vol.17 後始末
[Ⅰ]
フェラドゥンとかいう干物の妖怪を始末した後、俺は刀を仕舞い、道具袋からとある霊符を1枚取り出した。
そして、霊符を使ってあるモノを回収した後、結界術を全て解いたのである。
理由はまぁ……こうするしかない事象があったからだ。
残りカスのようなモノなので、放っておいても良かったのだが、念の為である。
まぁとりあえず、目的は達せられたので、これで良しとしよう。
と、そこで、サタが俺に駆け寄り、肩によじ登ってきた。
「流石は真紋の末裔じゃのう。厄介な尸解仙モドキの化け物をモノともせんとは……」
「まぁな……とはいえ、尸解が完全に終わっていたら、こんなに簡単にはいかんかったよ。今倒せたのは、ある意味ラッキーだった」
これは本音である。
尸解が完了してしまうと、かなり面倒な化け物になっていた可能性が高いからだ。
「確かにのう。ところで、あ奴……元は人じゃと思うが、何者だったんじゃろうの?」
「さぁな。どうせ、どっかのロクデナシ野郎だろう。ゲームに出てくるリッチとかいうモンスターに似てるから、リッチー・サンボラとでも名付けとくか」
「いや、そこは、リッチー・ブラックモアか、ライオネル・リッチーじゃろ」
俺は思わずサタを見た。
コイツから出てくるとは思わなかった単語だからだ。
「お前……妙に洋楽のミュージシャンに詳しいな。しかも、ちょっと昔のやつ。なんでその名前を知ってんだ?」
「ま、まぁ……わりと我も人間文化に触れる機会があったからのう」
俺は今の話を聞き、猿がヘッドホンして、音楽を聴いてる姿を想像してしまった。
イヤイヤ、ないないないない……そんな猿はいない。
やらされてるのは見た事あるが、進んで聞く猿はおらんやろ。なんなんだコイツは……。
どういう生態系の妖怪なのか気になるところである。
「お前な……洋楽の、しかもロック系の音楽を聞くって、どんな猿妖怪だよ。まぁいい、で、宝玉はどんな感じだ?」
するとサタは渋い表情になった。
この表情でお察しである。
「それなんじゃがな……」
「なんだ? 何かあるのか? ン? おっと、後にしよう」
俺達がそんな会話をしていると、他の仲間達が集まってきたからだ。
ミュリンが勢いよく俺に抱きついてきた。
「エイシュン、凄いよ。フェラドゥンを倒しちゃうなんて」
「ホントホント。すげぇよ、エイシュンさん。本当に何者なんだよ……もしかして、アレングランド最強の騎士であるアルシオンより強いんじゃねぇのか……」
リンクは若干引き気味であった。
というか、アルシオンって誰だよ。
続いて、他の3人もこちらに来る。
「リンクの言うとおりだ。エイシュンさん……貴方は一体、何者なんだ? フェラドゥンを倒せる冒険者なんて……俺は今まで聞いた事がない」
「私もそれが気になっております。これまでもエイシュン様を見てきましたが、ただ者でない風格が御座います。何事にも動じませんので……」
どうやら、他の皆も引いてる感じであった。
やり過ぎてしまった感はあるが、もうこの際、やむを得ないだろう。
「それに、その喋る猿も気になるんだよね。初めて見たよ、喋る猿なんて」
「ホントよね。リンクの言うとおり、私も初めて見たわ」
サリアは興味津々の表情で、俺とサタを見ていた。
思った通りのダルい展開である。
肩にいるサタもダルそうな顔であった。
だが、物事には順序があるので、それを指摘しておいた。
「色々と気になる事もあるでしょうが……まずは彼等の救助が先では? それが目的なのでしょ?」
俺はそう言って、磔の冒険者達を指差した。
するとファレルさん達は、我に返ったようにハッとしたのである。
「そ、そうだった。まずはアルミナ達の救出だ。皆、冒険者達を急いで柱から降ろすんだ!」――
とまぁそんなわけで、ここからは救助作業となるのであった。
[Ⅱ]
石柱に磔にされていた冒険者達は、全部で20人程いた。
救助作業はなかなか難航したが、俺達は冒険者達を丁寧に下ろし、床に寝かせていった。
だが、磔にされていた冒険者達は全て衰弱しており、治療が必要な状態の者ばかりであった。
その為、治癒魔法を使えるルーミアさんの出番となるのだが、如何せん数が多い。
ここにきて深刻な問題が発生したのである。
「ファレル……私の力だけでは無理です。このままでは手遅れになります」
「やはり、治療薬や他の司祭の協力が必要か?」
ルーミアさんは険しい表情で頷いた。
「ええ。ですが……怪我の治療以外にも、皆さんの中には栄養状態が非常に悪い方も多いのです。このままでは、死を待つだけでしょう。至急、応援が必要です」
ファレルさんの表情が曇る。
「応援か……しかし、ここからシャギヴの門まで、距離がかなりある。往復で1日は掛かるぞ……他に何か方法はないか?」
だが、ルーミアさんは表情を落とし、首を左右に振ったのである。
「ファレル……無理です。せめて傷の治療をできると良いんですが……今の私の魔力量では全員を救う事は、残念ながらできません」
「クッ……そうか……」
「そんな……」
この場はお通夜状態であった。
どうやらルーミアさん的に、魔力が足らないようだ。
一難去って、また一難のようである。
(あらら……そりゃ大変だね。まぁ確かに、瀕死の奴もいるしな。ふむ、どうすっかな……仕方ない、手を貸すか。見殺しも気まずいし。とはいえ、そこまでする義理もないから、ただ働きはしないでおこう。とりあえず……貰うもんは貰うぜよ。当面の生活費が必要だからな)
