7.陥った窮地と、これから。





「戦闘はこっちに任せな、エイト! ラストは――」

「私も微力ながら、協力いたします!」



 ――魔物が洗脳を受けている。

 ラストがそう口にした直後、レヴィがこちらに下がるよう指示を出した。ラストにも同じように言おうとした彼女だがそれより先、少女は率先して戦闘に参加する。

 大剣で前衛を張るレヴィに対して、ラストは後衛だった。

 少女の周囲には赤色の魔法陣らしき文様が広がって、急速な魔素の集中を感じる。


 そして、次の瞬間だった。



「黎明の焔よ、我が敵を焼き尽くせ――【エンシェント・フレア】ッ!」



 ラストの周囲に巻き上がった炎弾が、縦横無尽にデーモンへと躍りかかる。

 彼女の『魔法』は半径数メートルの障害物を巻き込みながら、悪魔を跡形もなく消滅させたのだ。ただし、その代償は大きかったらしく――。



「な、ダンジョンが崩れる……!?」



 ダンジョンの岩壁に、多くの亀裂が生じていた。

 彼女たちの真上にそれが発生したのを目の当たりにした瞬間、俺は無意識のうちに駆け出す。そして、



「危ない……!!」

「エイト様!?」

「馬鹿、アンタ――」



 その勢いのまま、二人を力いっぱいに突き飛ばした。

 すると俺もまた前方に転がるしかない。


 轟音が鳴り響いて、土煙が舞い上がった。

 吸い込んでしまったそれで思わずむせ返りつつ、後方を確認する。



「……道が、塞がれた…………?」



 そうして、気付いた。

 俺たちが通ってきた通路は、落ちてきた岩によって閉ざされていることに。向こう側にはレヴィの撮影班。こちら側は自分とラスト、そしてレヴィの三人であるようだった。ただ、それよりもまずは――。



「二人とも、怪我はない――がっ!?」

「ばっかじゃないの!? アンタ、なんて無謀なことしてるのさ!!」



 誰にも怪我がないことを確認しなければ。

 そう考えて振り返ると、レヴィは俺の顎に思い切り右フックをかました。何やらキレているらしいが、こちらはその瞬間に脳が揺さぶられているわけで。力なく倒れ伏すと、そんな俺を助け起こしたのはラストだった。

 少女はとっさに治癒魔法らしきものを施し、レヴィに向かって鋭い視線を向ける。



「何をしているのですか、貴方は! エイト様のお陰で岩の下敷きにならなかったのだから、感謝するべきでしょう!?」

「ぐ、う……それは……」



 そして投げられた言葉は図星だったらしい。

 レヴィは口ごもり、どこか不服そうに何かを考えていた。その結果、



「そういうアンタだって、ちっとは威力を考えなさいよ! 何かは分からないけれど、あんな馬鹿みたいな威力の攻撃をしたりして!!」

「う、ぐ……そうですが……」



 これまた少女にとって、図星だったらしい。

 ラストは先ほどまでの威勢はどこへやら、明らかに視線を泳がせていた。このまま睨み合いが続きそうだったので、俺は苦笑しながらも一つ提案する。



「あの、さ。とりあえず、脱出のために力を合わせないか?」

「………………」

「………………」



 ここで言い合いをしていても意味はない。

 だったら協力し合って、現状の打破を考えた方が万倍マシだった。すると二人は顔を見合わせて、各々に肩を竦める。

 どうやら頭に血は昇っても、冷静な判断能力は残っていたらしい。

 そしてレヴィは、少し考えた後に口を開いた。



「……それで、どうやって出るっての?」

「あー……それなんだけど、な」



 何か策はあるのか。

 そう言いたげな口振りに、俺はひとまず後方の絶壁を確認する。その上で分かったことを二人に共有した。



「微かだけど、風の音がするだろ? これなら酸素は問題ないから、時間はかかるけど待っていれば救助はくる」

「え……それでしたら、私の魔法で吹き飛ばせば――」

「落ち着け。駄目だって、ラスト。下手に魔法を使えば、二次被害が起こりかねない。仮に俺たちは無事でも、向こう側が大丈夫な保証はない」

「……む、むぅ」



 すると責任を感じているらしいラストが逸るので、俺は務めて優しく諭した。下手なことをして状況が悪化する、というのは避けなければならない。

 だが、それなら――と、続いたのはレヴィだった。



「だったら、指をくわえて待ってろ、っての? 悪いけど、ダンジョンの中でそんな悠長なこと言っていられないわよ」

「それはその通り、だな。だから、こっちにできることをやろう」

「……できること?」



 彼女の言葉に、こちらは迷いなく返す。

 それが想定外だったらしく、先輩配信者は眉をひそめた。

 どうやら理解が追い付いていない様子なので、具体的に提示しないといけないらしい。俺はそこで一つ咳払いし、こう告げた。



「……あぁ、俺たちは最初からそれが目的だろ?」――と。



 その言葉に、ラストとレヴィは顔を見合わせた。

 数秒の間を置いて、ようやく二人は俺の意図に気付いたらしい。



「……エ、エイト様」

「アンタ、自分がなに言ってるか分かってんの……!?」



 揃って驚いた表情を浮かべ、彼女たちは同時にそう口にした。

 だが、俺は至って真面目に答えるのだ。



「俺は絶対に無理な提案はしない。三人が力を合わせれば、きっと――」




 分不相応だと思われるかもしれない。

 それでも、真っすぐに二人を見ながら言った。




「これくらいのダンジョン、簡単に踏破できるさ」――と。



 

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