第20話 オールドターキー

巨大な鉄屑てつくずが、まるで隕石のように唸りをあげて降り注ぎ、鋭利な鉄パイプがアルキの顔面に突き刺さる。と思われた直前で、すべてが弾かれる


とんでもない質量を持つはずの鉄屑は、まるで軽いブロックのおもちゃのように弾け飛んでいく


「――キャ〜!って、えっ?……」


 先程まで90メートルもの上空から落下していたはずが、落ちていない……落ちていないどころか、アルキ達4人は、上空に上がっている。宙に浮いている?と思わせるほど、軽やかに空を飛ぶ


 襲いくる「鉄屑隕石」を弾き、反動を利用するように空を駆け上がっているのだ


「――ちょっ!アルキ……空飛んでる!」

「カハハハ!こりゃぁ愉快だ!」

「――えっ?……誰?」

「あん?オレは「ターキー」だ!カハハハ!」

 

「――?「ターキー」ってどういう事?……アルキじゃないの?」


杏子あんずの右手にはうめが、その杏子あんずを胸に抱き、右手で気を失った「佐倉咲さくらえみ」の手を掴みながら「物体をはじき」、駆け上がる「ターキー」。


「やっぱり最後はオレしか頼る奴がいないなぁ!?アルキ!」

「ターキー!レディ3人だ!丁重によろしく頼むぞ!」

「知るかボケ!まぁオレに触れていれば、怪我はしねぇよ!全部「はじいて」やるよ!」


「――どういうこと?アルキが、アルキだったり、アルキじゃなかったりする……」


 杏子あんずはあまりの出来事に、自分がおかしくなってしまったのではないかと思い、動揺している


「オプティマスブリッジ」が「共振」により巨大な蛇のようになり、襲ってきたこと


 信じられない身体能力で、杏子を抱いたまま荒れ狂うワイヤーや隆起する道を、渡り切ったアルキ


うめの「兎角」が暴走し、「余剰次元」により、いつ全てが消え去ってもおかしくなかった状況


 アルキには聞いていたが「探求科」を追い詰めていたのが、顧問の「佐倉咲さくらえみ」先生だったこと


 そしてなにより……今自分を抱いているアルキの中に「もう一人の人格」がいること


「ターキー」……アルキの中の「もう一人の人格」



 あきらかに「兎角とかく」である人物……降り注ぐ物体を弾いていく。「反発力」……すなわち「斥力せきりょく」の能力、弾くチカラを利用して中央部分がほぼ崩壊した「オプティマスブリッジ」に舞い戻る


 崩壊の砂煙が舞い散る中、「ターキー」の動きを確認したのは杏子あんずだけだろう

 

 気を失っている二人を優しく地面に寝かせて、杏子と「ターキー」は向かい合う


「カハハハ!いや〜楽しいシチュエーションだったなぁ!オンナ!」

「……「ターキー」って……表情が違うから顔も違って見える……同一人物なの?」

「ふん!オレのほうが男前だろう?」

「……わたしはアルキが好きだから……でもそうなると「ターキー」のことも好きってこと?」

「カハハハ!案外きもわってるなぁ!オレを見てビビらねぇなんて!」

「だって「ターキー」が助けてくれたんじゃん!怖いわけ無いよ」

「……ほぅ、見込みはあるな……まだ若いが……」

「でしょ?わたしはアルキの「未来の伴侶」になるのよ!」

「ほほぅ、その意味……分かって言ってんのか?」

 ターキーは猛獣のような鋭い目つきで杏子あんずを見つめる


「わたしもいちおう、「探求科」の天才の一人よ!アルキはただの「一教師」じゃないんでしょ?」


「……まぁこれだけ見せてるんだ、テメェはもう巻き込まれてる……オレとアルキは警視庁公安部兎角課「フクロウ」のエース「オール・ド・ターキー」だ!」


「――!な……な……何それ!めちゃくちゃカッコいいんですけど!」

「誰にも言うなよ!」

「もちろん!二人だけの秘密だね……いや三人か?」

 

