第18話 オプティマス・ブリッジ

アルキは、杏子達に聞こえないところで一華に連絡を入れる

「一華、「とある兎角」の事件現場一帯を、封鎖してくれ!出来るだけ人が寄りつかないように。もともとあの事件以来「汚染」されているから、寄り付けないはずだが、おそらく、かなり危険だと思う。それと四ノ宮警部に匿名で情報を流して欲しい!流す情報は「田口修二」の後輩について……教師になる前の、大学関係で親交のあった人物!……」


「……」


「……ああ……そうだ……なるべく人払いを……「ターキー」を使うことになるから……ああ……よろしく」


 アルキ達は急ぎ現場に向かう、場所は全長2キロ以上にも及ぶ巨大な橋「オプティマスブリッジ」。


 母親の話を聞くと、うめは学校へ行くと言って昼過ぎには家を出ている

「オプティマスブリッジ」へ辿り着くには、歩きと電車を使い最大でも2時間もすれば到着するだろう

 

 だとすれば、もうすでに何らかの行動を起こしていると考えるアルキは、愛車に二人を乗せて猛スピードで現場に向かう


「アルキ……「あの橋」……わたしあれから行ってないの……」

「ツラかったら無理しなくていいんだぞ」

「……ううん……わたしはうめを助けたい……梅が誤解しているならそれを解きたい」

「そうか……とにかく杏子は俺から離れるな」

「うん!」


「アルキ先生、「犯人」はうめに何をさせたいんだろう?」

 ひじりも後部座席から身を乗り出すと、アルキに質問する

 

「そうだな……始めは「復讐」だったはずだ!探求科に「復讐」するために「学校の七不思議」で「共振」の実験をしていたし、まいを「兎角」だと思い込ませ、「特務課」を学校におびき寄せて罪を着せようとした……おそらく一致団結している探求科に「兎角」による問題を故意に起こさせて、「国」がお前達の身柄を拘束する事で、「学級崩壊」をさせることだったんじゃないかな……自分はきっかけを作るだけで勝手に自爆していく「探求科」への復讐!」


「じゃあなぜ学校ではなく「オプティマスブリッジ」に?」

「「オプティマスブリッジ」には杏子あんずの両親が亡くなった「とある兎角」の事件がある……「犯人」はうめに、杏子の両親が亡くなった理由を「虐待について相談所に直接話をしに行ったから亡くなった」とでも言ったのかもしれない」


「――なっ!?そんな!」

 

「これは「犯人」の考えというよりも、別の「何者」かによる「知恵」が入っていると思う……「兎角」のことを知り尽くしている「何者」かの……なぜなら、うめの「余剰次元」発動を確実に行うために、もっとも効率がいい。過度なストレスを与えるために「オプティマスブリッジ」を選ぶ非情さ……「余剰次元」と「無限重力」が目的だと考えると、杏子あんずを待っているのか?二人を引き合わせ「タイムトラベル」でもしたいのか?……それは分からない……だがここまで追い詰めたのは「俺」なのかもしれない……「探求科」を潰せなくなってきていたからな……」


「アルキのせいじゃないよ!」

「そうです!アルキ先生は僕達を守ろうとしただけです!」


「……ありがとう」


 アルキが一華へ連絡した通り「オプティマスブリッジ」は完全に封鎖されている

 だが全長2キロ以上の橋の中央には、小さな人影が二つ。一人は制服を着た伊倉梅いくらうめ、もう一人は黒いコートを着て深々ふかぶかと帽子を被り、マスクとサングラスで顔を隠している


 誰かを待つように佇む二つの影に、誰も近付くことは出来ない


 なぜなら「オプティマスブリッジ」は「巨大なへび」のように波打ち、響く轟音は「猛獣の叫び」のようにも聞こえるほど恐ろしい


封鎖した機動隊員も、橋の入り口から前に進むことは出来ない。飛び交う太いワイヤーが侵入者を襲うむちのように弾けている


 人間がこの「オプティマスブリッジ」を渡ることなど不可能なのだ

 

「――!何これ……こんなのいつ崩壊してもおかしくないじゃない!」

「――信じられない……アルキ先生……これはもしかして「共振」ですか?」

橋の入り口に到着して車から降りた杏子あんずひじりは、驚愕して足がすく


「……とてつもない能力だ……これほどまで「兎角」のチカラを使いこなすとは!「伊倉梅いくらうめの心とオプティマスブリッジの固有振動数」を同調させたんだな……不安や恐怖、それに拒絶という心がオプティマスブリッジを巨大な獣のように作り上げている」


 約1キロ先に佇む二つの影は、こっちへ来いというようにじっとアルキ達を見つめる


 手足の震える杏子あんずのスマホが、まるで同調するように震えた。慌てて落としたスマホの画面を見ると、「うめ」と表示されている


「梅!大丈夫!?」

 杏子あんずはスピーカーでうめからの連絡を取る


「あ……杏子ぅ……ごめん……ごめんなさい……知らなかったの、わたしのせいで……うう……杏子のお父さんとお母さんが……知らなかった……」


「何言ってんの!梅のせいな訳、ないじゃない!」

 

