14:用法用量はただしく使いましょう

崑崙仙人ソウルインヴァルハラのスース! 参る!」


 俺の二試合目の相手。スースという青年だが、彼は一試合目で圧勝しており、俺がまだ控室にいたところで早くも勝負が決まってしまった。なので、どのような神力をしようしてくるのか、想像もできない。

 ともあれまずは、安心と信頼の『闇の暗雲』を展開して……。


「喰らえ魔王! 『封神』!」


 スースの神力が高まるのを感じた刹那、急激に、凍てつく突風が突如として吹き荒んだ。

 それは一瞬の出来事で、錯覚かとすら思えたが……。


「なにっ俺の暗雲が……!」


 風が止んだ時にはもう、俺の神力がまったく役に立たないものとなっていた!


「我が異名コードネームは相手の神力を無効にする! いざ正々堂々と武闘勝負ー!」 


「正々堂々と武闘勝負って……前に同じこと言ってた奴にズルされたんだよなあ……だから断る! ふんっ! 俺も『凍て刺す慟哭』!」


「あっ!」


 俺も使うから分かるが、相手の神力を消すってなかなか、面倒な作業なんだよ。

 一瞬の隙をついて、体外を覆う表面上の神力を消滅させて油断を誘ってから自分に有利な条件で戦いを進めようとしたんだろうが、相手が悪かったな。

 その技は既に履修済みだ! だからすぐに体内の神力を練って、同じ技をお返ししてやった!


「そしてこの野郎、やっぱ自分だけ、神力で肉体を強化してやがったな!」


「ふっ、気付くとはなかなかやるな! だが! 純粋な神力勝負でも俺はまけんぞ! 俺の異名コードネームが相手の神力を封じられるなら……封じた神力を我がものとして解き放つことも可能!」


 なにっ! それがこいつの『拡大解釈』か!

 消すことができるなら、復元することも可能なのは確かに道理が通っている!


「自らの神力に打ち破れよ! 魔王ー!」


 スースは宣言通りに、みるみるうちにその身に邪悪な神力を纏い始めた。

 あれはまさしく、俺の『闇の暗雲』!


「って、何だこの邪悪なドス黒い神力……わ、我が光の神力と反発して……! うぎゃあー!!!」


 突如としてスースは、雷に打たれたように、神力が一瞬すさまじくスパークして、そして、黒焦げになって倒れた。


「す、スース選手まさかの自滅ー! 勝者、【最終魔王ラスボス】のソーマ!」


 おお、交じり合わない神力がショートして、精神がぶっ千切れやがった。

 ……俺の神力、もしかして、思った以上にやばい!?

 邪神あの野郎、俺になんというとんでもないものを付与しやがったんだ!?




「—―さあ天下一武闘杯! トーナメントによって勝ち抜いた四強が出揃いましたーっ!」


 いよいよ、準決勝まで勝ち抜いた俺は、他の準決勝選手らと舞台の上に立たされていた。

 こうして注目されるのは、緊張するな……!


「まずは今大会一回戦目から活躍! 【最終魔王ラスボス】のソーマ!」


 呼ばれたので、恥ずかしながら、手を挙げて応える。

 大歓声が渦を巻いて俺に叩きつけられた。

 うおっ……! こ、これは……!

 なんか、みなぎるぞ!? 魔王である俺をこうまで認めてくれる観客一同に、感謝しかない。泣きそうだ……。


「お次は! 一試合目も二試合目も手に汗握るデッドヒートゥ! 【七転八倒アイルビーバック】のキーファン!」


 俺の隣の選手が紹介されるのを見れば、ボロボロの全身傷だらけ、あざだらけ。

 まあ、俺も双子姉妹の斬撃によってボロボロなのは一緒だけど、こいつも、相当な戦いを繰り広げてきたんだなあ。


「三人目は! 今大会の四強における紅一点! 【大胆不敵フィアーレス】のバーバラだあーっ! ヒュー! 美しいーっ!」


 ブラックの巻き毛が特徴の女性。こちらも、キーファン選手程ではないが、やはり擦り傷めいた微細な怪我が多い。この天下一武闘杯、なかなかにツワモノぞろいで、みんな、勝ち上がるのには苦労させられたんだな。


「最後はクールな戦略武芸者! 【血流操動ブラッドマリオネット】のチアン選手ー! 最後までスマートな戦いを見せてくれるのかー!」


 彼も傷は多いが、それは血を操るという彼の異名コードネームの特性上、自傷によるものが大半の結果だ。

 負傷が多ければ多いほど、血の『拡大解釈』はより強くなっていくだろう。彼との戦いは、長丁場を避けて一気にけりをつけたいところだ。


 よし。各選手の分析完了!

 誰とだって華麗に立ち回ってやる! さあ、こい!


「それでぱ第13回戦! 【最終魔王ラスボス】のソーマ対【七転八倒アイルビーバック】のキーファン! レディー! ファイッ!!!」


「うおおおお! 七回でも八回でも倒し倒され、泥臭い試合をしようぜ魔王! これが俺の七転八倒泥仕合!」


「はっ! いいぜ! 泥臭いのは嫌いじゃねえええええ!!!」


 そしてこのやり取りを合図に、分析なんてほっぽりだして、めちゃくちゃに熱く拳を交わすのだった――!

 キーファン! お前の凄まじい熱量に惚れたッ!!!


「うおおおお! めちゃくちゃ激しい殴り合いだあああ!」


 殴って殴って! キーファン! 俺のオート発動の『闇の暗雲』などお構いなしに、てかすぐにそれを打ち破ってくるし、神力を扱うセンスが抜群にうめぇ! 運用の機転は忖度なしにマリー・ベルクラスだろう!


 だが、今回は……俺の勝ちだ!


「おおーっと! キーファン選手ダウゥーン! 立てないーっ! この勝負を制したのは! ソーマ選手ー!」


「へへ、前の二試合も同じように泥臭く勝ったんだろ。ばーか。試合回数考えろっての! 体力続くわけねーだろ!」


「これが俺……生き様だ!」


「ホントにお前、嫌いじゃないぜ! おー痛てて! 楽しかった! またやろう!」


 さあ、これで残り一試合! 決勝戦!

 相手は誰だ! 【大胆不敵フィアーレス】か【血流操動ブラッドマリオネット】か!

 キーファンから引き継いだこの熱く滾るテンションのまま、優勝まで駆け上がって見せる!

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