第29話
コインパーキングに車を止め、恭介さんに続いて歩く。
僕が住んでいるところと雰囲気が似ていて、都会から近いけれど、住宅街なので割と静かだ。
築年数が浅そうな一軒家ばかり並んでいる。
休日だからか、家の前で遊んでいる小学生がいた。
いいところだな、と景色を眺めながら五分ほど歩いたところで、恭介さんが足を止めた。
「ここですね。立派なおうちだなあ」
四人で目の前にある一軒家の外観を眺める。
白とベージュで優しい色合いの三階建てだ。
ガーデニングを楽しんでいるようで、玄関までの導線が植物園のように花で彩られている。
止めている車も高そうだし、豊かな暮らしぶりを感じる。
先頭を歩いていた恭介さんが、インターホンを鳴らして挨拶をすると、玄関から恐らく四十代くらいの上品そうな女性が出てきた。
すぐに僕たちを家にあげてくれ、リビングで話をさせて貰うことになった。
「こんにちは。よくお越しくださいました。お会いできて嬉しいです。配信よく聞いてますよ」
「ありがとうございます!」
なぎさんが笑顔で女性と握手を交わす。
その後、六人用のテーブルに、女性と対面する形でなぎさんと恭介さんが座った。
なぎさんは隣に座るように言ってきたが、僕は慧と共に、少し離れた後ろの方で立たせて貰った。
「えーと……そちらは?」
「スタッフの者です」
僕と慧が気になった女性に、恭介さんが答える。
恭介さんには車の中で、僕はあまり表にでたくないタイプだと伝えている。
だから、今後なぎさんが配信で僕の名前をあまり出さないように制御すると言ってくれたし、今回も僕が関わっていることが外にでないように配慮してくれるという。
取材元にも印象が残らないようにマスクもしておいた方がいいと言われ、家の前で黒のマスクを貰った。
気になったことがあったらメモをするようにと、ノートとペンを渡してくれたけど、それもスタッフらしく見えるようにという気遣いだったのかもしれない。
ありがたいなと思っていたら、女性が僕に声をかけてきた。
「もしかして……あなたがゼロさんですか?」
「!」
質問に、僕だけじゃなくみんな驚いている。
どうして分かった? と思っているのが伝わったのか、女性が焦った様子で説明してくれた。
「昨夜のいざなぎさんの配信で『今日会う』と仰っていたので、一緒にいらっしゃるのかなと思っていたので……」
あー……そうだ、言っていたなあ。
女性は社交辞令で言ったのではなく、本当に配信を聞いているファンだったようだ。
「なぎ君……」
「あはは……楽しみすぎてつい……」
恭介さんは昨日の配信には関わっていなかったのか、話した内容を知らなかったようで隣のなぎさんに呆れている。
「マスクをしていらっしゃるから目元しか分からないですけれど、なぎさんが仰っていたように綺麗な男の子ですね」
そう微笑まれたのだが、どうリアクションしていいか分からず苦笑いで頭を下げた。
「事故物件の配信のときは、すごかったですね。事前に色々と調べていらっしゃったんですか? 仁藤さんとはお知り合い?」
「?」
質問の意味が分からず、きょとんとしてしまう。
でも、僕以外の三人がぴりっとした空気になった。
それに気づかないのか、女性の話は続く。
「私は幽霊とか見たことがない人間なので、そういった類のものはいないのかなあ、って思うタイプなんですね。オカルトとかは好きなんですけど」
霊なんて信じていないから、僕が色々と調べてからなぎさんに連絡を取ったと思った、ということ?
仁藤さんと共謀して、あんな演出をしたと思っている?
もしかしたら、なぎさんの配信で僕に対して否定的なコメントをした一人かもしれないなあ。
そうだとしたら、僕から何を言っても信じて貰えないだろうし、取材の邪魔をするわけにはいかなので、再び苦笑いで流そうとしたのだが……。
「いや、ゼロさんの力は本物だから! それに、ニートとゼロさんは知り合いじゃないから! ニートからは今でもしつこつ、ゼロさんに繋げてくれって連絡くるくらいだし!」
なぎさんが立ち上がって反論し始めた。
その勢いに、みんなできょとんとしてしまったが……僕はハッとした。
僕のために言ってくれて嬉しいけれど、取材の邪魔はしたくないから、何とかしないと……!
香坂さんの死の真相に繋がる手がかりが見つかるかもしれないし……!
焦っていると、恭介さんがスッとなぎさんの腕を引いて座らせた。
「お騒がせしました。では、早速例のおうちについてのお話を伺ってもいいですかね? 今日はよろしくお願いします」
そして、女性となぎさん、双方に有無を言わさない笑顔で話を進めた。
色々と取りまとめる仕事もしている人だから、これくらいの混乱には動じないのだろう。
社会人のかっこよさを見た気がする!
なぎさんは不満そうだし、隣の慧からも不満オーラが出ているが、二人が怒ってくれたことが嬉しいから僕はなんとも思わない。
恭介さんは許可を取って動画撮影を開始しながら、女性に話しかけ始めた。
「あ、これは雑談なんですけど……なぎ君の配信は、何きっかけで聞いてくださるようになったんですか?」
「死神少女に興味があって、聞くようになったんですよ」
「ああ、さっきオカルト好きって仰ってましたね」
恭介さんはそう言いながら頷いたが、女性はそれを肯定せず、意味深に微笑んだ。
何かあるのか? と疑問に思っていると、少しの間を開けて女性が口を開いた。
「週刊誌に載っていた、有名な死神少女の写真があるでしょう? あれ、あの家に住んでいた兄が撮ったものなんですよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます