#2

 人間のお祭り事は割と好きな方で、老若男女人種地位入り乱れて、阿呆みたいに馬鹿騒ぎするというのは、「あぁ、なんだか良いなぁ」と思う、人類に酷く友好的な天使であるボクだけれど、本文化祭に限っては嫌いである。大嫌い。

 というのは、ボクが置かれていた状況に要因がある。

 本来、文化祭の運営というのは一つの独立した組織――「執行部」によって為されるのであるが、人手が足りないということで何故かボクがここへと駆り出された。後から聞いた話によれば、「心霊考証会」という謎なる組織による差し金らしいが後の祭りである。

 いざ執行部本部へと赴いてみれば、てんやわんやの大混乱であった。最早聖徳太子でも聞き分けは不可能と見える、錯綜する無線通信。中身は妙ちくりんなものばかりである。

自転車のサドルばかりが狙われる盗難被害。メイド喫茶を装った違法カジノ。架空過去問販売。相次ぐ「つちのこ」の目撃報告。たこ焼きにイカが入っていたというクレーム。

 執行部各員はこれらの処理に逐一追われ、当初想定していた人員数では最早首が回らぬという状況であった。なるほど、ボクが駆り出されるのも納得である。しかし納得したからといって、それを許せるとは限らない。いざ文化祭という青春を謳歌せんと意気込んでいた最中、瞬く間に奴隷的境遇へと落とされた。あぁ、何という理不尽であろうか。時給も出ず、感謝もされない。法に抵触しようかという違法労働のはずなのに、「学校行事」という便利な単語によって相殺されている。何が「良い経験」か。何が「青春の一環」か。耳触りのいい言葉で誤魔化されているが、これの本質は違法なる労働力の搾取に他ならない。出る所出てやろうか。法廷で会うのも辞さない構えである。

 ボクに割り当てられた仕事というのは、これら幻怪なる騒ぎの調査及び解決であった。つまるところ、執行部員と何ら変わらない業務を、部外者であるボクに一部委託したということである。執行部がどれだけ追い詰められていたのかがよく判る。

 ボクは天使なので人の頼みを断ることはしない。

 が、いささか憤懣やるかたない。

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