【完結】『Lemon』の記憶

第1話 平穏な日々

朝の光が優しくカーテンを透かし、佐藤陽菜の目を覚ます。彼女の部屋には、木漏れ日が織りなす柔らかな光と影が交錯し、穏やかな静寂が漂っている。窓の外には、色とりどりの花々が咲き乱れ、小鳥たちが楽しげにさえずりながら飛び回っている。これが陽菜と一人息子の亮太が共有する平穏な日常の一部だった。

亮太は陽菜が愛情を込めて用意した朝食を急いで平らげると、ギターケースを背負い、元気よく家を飛び出していく。彼の背中には、青春のエネルギーと夢が溢れていた。亮太は高校の音楽部でギターを担当し、放課後はバンドの仲間たちと練習に励んでいた。彼の瞳はいつも輝いており、音楽への情熱が彼の全身にみなぎっていた。

家の中には、亮太がいつも奏でるギターの音色が残響として響いている。陽菜はその音色に耳を傾けながら、息子の成長と幸せを心から願っていた。リビングの棚には、亮太が参加した音楽コンテストのトロフィーや、バンド仲間との写真が飾られている。これらはすべて、彼がどれほど音楽に情熱を注いでいるかを物語っていた。

陽菜はキッチンでお弁当の準備をしながら、時折窓の外の風景に目を向ける。青空に浮かぶ白い雲、風に揺れる木々の葉、それらは陽菜にとって日々の営みの一部であり、亮太との幸福な時間を象徴していた。彼女は息子のために心を込めてお弁当を作り、それが亮太の活力の一部となることを願っていた。

その日の夕方、亮太が学校から帰宅すると、彼の顔には達成感が漂っていた。「今日もバンドの練習がうまくいったよ」と、彼は満面の笑みで報告する。陽菜は彼の話を聞きながら、心からの喜びを感じていた。母と息子の絆は強く、彼らの間には深い愛情が流れていた。

佐藤陽菜と亮太が過ごす平穏な日々には、何気ない瞬間にこそ大切な意味が込められていた。しかし、その平穏が永遠に続くわけではないことを、陽菜はまだ知る由もなかった。この美しい日常の風景が、彼女にとって最もかけがえのない宝物となることを知るのは、もう少し先のことである。