「「じゃあオマエのせいか?百地杏子ももちあんず!オマエが父親に相談しなければ両親は死なずに済んだんじゃないか?」」


「――!」

 スピーカーからうめではない、もう一人の人物が喋り出す。声はマスクに変声機を付けているのか機械音声のように聞こえる


杏子あんず、お前のせいでもないし、もちろん伊倉梅いくらうめのせいでもないよ……」

 杏子の心の揺らぎが「兎角」の発動を促すが、アルキは優しく側に立ち、うめにも届くようにしっかりとそう語り掛ける


「「百地杏子ももちあんず、一人でこちらへ来なさい。さもなければオプティマスブリッジは崩落し、親友の命はありませんよ」」


「こんなところ通れるわけがない!辿り着く前に死んでしまう!」

 ひじり激昂げきこうして割って入る


「「伊倉梅いくらうめが本当に百地杏子ももちあんずを想うなら、ここまで辿り着けるでしょう?彼女がオプティマスブリッジを猛獣に変えているのだから!」」

 

「「――!」」


「ダメ〜!来ちゃダメ〜!死んじゃうよ!杏子!」


「……行くわ!」


「俺も一緒に行く。ひじりはここで待機だ」

アルキはそう言うと杏子あんずを横抱きにした

 

「――!こ……これ……お姫様抱っこ!」

 杏子あんずはそう言うと、顔を赤らめながらアルキの首にしっかり掴まった


「「……七面歩ななおもてあるき……なぜあなたはそこまでするのです!死ぬんですよ!」」


「俺がコイツらの……探求科の副顧問だからに決まってるだろ!俺の生徒は……俺が守る!」


 オプティマスブリッジがうなりをあげて波打つ。地面にはヒビが入りワイヤーロープが不規則に飛び交う

 ワイヤーの振り子が伸縮し、かすめるだけでも致命傷になる程の勢いで、アルキ達に襲いくる


 杏子あんずを抱いて橋の中央を突き進むアルキ、凄まじい身体能力で波打つ道を突き進む


「す……凄いアルキ……わたしを抱いたままなのに……ううん、抱いてなくてもこんな動き普通じゃない」

「杏子!ここから隆起が凄まじい!しっかり掴まってろよ!怖かったら目を閉じてろ」

「――う、うん!」

杏子あんずはしがみつく事しか出来ない、胸が張り裂けそうなほどの恐怖と不安があったはずだった。そして、「兎角」が暴走し、いつ「無限重力」によりアルキを押し潰してしまうか分からない


 だが百地杏子ももちあんずの「無限重力」が発動する事は無かった


 アルキに抱かれて安心しているからなのか、それとも何か別の理由でなのかも分からない


 ただ今はこの人だったら大丈夫としか思えない


「あの人がアルキ先生?……杏子が言っていた……」

 「「どうして……どうして……どうしてぇ!」」

 うめは涙を流して、駆け抜けてくるアルキと杏子を呆然と見つめる。その隣に立つ者は狂乱して発狂する。その者は、マスクと帽子を脱ぎ捨て、「共振きょうしん」のチカラを強める


 ついに、隆起して波打つオプティマスブリッジは、「共振」による振動に耐えられず崩壊していく

 

 床版は裂け剥き出しになった鉄筋が巨大な爪のように襲いくる


制御の効かなくなった猛獣の「巨大な爪」と、「鋼鉄の蛇のむち」が、バランスを崩して倒れ込んでしまったうめと「犯人」にも襲いかかる


 アルキは、粉々に砕け舞い散る鉄屑てつくずの中を、くぐるようにけて手を伸ばす


杏子あんず!手を伸ばしてうめの手を掴め〜!」

「――!わかった!梅、こっち〜!」

「――!杏子〜!」


 極限状態のうめの「兎角」が暴走する


「余剰次元」により、辺りを飛び散る鉄屑が、この次元から消えていく


 襲いくる無数の「巨大な爪」や「鋼鉄の蛇の鞭」も、次々とランダムに消えていってしまう


 いつどのタイミングで、自分達の身体も「消え去る」のか、予測不能な「余剰次元」の恐怖にも杏子の「無限重力」は発動しない


「梅!……お願い、手を取って……」

「でも、わたしと一緒だと、みんな消えちゃう……それに杏子と触れ合ったら、何が起こるか……」


「大丈夫だから、自分を信じて!わたし達を信じて!もし、何かあっても、アルキがわたし達を守ってくれるから!」

 

「……杏子」


その時の、杏子の表情には不安や恐怖は無かった。危機迫る瞬間だというのに、これだけ落ち着いていられたのは、アルキのおかげだろう。うめは、その思いを汲み取り、杏子あんずの手を取った


 その瞬間に足場は全て消え去る。四人は、高さ90メートルの「オプティマスブリッジ」の上から落下していく


 落下する四人……杏子の右手には梅が、しっかりとその手を掴んでいる。アルキの右手には、手を伸ばして掴まえていた、もう一人の人物。


「余剰次元」も「共振」も無くなり崩落していく「オプティマスブリッジ」の瓦礫が、四人の真上から降り注ぐ。落下する恐怖と、襲いくる瓦礫の恐怖は、助けた二人の意識を奪う


「……アルキ……わたし達……死ぬの?」

「大丈夫だ!よく頑張ったな!この状況で意識を保てるお前は凄いぞ!この二人は気絶してるんだから」

「へへ……アルキならなんとかしそうだから……」

 

「ああ、まかせとけ!」

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