのですが・・」

「お糸を手放すつもりか。薄情なやつだな。女心をわかっておらん。のう、お糸」

「わたしは、皆さまとご一緒しとうございます」

「ほら、お糸はそう申しておるぞ。面倒を見てやれ」

「殿がそう言われるなら、いた仕方ありませぬ」

 ということで、大助の父である真田信繁がいる松本城に向かうこととなった。

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