#4
謀反の時来たれり。最早これ以上、この不毛極まった活動には付き合えぬ。過去問も要らぬ。精度の低い過去問など塵である。この組織を解散へと追い込み、実りのある毎日へと回帰すべし。
ただし、事は穏便に済ませたい。大胆不敵な謀反に憧れるのは大変結構なことだが、現実問題悪目立ちしては敵わぬ。ボクが目立てば、それだけ天使であると曝露される可能性が高まってしまう。あくまでも――天使が言うと変な感じだが――ボクが演じるべきは暗躍である。少しでも光を浴びたら灰になると思え。さながらヴァンパイアのように。
手段は様々考えられる。例えば不祥事を暴いて学生課に報告するとか。それが無理なら、夏彦にハニートラップでも仕掛けて、パパラッチすれば良い。あの組織は良くも悪くも、夏彦の得体が知れぬカリスマ性によって成り立っているから、彼が崩れさえすれば、あとはドミノ式に瓦解するだろう。
が、今ここに列挙したものはどれも現実的では無い。この零細組織の不祥事など、あったとしてもたかが知れているし、夏彦はハニートラップに引っかかるような器では無い。大体、仮に引っかかったとしても、奴の単位は既に死の淵に立たされているのだから、最早失うものはないのだ。無敵の人にパパラッチなどしたところで大した旨味があるとは思えぬ。
ならばどうする。任せたまえよ、読者諸氏。ボクに妙案がある。
それは夕暮れ時、公園を散歩している時に閃いた。斜陽によって淡い橙色に光る並木が、ボクにはさながら、翼の生えたおどろおどろしい怪物に見えたのである。「これだ」と思った。
謀反という形にこだわり過ぎているのがいけなかった。組織とは利害の一致によって成り立っているものなのだから、その利害とやらを取り除いてしまえば、こんなものはあっという間に空中分解する。
典型的なのはサークルクラッシャーである。むさ苦しい野郎しかいないサークルに、突如として咲いた一輪の花。水を得た魚のように、男は獣と化す。サークルの理念・目的は形骸化し、あの日誓い合った男たちの契りは忘却の彼方へ置き去りにされ、残るは男と男の醜き不和である。恋愛に於いて、利害の一致など見られるはずもなく、サークルはたった一人の女の狩り場と化す。
「天使捜索戦線」に於いても同じ事が出来そうに思えるけれど、残念ながらこれは不可能である。断じてボクに魅力が無いからではない。寧ろボクは絶世の美少女である。問題なのは奴らである。忘れてはならぬが、この組織は変人奇人の巣窟である。恋愛に興味を示さず、あろうことかボクのような絶世の美少女にすら何の情も抱かず、己の好奇心を満たすことした考えぬ、生物的に欠陥した阿呆の集まりである。線路沿いの花なんて、見向きもされぬ。花よりもダンゴムシに目を奪われる輩の集まりだ。
しかし裏を返せば、連中が好奇心というエンジンによって動いているのであれば、その好奇心の熱を冷ませてやれば良いということになる。「あぁなんだ、僕らの追っていたものってこんなものだったのか」と思わせられたら勝ちである。
謀反の決行は、次の捜索活動の日と決めた。
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