感電

維櫻京奈

ある日、雷が落ちてきて。

 バチっと音がした。ああ、どこかに落ちるなと思ったときには遅かった。


 黒い黒い、嫌な夢を見た気がして、視界が開けた。

人の気配と、バタバタっと音がしたかと思ったら、「院長! 目を、覚ましました!」と男声が聞こえてきた。どうやら病院らしい。病室とはいっても個室だった。点滴と左腕が繋がれていた。右半身がズキズキと痛んだが、起き上がれないほどではなかった。身体のあちこちに電極をつけられていて、それが一つの機械と繋がれていた。若い看護師と、初老の医師が部屋に入ってきた。気難しい顔で触診された後、心電図とカルテを交互に見ながら、小声で異常なしと言った。「具合はどう?」医師はなんで生きてるの? と言いたげな口調だった。短く「良好です」と言うとその日のうちに退院となった。あの日、雷に打たれてから二週間が経過したことをナースステーションのカレンダーで知った。


 悪名高いと噂の病院で会計を済ませ、バスに乗り込んだ。席に着く間もなくバスが発進する。なんとか椅子についている取っ手を握って、どすんと座り込んだ。粗い運転だなぁと思ったが口には出さなかった。

 最寄りでバスを降りてちょうど帰り道にあるコンビニに寄った。好きなコスプレイヤーの袋とじがついている青年向け雑誌と、おにぎり二個を買った。具は鮭と高菜。いつもの昼食だ。レジの店員はダルそうにレジに商品を通して、「六〇三円でーす」と言った。いつもはエコバッグを持ち歩いているが生憎持ってきていない。仕方なく「袋下さい」というと店員はめんどくさそうにレジを打ちなおし、「六〇八円」と言い直した。袋には詰めてもらえなかった。自分で袋に商品を入れてコンビニを出る。

 家までは直進あるのみ。道幅の狭い道を進んで、二分ほど歩くと自宅アパートの前についた。階段で一階上がり二〇二号室の扉を開ける。

「よぉ」

 同居人の声がした。玄関から丸見えの居間のソファーでくつろいでいる。俺を認めるとへらりと笑って手を挙げてきた。

 二週間と三日前にここで殺したはずの男だった。

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