終わってしまう世界を僕らは歩く
ながぐつ
第1話 荒野の小さな小屋
ドミトリは小屋に残る足跡を眺めていた。
小さなものから、大きなものまで。
古い砂埃あるいは別の何かの上にくっきりと足跡たちは残っていた。
ドミトリはその中の小さな足跡を追った。1番小さく、1番弱い足跡を。
足跡は途中で途切れていた。その途上に何かが落ちていた。
小さな人形。
ボロきれを寄せ集め、小さな木の実の目をつけた人形。
ドミトリは人形を拾うと、人形に被さっていた砂埃あるいは別の何かを手で払った。
小屋の奥から肉をちぎる音が聞こえてくる。
くちゃくちゃと咀嚼する音も混ざっている。
ズズッズズッと血を飲む音が場を締める。
壊れた家具の陰で蠢く影––。
ドミトリは身構えた。
両手を軽く開き、左手を前、右手を後ろに。左足を前、右足を後ろに引き、重心をやや
ドワーフ拳法
父より教わりしドワーフ伝来の拳法––とはいうものの彼らのは大分、我流である。
対象を観察––女性型のゴブリン。肉体的に未発達であり、本来ゴブリンが持つ程の筋力は持ち得ない。が、ゴブリンである以上、その
弱点––定命の者達とほぼ同じ。
相手は本能で動く。その初動は––
ゴブリンはドミトリの両腕を抑えるように飛びかかってくる。
ドミトリにとって有利だったのは、ゴブリンがまだ服らしきものを身につけていた点。
彼は襟のあたりを掴み、相手の体を片足で支えながら、背の方向へ倒れるようにしてゴブリンを投げ飛ばす。
巴投げ
定命の者であれば、きちんと受け身を取らない限り、すぐに起き上がることは出来ない。
しかし、相手はゴブリン。投げ飛ばされた後も関係なく飛びかかってくる。
それは獣の
ドミトリは体勢を低くする。
右腕を腰に引き付け、
一瞬だった。
彼の右腕は黒い血に塗られ。ほんの少し顔を歪める。
左腕でゴブリンの体を支え、床に寝かせる。
黒い煙が天へと昇っていく。
ゴブリンと定命の者であっただろう肉塊を炎は容赦無く灰へ戻していく。
ドミトリは座ったままジッと炎を見つめ、時々、木をくべてやった。
そして考えた––定命の者というのはこういう時でも涙を流すのかと––。
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