時間巻き戻しボタン
もかの
時間巻き戻しボタン
ボタンがあった。食料品のゴミで散乱する中、そのボタンは異様な存在感を放っていた。
足もとにある夕日に照らされたペットボトルを数個手でどかしながら、青年はそのボタンのもとまで行く。
伸ばしっぱなしの髪を適当にどかしつつ、そのボタンを取る。その下にあった1枚の紙切れが風で舞う。
そんな光景は日常茶飯事だが、青年はなんとなくその紙を手に取る。
『このボタンを一回押すたびに1年、時間を戻せます』
と書いてあった。高校で人生を失った青年に、それを疑うという考えはなかった。
首に巻きつけてあったロープを外し、早速3回そのボタンを押した。
一瞬だけ視界が暗くなると、青年は教室にいた。母校、舞里高校の二年生だった。
青年は心が躍った。
それから青年は遊びに勉学に交友と、以前は出来なかったことに全力を尽くした。過去の高校生活を含めて、初めての友達もできた。
青年の高校生活も充実していた。
青年が発言すれば、クラスメイトが笑う。机には、毎日変わった絵を描いてくれる。体操着にも、だ。
青年は人と関われて、毎日楽しい日々を送っていた。
日を増すごとにどんどんそのつながりは強まり──
そうして青年は教室で死んだ。
────────────────
ボタンが押され、その世界線から男がいなくなると、3人の白衣を着た男女がその部屋に入ってくる。
ボタンと紙切れを回収し、去っていく。
ガチャン、という音でその空間からはテレビの音以外が消え去った。
『──次のニュースです。舞里大学で3名の学者が成功を発表した時間巻き戻しボタンですが、急遽その報告を一転し、失敗だったと発表しました』
『え……? 成功事例もあったのに失敗、ですか? それは……何か裏がありそうですね……』
時間巻き戻しボタン もかの @shinomiyamokano
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