つーわけで交渉である。
「ルーミアさん、貴方の魔力がもっとあれば治療は可能なんですか?」
「え? ええ、まぁ……ですが、魔力を回復させる魔法薬は貴重なのです。今はそういったモノがございませんので、現状はどうにもなりません」
「へぇ、そうですか。じゃあ、俺が貴方の魔力を回復して差し上げましょう。それなら治療できますよね?」
「え?」
ルーミアさんは怪訝な表情で俺を見た。
他の者達もである。
「もしかして、魔法薬を持っておいでなのですか?」
「いや、持ってませんよ。ですが、別の方法があるのです。ま、俺にしかできない方法ですがね」
「え? そのような事ができるのですか?」
「出来ますよ。ま、その代わりと言ってはなんですが、作業報酬は頂きますがね」
「報酬?」
俺はそこでファレルさんに視線を向けた。
「ファレルさん……今回、全員を連れて帰れるのなら、1人2000グランの報酬でしたよね?」
「ああ、そうだが……」
「じゃあ、提案です。ルーミアさんの魔力を回復して差し上げますんで、俺の今回の取り分は、6000グランを請求させてもらってもいいですかね? 今回、あのフェラドゥンとかいう魔物も、俺が倒したようなもんですし。どうでしょうか?」
「ええッ! 6000グランだって!? そんなにかよ、エイシュンさん」
リンクは目を大きくしていた。
他の仲間達も少し渋い表情だ。
彼等の取り分の半分を請求しているのだから、まぁそうなるだろう。
だが、そこまで阿漕な請求はしてないつもりだ。
十分良心的な請求内容である。
「6000グラン……」
「どうするんだよ、ファレルさん」
「兄さん……」
仲間達は互いに顔を見合わせた。
「ファレル……ここはエイシュンさんのお力を借りるしか、他に手は無いのでは? エイシュンさんの言うとおり、私達が無事なのは、事実なのですから」
ルーミアさんは諭すように、ファレルさんに言った。
すると程なくして、ファレルさんは目を閉じ、静かに頷いたのである。
「そうだな……わかった。いいだろう。エイシュンさんの言うとおりにしよう。実際、貴方が依頼の大部分をこなしたようなものだからな。仕方がない……」
ファレルさんも渋々ではあったが了承してくれた。
とりあえず、交渉成立である。
「ありがとうございます、ファレルさん。では、始めましょう」
俺はそこで道具袋から筆と霊薬を取り出し、岩の床に術紋を描いた。
描いているのは、大地の霊力を集める術紋で、龍霊紋と呼ばれるモノだ。
さっきの八葉印の結界にも用いた術紋だが、ちょいと出力を抑えてあり、大きさも直径50cm程度の円形のモノである。
ちなみにだが、この術紋で集められた霊力は、清らかな霊力へと変化するのが特徴で、ある意味、フィルターの役割も持っている。
つまり、霊力の収集と濾過を行う為の呪術なのである。
どうだ、凄いだろう。って、誰に説明してんだ、俺は……虚しい。早く帰りたいよう、トホホホ。
などと考えていると、ルーミアさんが傍に寄ってきた。
「エイシュン様……それは何ですか? 先程も地面に何かを描いておりましたが……」
「ああ、これですか……まぁとりあえず、大地の魔力を一時的に集める魔法陣とでも思っといて下さい。こういう結界はこの国でもあるんじゃないですか? 悪魔の爪痕の結界にも使われてるような気がしましたしね。まぁとはいえ、少し流れに違和感もありましたが……」
「え!? そんな事が可能なんですか?」
ルーミアさんは口に手を当て、驚いていた。
あれ……意外な反応だ。
ないんだろうか?
「エイシュン、本当なの! そんな事できるの!」
ミュリンも同様であった。
「なんかよくわからんけど……とりあえず、凄そうだね」
「エイシュンさんてなんでもできるのね……」
「本当に何者なんだ……」
他の者達も一様に驚いている。
もしかすると、この国では珍しい術なのかもしれない。
悪魔の爪痕で封魔結界みたいなモノを作っていたので、あると思ったんだが……余計な事をしたかもしれない。
とりあえず、サラッと流そう。
「何者って、そんな大袈裟な話じゃないですよ。気にしないでください。さて、こんなもんかな……じゃあ、結界を発動しますか」
つーわけで、Goだ。
俺は起点部に指を当てて霊力を籠め、龍霊紋を発動した。
その瞬間、術紋が青白くボワッと輝いた。
これで完了だ。が、操作は俺がしなきゃならないので、ここからが本番であった。
「ではルーミアさん、この紋様の上に立って下さい」
「わかりました」
ルーミアさんは興味津々なのか、ニコニコしながら術紋の上に立った。
俺はそこでルーミアさんの背中に手を当てる。
「じゃあ、注入します」
そして俺は、彼女の霊体を少し操作し、結界に集まる霊力を注入したのである。
「え!? な、なんですか、これは……体が熱い……え……ま、魔力が満ちてくる!?」
ルーミアさんは驚きを隠しきれないのか、目を見開きながら、術紋と俺を交互に見ていた。
この表情、恐らく初体験なんだろう。
後が面倒そうである。
それはさておき、俺はそんな感じで暫く彼女に霊力を注入し続けた。
そして頃合いと見たところで、術を解いたのだ。
「とりあえず、こんなもんですかね。どうです?」
「すごい回復力です。これなら、治療も捗りそうです」
「それは良かった。では、治療の方はお願いしますね」
「はい、勿論です」――
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