【完結】君の声に恋をして
湊 マチ
第1話 マリーゴールド
春の陽気がキャンパスを包む中、佐々木翔太は図書館の静かな一角で建物のスケッチに没頭していた。とはいえ、その日はどうにも集中できなかった。窓の外から聞こえてくるギターの音が、彼の注意を引きつけて離さなかったからだ。
音の出所を探るべく、翔太は窓際に立ち、外を見た。そこには、キャンパスの中央広場でギターを弾きながら歌っている清原涼音の姿があった。彼女は音楽サークルのリーダーであり、その美しい歌声は誰もが認めるところだった。
涼音が歌っていたのは、あいみょんの「マリーゴールド」。そのメロディーが、まるで春風とともに翔太の心に響き渡った。
「こんなに美しい声を聞いたのは初めてだ」とつぶやく翔太は、もうスケッチどころではなかった。彼は意を決して図書館を飛び出し、広場へと向かった。
涼音の周りには、彼女の歌声に引き寄せられた学生たちが集まっていた。彼女が最後の音を奏で終えると、自然と拍手が湧き起こった。涼音はにっこりと微笑み、お辞儀をした。
その瞬間、翔太は勇気を振り絞って彼女に話しかけた。「素敵な歌声でした。あなたの歌に心を奪われました。」
涼音は驚いたように顔を上げ、翔太を見た。その瞳には、驚きと興味が混じっていた。「ありがとう。私は清原涼音。音楽サークルでリーダーをやっているの。あなたは?」
「僕は佐々木翔太。建築学部に所属していて、将来は建築家を目指してるんだ。今日は君の歌声に引き寄せられて……本当に素晴らしかった。」
涼音は照れくさそうに微笑んだ。「ありがとう、翔太さん。音楽を通じて誰かの心に触れられるのは、本当に嬉しいことなの。」
そのやり取りを少し離れた場所で見ていたのは、涼音の親友、中村友美と伊藤大和だった。二人は微妙な緊張感を抱えながらも、涼音と翔太の出会いを見守っていた。
「涼音、また誰かを引き寄せたみたいね」と友美が軽口を叩いた。
「まあ、彼女の歌声は本当に特別だからな」と大和が応じた。
友美は大和の反応にニヤリと笑った。「じゃあ、大和もその歌声に引き寄せられたの?」
大和は照れくさそうに頭を掻いた。「まあ、そうかもな。友美も涼音みたいに歌えたら、俺ももっと引き寄せられるかも?」
「うるさいわね!」と友美が冗談混じりに大和の肩を軽く叩いた。彼らの間にも、微妙な感情の変化が漂っていた。
涼音と翔太はその日の夕方、広場のベンチに座り、お互いの夢や目標について話をすることになった。
「涼音さん、どうして音楽を始めたの?」翔太が尋ねた。
「小さい頃から歌うことが好きで、それが自然と趣味になって。音楽を通じて、人と繋がれるのが本当に嬉しいの」涼音は目を輝かせて答えた。
「素敵だね。僕も建築を通じて、人々の生活を豊かにしたいと思っているんだ。音楽と建築、どちらも人の心に響くものだから、共通する部分がある気がするよ」翔太は自分の思いを静かに語った。
「本当にそうね。翔太さんの夢、素敵だと思うわ。これからも頑張ってね」涼音は優しく微笑んだ。
その瞬間、翔太は涼音の笑顔に胸を打たれ、彼女との出会いが運命的なものだと感じた。二人はお互いの夢を応援し合いながら、これからの関係を築いていくことを誓った。
一方、友美と大和は少し離れた場所でその様子を見ていた。友美はニヤリと笑い、大和に耳打ちした。「あの二人、すっかりいい雰囲気ね。」
大和は微笑みながら友美を見つめた。「そうだな。でも、俺たちも負けてられないよな?」
友美は大和の言葉に笑いながら応じた。「まあ、そうね。でも、まずは涼音と翔太を応援しなきゃね。」
桜の花びらが舞う中、涼音と翔太の物語は、あいみょんの「マリーゴールド」のメロディーと共に始まりを告げた。彼らの出会いがこれからどのように発展していくのか、期待と不安が入り混じる中で、新たな章が幕を開けた。
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