「待て待て!何ベラベラ喋ってるんだターキー!」

「――あっ!アルキだ」


「うるせ〜!どうせコイツには、いずれバレる!だったらいっそここで口止めしたほうがいいだろが!」

「――あっ!ターキーに変わった」


「ふむ……、一理あるな、ターキーにしては珍しく……」 

「こっちはアルキだ」


「んだとコラァ!珍しくとはなんだ!オレがいなきゃ死んでたところだぞ!感謝しろ!」

「ターキーだね」


「感謝してるよ!全部俺の計算通りに動いてくれて」

 

「アルキってなんか忙しいね……見た目も変わるから面白いけど」

杏子あんずはくすくすと笑い、ターキーに対しても抵抗が無いようにみえる

 

「大体この「兎角」の制御も出来ねぇ女の能力を、ずっと封じてたのもオレだからな!」

「――え?そうなんだ」

 

「そうだな……ターキーは「万有斥力ばんゆうせきりょく」で杏子あんずの「無限重力」をキャンセルしている、つまり「反重力場」を作ってるんだ」


「そっかぁ……じゃあずっと一緒にいないとね!」

 杏子あんずはそう言うと、笑顔でアルキに抱きつく

「ふん、オレに触るんじゃねぇ!」

「――あっ!……ズルい……ターキーに入れ替わってるの?」

 ターキーが睨むと、杏子あんずは慌てて手を放して、ぶつぶつと文句を言いながら距離を取った


「じゃあ戻るか!……杏子あんず……俺の言ったとおり、これで授業に出れるな!」

「――うん!」


 海面からおよそ90メートルの橋桁はしげたは、そのほとんどが原型をとどめておらず。中央は崩落し、全壊こそ免れているが、この「兎角事件」の恐ろしさを物語っている


「オプティマスブリッジ」では、以前「とある兎角」の暴走により、100人以上の死者を出している


 今回、橋は甚大な被害が出たが、迅速な対応により死者数はゼロとなった


 功労者である七面歩ななおもては、この事件には一切関わっていない。全ては警視庁公安部兎角課「フクロウ」の「オール・ド・ターキー」が、処理をしたことになっている


 情報操作により、今回の件に関しては「特務課」にですら事実は隠蔽された


 そんななか、四ノ宮透しのみやとおるだけは納得がいかないと、抗議していたらしい

 

 修徳高校で起きていた「学校の七不思議事件」はこれにて解決。




 その後、探求科には百地杏子ももちあんずが戻って来ている。まだ「兎角」を制御出来ているわけではないので、何かあればアルキが……いやターキーがなんとかしてくれるだろう

 八神聖やがみひじりには「ターキー」のことだけを話している

 

 アルキの「もう一つの人格」であること

 

 「兎角」を持っていること


 この二つのみ……あとは「一教師」であると伝えている。ひじりはそれ以上詮索するつもりもない……彼にとって七面歩ななおもてあるきは、「一教師」でいてほしいからだ。「オプティマスブリッジ」での出来事を目の前で見ていたひじりにとっては、突っ込みどころ満載であった筈だが、杏子あんずうめを助けてくれた「先生」……それだけで充分だった


 ただ探求科にはまだ一人足りない……「伊倉梅いくらうめ」は、「兎角」の制御を早急に出来るようにするため、「antenna アンテナ」の「一華」のところに通っている。


「西川恭吾」に関することも、繰り返された「虐待」によるものであるということで、罪には問われない

 強力な「兎角」であることで本来なら「国」の管理下に置かれてもおかしくはないが、「探求科」にアルキがいる限り、という条件付きで、学校を辞めずに済んでいる


 今回の主犯として、「国」の兎角犯罪者収容所「コラプサー」へと送られた佐倉咲さくらえみは、「フクロウ」の事情聴取の際にこう語る


「ヒッグス」は、百地杏子ももちあんず伊倉梅いくらうめに最大限の「兎角暴走」を起こさせて、「衝突」させれば、「田口修二のプライド」を救えるはず、そう言っていた……と


「ヒッグス」とは何なのか?


 人物なのか組織なのか


どうやら、佐倉咲さくらえみは何者かに軽い洗脳を受けていたようで、それ以上を語ることはなかったそうだ。


 

 警視庁公安部兎角課のオールドターキーはアルキの頭脳、ターキーの能力で事件を解決していく諜報員。彼らは「兎角」という謎から、人々や世界を守っていくために「フクロウ」のエースとして今後も活躍していくだろう


だが、あくまでこれは、アルキの「未来の伴侶」を探す物語。

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