強引な勧誘はお断りです
「あの……通して貰えないでしょうか?」
困ったように言うが、相手は屈強な冒険者達で、退く気はないらしい。
ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべる者すら、いる。
「だからさ、俺達の
「そうそう。大事に大事に飼ってあげるからさ」
え、家畜扱いやん。
無理。
「人の事を飼うとかいう、低俗な方達はお断りです」
「おい、あんま舐めてると痛い目見せるぞ?」
凄んでくるが、呆れて溜息しか出てこない。
「冒険者が街中で暴力ですか?衛兵を呼びますよ」
「この街では冒険者様の方が偉いんだよ。呼べるなら呼んでみな」
それは知らない情報。
うーん、冒険者同士の私闘って禁止されてたよね。
もしかして、一般人相手には暴力沙汰起こしても無問題ってやつ?
それはそれで糞なんだが。
「
「紅の
「じゃあ、絶対そこには入りません」
私の言葉に激昂した男が、カッとなって手を上げる。
殴られるかもしれないが、そうなったら反撃しよう。
過剰防衛だとしても、事故で済むだろう。
私はあのへろへろ魔法を思い描いていた。
だが、いつまでも衝撃は来ず、代わりに清廉な声が聞こえた。
「街中で何をしている」
「くそ……
男はガッチリと腕を掴まれている様で、もがいても抜け出せずに悔しげな声を漏らす。
てか、聖堂騎士団てことは、大聖堂の関係者?
だったらもっと早く来てよね!
若干、八つ当たり気味の怒りだが、目の前で起きた事件なんですよ。
事件は現場で起きてるんですからね!
「聖堂騎士の方でしたか、助かりました。私の方でもこの
助けが遅い事に腹は立つが、助けて貰ったのでしっかりお礼は言う。
騎士は、こくりと頷いて静かに返した。
「ギルドまで同道しよう。この男も連れて行く」
その宣言に、他の数人は仲間を見捨てて逃げ去っていった。
「あ、おい!てめえら!」
残された一人が呼び止めるように文句を言うが、掴まれていた手を後ろ手に捻り上げられて、悲鳴を上げて大人しくなる。
力で他者を踏みつけにしようとする人間ほど、暴力に弱いのである。
かこわるい。
「では参りましょう」
本来なら裏口から入って着替えるのだが、今日は無理だ。
正面から入って、エミリーさんに報告をする。
ついでに騎士団のイケメンエリートも、私の証言に補足をいれた。
男はそのまま、ギルドの留置場へと入れられる。
対応が決まるまでそこに留め置かれるらしい。
「多分、無期限の活動停止となると思います。問題の多いクランだったので。それぞれの冒険者ランクも落とす事になりますね」
「解除される事はあるのでしょうか?」
「ええ。ギルドが課す慈善活動をすれば、活動は再開できますが。問題を起こすような人達なので、
エミリーさんナイス。
頃合を見計らって、奥へと案内してくれる。
私は騎士へと向き直り、再度お礼を言った。
「騎士様。本日はお世話になりました」
「いや、こちらこそ、助けるのが遅くなり済まなかった」
やば。
怒ってたの気づかれたかな?
一応、ティアとしては、こう、お淑やかな女性を目指しているので。
怒るのはミアの時だけにしよう。
変な二重生活だけど、暫くはバレたくないのである。
「いいえ、感謝しております。では」
まあ、感謝してるのは本当なので。
細かい事は忘れましょうや。
私はくるりと後ろを向いて、エミリーさんの案内した扉をくぐる。
はあ~やっとミアに戻れるし、帰ったらぐったりしよう。
何だか精神的に疲れたわ。
それからというもの、聖堂騎士団の、例の騎士、アウリス様という金髪碧眼のイケメン騎士が毎回冒険者ギルドへと送ってくれるようになってしまった。
一刻も早く裏口から入って、お金を受け取って帰りたいのに、とんだ二度手間である。
え~~本当に、めんどくさい。
でも断ろうと思っても、危険だからととりあってもらえない。
実際に出会いは危険な場面だったので、危険なんてないとは言えないのだ。
くうう。
だが、良かった事はある。
何と、光魔法のレベルが!一週間で!3にまで伸びたのだ!
実質3日くらいでですよ。
どれだけ酷使されたんだ、私。
お目当ての
他に
壁ごしでも生命体がいるのは分かるけど、人だかモンスターだかは区別つかない。
これまた使いどころが難しい魔法だ。
暫く二重生活は続きそう。
取りあえずはもう一週間。
早く私の育てた薬草ちゃんで、お薬つくってみたいのに。
やる事多すぎ問題。
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