20240802

 パートナーと友人を含めた複数人で温泉旅行にいく予定だった。京都だかの雰囲気の良い旅館へ一泊二日だ。最低限の持ち物でいいはずなのに、なぜか私は、荷物が詰め終わらない。あれもいるのでは、これもいるのでは、Tシャツはどれにしようか。箪笥の引き出しを開けると、男物の派手なTシャツが複数。兄からのお下がりだったと思い出すが、現実の私はこんな服持っていないことを知っている。別の箪笥には女物のTシャツ。これは私が買ったことを忘れてしまっていたものだ。けれど、これも現実の私はこんな服持っていないことを知っている。どれもこれも、私が選ぶはずのないデザインで、白地に鮮やかな黄色や青が散っていた。こんなに夏服があるならこの前通販で買わなければよかったな、と夢の中の私は思う。そして、旅行に持っていくべき服がわからない。何も決められない。

 午前10時を過ぎた。出発時間が近づき、玄関先には友人たちもやってきていて、パートナーは私の様子を伺う。私は、そこでようやく、愛鳥のご飯を出してやらなくてはいけないことに気がつく。間に合わない。私は後から合流するから先に行ってと伝える。この時の心境といったらない。とても不満で、不安で、焦燥感に駆られ、不快だった。どうして、何も間に合わないんだろう。愛鳥のことは絶対に譲れない。

 誰もいなくなった家で、愛鳥にご飯をやる。荷物を詰める。まだ、詰め切らない。何がいるんだろう。下着、洗濯洗剤、服、財布、何かしらの機械、いらないものがいくつも入ってると、理解することすらできなかった。何もかも必要な気がして、ボストンバッグの重量がどんどん増していく。私はずっと焦っている。苛立つ。


 ハッと気がつくと、午前二時だった。どうしよう。どうしたってもう何もかも間に合わない。みんなは温泉に行き、私は以前家族と暮らしていた時の自室で、小学生の時から使っていた勉強机名前に座っていた。左手にはベランダがある。部屋の電気も消え、外は夜で、視界はずっと暗い。デスクには愛鳥がいるケージが置かれ、就寝用にカバーがかけられている。この時間に私が一人でここにいるということは、母親は来なかったということだ。家を開ける時は、愛鳥の世話のため人を呼んでいるのだ。それなのに誰もいないのだから、私がもし朝にみんなと旅行へ行っていたら、この子は一日ひとりきりで、ご飯も足りず、わけもわからぬまま孤独に震えて待つことしかできなかったのだ。そうならなくてよかったと思った。けれど私も行きたかったと思った。わけもわからず泣きたいような気持ちで、最初から最後までずっとずっと焦っている。今から行ったってもう手遅れなのだ。私はもう間に合わない。

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