第4話

「死神少女……僕の写真?」


 どうしてそんなものを持っているのだろう。

 当時は週刊誌でも取り上げられていたから、その時の切り抜き……とか?

 心臓の音が早くなるのを感じながら画面を見守っていると、いざなぎ達が家へと進み始めた。

 一軒家を囲う古いブロック塀の中は、雑草が生い茂っている。


『虫がつきそうで嫌だなあ! 作業着でよかった、ツナギしか勝たんわ』

『わたくしはスーツが汚れると困ります……社会に出られる服はこれしかないので……』

『あ。汚れたらクリーニング代、お出ししますので。ご安心ください』

『ありがとうございます! 母に頼んでも洗ってくれないので助かります……』


――ニートの一張羅w

――母ちゃん頼るな

――自分で洗え


 三人はわいわいと雑談をしながら進む。

 チャット欄も賑わっている。


 そして、長く伸びた雑草をかき分けてたどり着いた玄関前――。

 扉は磨りガラスの二枚引き戸で、昭和感が漂っていた。


『なぎ君。こちらの鍵を』


 恭介さんが所有者から預かっていた鍵を渡す。

 いざなぎはそれを受け取ると、すぐに開錠して引き戸を開けた。


『お邪魔しまーす。うわあ……』


 いざなぎが持つ懐中電灯の丸い光が、中の様子を映し出した。

 玄関に残された靴、廊下に積まれた段ボールや本――。

 故人の物が残されており、とても生活感がある。


『あ、なぎ君。お人形がありますよ』

『うお……こわっ』


 下駄箱の上には、ガラスケースに入った市松人形が飾ってあった。

 つぶらな瞳が可愛らしいし、赤い着物が綺麗だ。

 価値がありそうな人形だが、一人暮らしの中年男性が飾るのは違和感がある。

 もしかしたら、この家は男性の実家で、かつては家族で暮らしていたのかもしれないと思った。


――呪物だったりして

――髪が伸びてる?

――こわい


『仁藤さん、この人形に何か感じますか?』

『いえ、特に……。魂が入っている感じもしないです』


 いざなぎたちのやり取りを聞きながら、改めて画面に映る家の中を見た。

 ガラスケースや残された物に積もった埃が、長年放置されていることを物語っている。

 不気味さとともに、年月が過ぎるせつなさを感じた。


『埃と蜘蛛の巣がすごいっすね……。何が落ちているが分からないので、靴で上がる許可を頂いてます。このまま失礼しますね』


 慎重に進むいざなぎとニート霊能力者に、恭介さんのカメラもついていく――。

 廊下沿いの閉じられた襖が不気味だが、僕はちらりと映った二階に繋がる階段が気になった。


『仁藤さん、家の中は心霊的にどうですか?』

『よくない感じがしますね……。空気が淀んでいて、悪いが溜まっています。でも、一階は大丈夫そうです』


 僕も一階は大丈夫だと思う……今のところは。

 ちゃんとした霊能力者でよかった、いざなぎを守ってくれ…………あれ?

 ホッとした直後、ニート霊能力者の姿に違和感を覚えた。


『……して……消……て……』


「!」


 ニート霊能力者の体、心臓の辺りに女性の頭がめり込んでいるのが見えた。

 霊? いや、多分生きている人の思念……生霊だ。


「この人、生霊に憑かれてるけど……!?」


 しかも、本人は気づいていそうにない。

 本当に霊能力者? 任せて大丈夫!? いざなぎを守れる!?


『じゃあ、一階を順番に見て行きますか。何かあったら教えてください』

『はい、大船に乗ったつもりで、わたくしにお任せください』


――ニート頼むぞ

――霊感はありそう

――がんばって稼げ


 チャット欄はニート霊能力者に好意的だが、僕は不安で仕方ない。

 でも、いざなぎ達は意気揚々と家の中を回り始めてしまった。


『死神少女の写真がどこにあったのかは聞いてないんで、探しながら行きますね』

『なぎ君にとっては宝探しですね』

『ほんとに。わくわくっす』

『一応事故物件なんで、気を引き締めてくださいよ。合コンに来たわけじゃないですからね』

『分かってますよ。合コンより激アツ』


――さすがサイコパス

――サイコロリ

――逃げろ死神!


 チャット欄は盛り上がっていくが、僕は心配が勝って楽しむことができない。


『所有者の方に間取りを描いて貰ったんですけど、一階には居間と台所、風呂やトイレなどの水回りがあります。この襖を開けると、居間のはず――』


 いざなぎはそう言いながら、そっと襖を開けていった。


ズーーッズーー……


 埃が引っかかるのか、襖がスムーズに動かない。


『ホラゲだと、絶対に中からバンッて出てくるタイミングですね』


 いざなぎが苦戦しながら笑う。


『こ、怖いこと言わないでくださいよ……』


 ニート霊能力者の声が震えている。

 胸に女性の頭をつけた奴が何を怯えているんだか……。

 僕は呆れながら見守る。


『よし、開いた。中はー……あっ!』


 いざなぎが襖の中――居間を見て固まっている。


――?

――どうした?

――死体?

――はよ見せて


 固まっているいざなぎに戸惑ったり、茶化したりするコメントがどんどん流れていく。

 何があったのか……。

 僕も固唾をのんで見守った。

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