13:トイレの乱
「やっ『闇の暗雲』全開っ!」
ダメだこりゃ。俺にとって不利すぎる!
二体一の状況。ニケを守りながらの攻防。さらには双子姉妹のシンクロ率がハンパない連携!
もっと言えば、曲刀と直剣のアンバランスな軌道が避けづらいのなんの!
神力を防御に全振りするしかない! でも、それでもなお、痛いっ! 一発でもまともに食らえば終わりだ!
「……タバっちゃん。当たってるよね? 切れてないよ」
「そうね、リリィ。防御系の神力。それもかなりの硬度。ただ斬ってるだけじゃ打ち破れないわね」
「……うん。それならウチらも……」
「そうね、やるわよ、リリィ!」
双子姉妹は不穏なやり取りを終えると、これまでの猛攻を一時的に辞めた。
そして互いに手を取り合って向き合い……互いの神力を充実させる!
「「神力開放—―『
「なっ!? 二人の
「ぬお!? あれはマズいぞソーマ! あれは気まぐれでバカな神が生み出した、二つの
「おいおい、あの双子姉妹、今それを開放したってことは、これまでは弱く見積もられる方の
「うむ。だからこれからは、今まで以上に苛烈になるぞ! 気を引き締めよ! ソーマよ!」
つったって、こりゃいよいよヤバいぞ。
せめてこいつがいなけりゃな……。
「ウチらは二人で一つの
「別に結構ですっ!」
「その減らず口、いつまでもつかな、魔王っ!」
くそ、マリー・ベルしかり、なんで初対面で人の話をよく聞かない人間ってのは、こんなにも強いんだ!
流石に
「うおっ! 避け辛いってその刀剣! ローラン姫もやっぱ連れてくりゃよかった!」
無敵の盾として! ええい、泣き言を言っても始まらない。もはや暗雲すらスパっと切り裂いてしまう刃の応酬に、見切りが追いつかないこの状況を一刻も早く打開しなければ……!
ぐぅ! 彫刻のように、隙をつつかれて削られていく……!
急所と、ニケだけはそれでもまだ守り抜けているが……痛てぇ。出血が多すぎて、目が回る……。
もはや避ける気力はなく、なんとか神力を振り絞って、暗雲を高密度に纏い、致命傷だけは免れているだけだ。
「……魔王。やはりこの邪悪なる存在に与するのね。この大会に出て、何が目的?」
俺がもはや無抵抗だったからか、それとも、それでいて、未だに致命の一撃を加えられないジレンマからか、双子姉妹は攻撃の手を止めて、俺への質問を投げかけた。
といっても、不穏な動きがあればすぐにまた斬撃の嵐を見舞う腹積もりの構えだ。抜け目ない。
「いや何がというか、一応俺、主催者側なんだけど……」
「なにっこの大会自体が罠だった……?」
「そんなこと言ってないです」
「……なるほど。さては若く有力な
「違います」
やはり生かして置けんな。
なんて、やっぱり人の話をきかずに結論を導き出す二人。
いやしかし、恐れ入った。二人で一つの
二人が揃えば絶対に負けない。その自負が、例え合体前の未完成の
「だが……魔王はそれすらも凌駕する!」
二人で最強。だが、それは逆を言えば……!
連携を失ったらモロいはず!
「『凍て刺す慟哭』!」
「なっ! 神力が、消え……っ!」
魔王の雄叫びは聖なる神力を無力化する!
最強の
「……! 大丈夫だよタバっちゃん、一時的にかき消されただけ……! すぐに、力を開放すれば……!」
「いいや。この一瞬で十分。お前らの信じる最強が『揺らげば』付け入る隙ができる。さあ、頭が高いぞ双子姉妹! 『魔王の威厳』!」
「あうっ!?」
「……体が、無理矢理、平伏させられる……っ!」
「ふう。これでやっと、落ち着いて話ができる」
いやはや、ギリギリの戦いだった。『凍て刺す慟哭』の発動タイミングが勝負の鍵だとは思っていたが、あの最強の
だから防御に全部りして、攻めあぐねるタイミングを待っていたんだが、思い通りに事が運んだのは、本当に幸運だった。
俺がもし、下手に双子姉妹の神力に作用させるような動きを見せて、失敗でもしようものなら、より強力な神力による必殺の一撃でもって、俺とニケは仲良く真っ二つだったはずだ。
無抵抗。これにかけるしかなかった。『
彼女たちもマリー・ベル同様に、圧倒的な格上だ。
これかもきっと、こんなとんでもない相手が襲来してくるってわけか。
運が尽きる前に、もっと強くならないと、マジでヤバいぞ……。
とりあえず、今はこの双子姉妹を説得しないとな……。
「……なるほどね。つまり、その邪神にハメられて魔王になったと。そいつが死ねば、魔王であるあなたも死ぬと」
「そうなんだよ! だから、俺が改名するか、こいつが改心するかするまで、どうか見逃してくれ! 頼む!」
二人は顔を見合わせて、うんと頷くと、ようやく肩の力を抜いてくれた。
どうやら、俺の切実な話を信じてくれたようだ。よかったぁ……。
「わかった。それに、あの【
「……そうね。あの子がいるなら、心配ないね」
なんだ。決め手はマリー・ベルだったか。
あの子。なんて、親しいような言い方に覚えた疑問を、素直に聞いてみる。
「その言い草、やっぱり二人は、あのマリー・ベルと肩を並べる実力者だったんだな。恐れ入ったよ、いや本当に」
「あはは! それは言い過ぎだけど、あの子、ウチらと同じ
「へえ! なんだよ、ちょっと話聞かせてくれよ」
「……あの子はねー、実はちっちゃい頃、イケメン先生をボコボコにしちゃってぇ――」
「—―それでは第九試合! 【
さあ、俺の二戦目だ!
気合入れていくぞーっ!
顔を手の平でバチンと挟んで、いざ舞台上へ向かう。
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