張り合う二人 猫VS犬

「ここは魚料理が美味いんだ」


おい、お前もか。

既視感のある店の前である。

まさか、ノーツと同じ店がお気に入りとは思わないじゃないですか。

まあ、いいですけど。


「じゃあ、ご馳走になります!」


店に入ると、以前と同じく、活気があって賑わっている。

そして、ノーツもいた。

こっちを見て、驚いた様に目を丸くしているので、小さく手を振った。

ぱっと、ノーツが笑顔になって、料理と飲み物を持って、こちらのテーブルに移って来る。


「は?お前勝手に参加してくるんじゃねぇ」


アルトが早速文句を言うが、ノーツは全然気にしない様子でにこにこしている。


「奇遇だな、ミア」

「はい。今日は師匠の奢りなんですよー!沢山食べようっと」


そうかそうか、と何故か周囲のおっさん達も優しい眼差しを向けてくる。

だから、お前ら誰だよ。


「まぁ、いいけどよ。どうせ大した量食えないだろ」

「そりゃ、ノーツさんよりは少ないでしょうけど……えーと一番高いのは……」

「おい、高いのからわざわざ選ぶな」


みみっちい突込みが入って笑ってしまう。

結局好みの味を選ぶ事にした。


ワイルドボアのラザニアと、木のことベーコンのグラタン。

美味しそう。

今日のノーツさんは、何かのステーキを食べている。

じっと見てると、ノーツさんがこちらを二度見した。


「一切れ食うか?」

「食べたいです。あーん」


口をぱかっと開けると、真っ赤になってから戸惑ったように、そっと私の口にフォークで肉を運ぶ。

パクッと口の中に入れたそれは、肉汁が美味しい。

ミディアムレアの、少し生感がある肉汁の溢れる、噛み応えのあるお肉だ。


「うーん、おいひい」

「こっちも食え」


無造作に目の前に出されたのは、今運ばれてきたばかりのアルトの料理だ。

香味魚のバターソテー。

バターの良い香りが鼻腔を擽る。


パクッとそれも口の中にお迎えした。

ほろほろっと解ける、淡白な魚の身とツンとした香草の爽やかな香りに、ミルキーなバター。


「こっちもおいしー!」


二人は目の前で何かバチバチしてるけど、肉と魚対決かな?

どっちも美味しいんだから、いいじゃない。

もぐもぐしていたら、私の分も運ばれてきて。

ラザニアもグラタンも美味しい。

ああ、お米とかはないけど、十分懐かしい味だ。


「ふふ。私のお料理も美味しいですよ。食べますか?」

「「食べる」」


二人が息ピッタリに言う。

私はラザニアをフォークで掬い上げて、熱くないように少し息を吹きかけてからノーツの口の中に入れた。


「凄く、美味い」


顔を真っ赤に染めて、ノーツが言う。

感動しすぎだけど、美味しいよね。

同じフォークでラザニアをアルトに与えようとしたら、アルトが首を振る。


「そっちがいい」


指差されたのはグラタン。

私はグラタンをスプーンで掬って、ふうふうしてからアルトの口に入れる。


「美味いな」


ニヤリ、とアルトはノーツに不敵な笑みを向ける。

え?今度はラザニアVSグラタン対決?

両方美味しいんだからいいじゃない。


ついでに二人が喧嘩しないように、私は冒険の話にシフトする。

周囲で可愛くない雛のように口を開けているおっさん達はスルーした。

全員にあげてたら私のご飯がなくなるので。

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