あの日の記憶

たびびと

第1話

「さっき言われたこと、もう忘れたんですか・・」

「おっしゃることはよくわかりました。

 だったら、それはこういうことですよね・・」

「ああ、そういうことなんですね?

結局こういうことなわけだ・・」


たたみかけるような、

こちらが返してもまた返される波のように、

連作ドラマのつながりのように会話は進み

進む会話の中で、あのもやもやしたもの

言葉にならないあのもやもやしたものが

いよいよ画面に出てくる。

攻撃され、自分が隠していたことをあばかれたはずの相手でさえ

会話が終わったあと

笑顔の横に、ほろにがいしわがよるのがわかると同時に

なぜか、ほっとしたような、そんな余韻の表情を見せて討論は終わる。

いつもの日曜日の朝、テレビの画面に

彼はまた、あのぎょろっとした目をむき出しにし

相手にかまをかけ、話題をひきよせ、

そうして話をしめくくる。

まるで勧善懲悪のドラマの結末を見ているようだ

ドラマと違うのは、勧善懲悪、ハッピーエンドでは終わらないということ

見ている方が、結局自分たちは「される方、被害者」のままなのだということ

そうして画面の中の人物たちと自分たちとの力関係

そのふたつを改めて味わう。

けれど自分たちが立っているその位置から、

なぜかテレビの画面に出てきたあげあしをとられている当の「権力者」、

お偉いコメンテーターたち、時には悲惨な事件と

なぜだか少しは、自分たちがつながったような気になる。

テレビの中でおこった会話を観た人たちが、

みんな、そんな気持ちになれることを

彼は知ってくれているのだろうか


今日も、また彼の会話を観てしまった。

くりかえし、くりかえし、

これからも、僕は観ていくことだろう。

あげあしをとられた「権力者」のあの表情

それを引き出した彼のあのぎょろっとした目

ぎょろっとした彼の目を見るにつけ

あの時のことをなぞる僕がいる

遠い昔のあの時、

あの時のことをくりかえし、くりかえし、

いまもなぞる僕がいる。


もし、あの時、彼とこんな風に会話ができていたのなら、

彼は僕のことをどう思ってくれたことだろう

そう思ってくれたことで、彼はどうなっていっただろう

そうして、僕は、その後、どんな風になっていただろう

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