大聖堂で秘密のアルバイト始めた

薬草はすくすくと育っている様子。

水をあげて今日も窓の外に吊るした。

いつも通りのルーティンをこなして、市場へと行く。

清楚な白のロングワンピに、顔と髪を隠すヴェールを購入。

それから、薬草採取へと向かった。


前に来た二回とはまた違う場所へと腰を下ろす。

鑑定アプレイザル

魔法を使ってみると、ぶわっと視界いっぱいに、薬草の情報が溢れる。

えー嘘。

視界がうるせぇ。

これ、この使い方であってんのかな?

帰ったらまた調べないと。

しかも時間経過?集中してるとずっと見えてる系のやつかな。

私は一度目を閉じて深呼吸する。

再び目を開けると、そこにはいつもの草むらが見えた。

一括で鑑定出来るのはいいけど、情報が邪魔で採取には向かないというか面倒くさい。

やっぱり昨日考えた通りで、採取後に使うべき力だな。

薬草を引っこ抜きながら、私はのんびり考えた。


明日からティアとして、大聖堂で働くわけだが。

何故そうしたのかというと、光魔法を鍛える為である。

この前、ノーツに蹴られてしまった後に、私が耐えられたのはお腹を押さえつつ無意識に自分を回復キュアしていたのもあるだろう。

絶対に痣になってる!と思ったお腹はツヤツヤプルンだったのだ。

錬金術も学びたいが、何よりこの先の冒険で必要不可欠なのは毒消しアンチドートである。

大体ゲームだとドットダメージといって、一定量のちまちましたダメージを与え続け、死に至らしめるものだ。

解除しないと死んでしまう。

稀に、たとえばノーツのような恵まれた肉体の人間が、毒に打ち勝ったり、打ち消したりしてピンピンしている事もあるだろうけど、大抵の人は死ぬ。

けれど、今危険の少ない仕事をしている私には、光魔法の経験を積む機会がない。

経験を積む為にノーツに蹴られるのもごめんである。

としたら、お金になりつつ、鍛えられる素晴らしい方法があるではないか!



私は変装してティアとして、大聖堂へと訪れている。

ギルドから話は通っているらしく、怪しげな見た目にも関わらず詮索を受けないまま、治療院へと通された。

そこで、怪我の程度が軽度な者の前に案内される。

患部に手を翳すと、私は魔法を発動した。

回復キュア

ぱあと少しだけ明るい光を発して、傷が癒えていく。

案内人は満足したように頷いて、次々と私の前に怪我人が現れた。


頭がくらくらし始めたところで、漸く勤務が終わる。

これ、魔力が枯渇しかけてるんじゃ……。


「それでは、また明後日に参ります」


私は丁寧に挨拶をしてから、ギルドへと帰った。

裏口から入って、個室で元の服に着替えてから、受付へと向かう。


「どうでした?ミアちゃん」

「いやぁ、思ったよりも重労働で、頭がくらくらします」

「無理しないでいいのよ。枯渇する前にちゃんと言わないと、倒れてしまうから、気をつけて」


心配そうにエミリーさんに言われて、私は力なく微笑んだ。


「気をつけます」

「じゃあ、はい、今日のお給料」


20銀貨……えっ??

すごない?


エミリーさんの解説に寄れば、軽度の回復は3銀貨である。

30銀貨のうち、6銀貨が大聖堂の取り分。

24銀貨のうち、2割程度の4銀貨が冒険者ギルドの仲介料。


「ああ……だから回復要員はひっぱりだこなんですねぇ」

「そうね。氏族クランの囲い込みも激しいのよ。だから、大聖堂で働く人も減ってしまうし、今あそこで働いている人は冒険者として活動していない人達ね」


そういえば、思い返してみると、皆さんお年を召した方達でしたわ。

おじちゃんおばちゃん、おばあちゃん。

女の人が多めだった。


だったらやっぱり、素性を隠したのは正解だ。

4銀貨は勿論高いけれど、面倒ごとを回避するならば、お安いともいえる。



そう、思っていた。

だが、私は今、男達に往来で囲まれている。

ティア、16歳、回復職、大ピンチ★

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