世界でただ一人の『支配者』は、いつの間にか魔王認定されてしまう。~内定取り消しされて凹んでいたけど、ダンジョン配信を始めたら人生が変わりました~
あざね
オープニング
プロローグ 内定取り消し。
「え、それって……どういうこと、ですか?」
『いやー……私も社長に、それはないだろ、って言ったんだよ。でも業績が悪化して、人事を再検討しなければならなくなってね。申し訳ないけれど、内定についてはなかったことに――』
「内定取り消しって、もう一月も終わるんですよ!?」
俺は思わず電話越しに声を荒らげる。
それも、そのはずだ。就職活動を早々に終わらせたと思って卒業論文制作に勤しんでいたら、雪の舞うこんな時期に土台からひっくり返されたのだから。
しかし相手もかなり追い込まれているらしい。
こちらの怒りに対して、何故か逆ギレをかまして声を上げてきた。
『うるさいな、決まったものは決まったんだよ!? 私にはもう権限がないんだ、いい加減に諦めてくれよ!! いいな、このことはSNSには――』
なんだろう、録音しておかなかったことが悔やまれるな。
そんな意地の悪い発想が脳裏によぎったが、とかくこれはもう関係修復とか生半可な話ではないのは明らかだった。そうなれば、こっちも相応の対処をするだけ。
俺は話を最後まで聞かず通話を切って、大きくため息をついた。
「大学にひとまず報告するとして、どうするかな……」
大学の片隅で、鈍い色をした空を見上げる。
白い結晶がちらつく中、白い呼気が宙を昇って行った。
「こんな時期に就活再開したところで、どこも枠が埋まってるだろうし。それに卒論だってこれだけ書いたから、提出しないのはもったいない。というか留年なんて、うちの親の収入じゃ無理だろうし……」
詰んだ。これはもう、色々な意味で詰んだ。
俺は大きく落胆し、もう一つ大きくため息をつく。
「とりあえず、できるだけはやっておくか……」
◆
しかし、現実は非情である。
紆余曲折はあったが結局、俺は就職先を見つけられないままに春を迎えた。そしていま、実家へと向かう電車の中で窓の外を眺めている。
最終的に親の家業を手伝うことになったが、それをするにも資格が必要で、即戦力というわけにはいかない。そのためできたとして事務作業諸々、といったところだった。
「早いとこ、仕事を見つけないとな。……そういえば、あの会社って結局のところ、どうなったんだろう?」
そう考えて俺は、スマホで内定を取り消した会社の情報を見る。
「あ、破産申告してる……」
すると、ものの見事に破滅を迎えていた。
結果的には入社しなくて正解だった、ということかもしれない。もっとも、それで恨みが帳消しになる、ということはなかったけど。
少なくとも、溜飲は下がった。
俺はそう思いつつ何の気なしに、動画サイトを検索して――。
「もうすっかり定着したよな。……ダンジョン配信」
事の始まりとしては、日本を皮切りに突如出現したダンジョンと呼ばれる謎の空洞。その内部には、おおよそ地球の生態系とは異なる魔物が存在していた。
発見された当初は厳戒態勢が敷かれたり、俗にいう迷惑系の配信者が凸したりしたが、現在は民間企業に管理が委託されている。研究者曰く、ダンジョン内に存在する魔素がなければ、魔物たちは生存不可能……とのことだった。
「そういえば、母さんが庭にダンジョンができたって言ってたけど。相当小さい、って言ってたから申告義務がないんだっけ?」
ダンジョンには規模によって、申告の義務が決められる。
今回、俺の実家にできたダンジョンは極めて小規模で危険性がないため、国に申告する義務が発生しない。そういったものは個人所有とするか、埋めてしまうかが決められるのだけど……。
「せっかくだし、探索でもしてみるか」
物は試し。やることもないし、暇つぶしにでも使ってみよう。
俺はそう考えて、実家に電話をかけるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます