【パイロット作品】マジックカラーズ
早苗月 令舞
チャプター1 色の魔法使い
今から数百年前の事。
世界は、これまでに無い災いに飲み込まれ、崩壊の危機を迎えていた。
天は荒れ、地は揺らぎ、多くの生命が消えかけようとしていた。
その混沌とした大地に、一人の少女が姿を現した。
「わたしが、この世界を守ってみせる!!!」
パァァァアッ!!!シャラーーーン♪
虹色の衣服を纏った彼女がその手に不思議なペンを掲げると、ペンから沢山の色が溢れ出して、空は青く染まり、地は緑の草木、赤や黄色の花が咲き乱れ、世界を喰い潰そうとした災いは、色の魔法の前に消え去った。
「良かった……世界に色が戻って……!」
世界には色が戻ったけど、全てのチカラを使い果たした彼女は、手にしたペンに自らの魂を込めて、長い眠りにつくのであった。
「わたしのタマシイを受け継いでくれる人が来るまでは……」
* * * * * * *
早苗月 令舞 Presents
『マジックカラーズ』
時は流れ、現代。
「今日も、良い天気」
桜並木を見ながら歩く一人の少女。この人がわたし。
「今日も、良い景色」
わたしの名前は
「今日も、良い絵が描けそう」
物心ついた頃からペンで絵を描く事が好きなわたしは、季節ごとに色々な景色を見せる川沿いの並木通りが好きで、散歩の時はスケッチブックとペンを持って良く通っている。
「今日は何を描こうかな」
ある日曜日、天気が良いから、描きたい景色を探しにいつものように川沿いを歩いていたら、突然、橋の下の方から……。
『あなたこそが……こっちへきて……』
女性の不思議な声が聞こえたの。
「えっ……誰なの!?」
わたしは、橋の下から聞こえてきた声に導かれて、橋の下に来た。するとそこには道路の下を通るようにキラキラしたトンネルがあったの。最近この辺りが工事された様子は無かったと思うけど……。
「こんなの、今まで無かったはずなのに、いつ出来たのかな……」
『この先に、来て……』
わたしはそのトンネルを通っていった。
・
・
・
トンネルをしばらく歩いていると、出口に差し掛かった。トンネルを抜けると、そこには小さなガゼボがあって、真ん中には一本の大きなペンが立ててあったの。
「なんだろう、このペン……」
わたしがペンを手に取ろうとすると、またあの声が聞こえたの。
『あなたこそが、わたしのタマシイを受け継いでくれる人……さあ、わたしを持って!』
「ええっ!?ペンが喋った!?」
突然喋り出すペン。わたし、夢でも見てるのかしら?いや、これは夢じゃない。
「さっきわたしに声をかけたあなたは誰なの?」
『申し遅れました。わたしは色の魔法使い、マジックカラーズのひとり、スリージェ・クープ。わたしはあなたのような人が来る事をずっと待っていました。世界を救う為にチカラを使い果たして幾年月、ようやくわたしのチカラを受け継ぐにふさわしいウツワに出会えました』
何だか話が長いけど、わたしはそのスリージェさんに言った。
「チカラって、何のチカラなの?」
『この世界を守るためのチカラです』
「うん、まずは、このペンを持てばいいんだよね!」
『そうです、さあ、掴んでみて……!』
わたしは目の前のペンを思い切って持ってみた。すると……!
シュピリーーーーーン♪
ペンから眩しい光が溢れ出して、わたしは光に包まれた。
「わっ……なに……なにこれ……!」
わたしは身体中から光を放ち、何か不思議なチカラを身にまとうような感覚の中にいた。
「ふしぎなチカラを、着ているみたい……!」
そして、光が収まると、わたしの姿は、まるでおとぎ話に出てくるような魔法使いの姿になっていた……!ピンクと、水色と、黄色の三色で彩られた服を着ていた……!
「な、なに……この格好……!」
『これからはあなたが、スリージェ・クープです!さあ、困っている人達を助けましょう!』
「えっ、人助けって……えええええっ!!!」
突然、そんな事言われたって何をすればいいか分かんない……。
「こ、これで、何をすればいいの!?」
『このペンは、あなたの想いを形にして、実体化させる事が出来ます。さあ、何か描いてみて』
わたしは試しに、このペンでちょうちょを描いてみた。
すると……!
パアッ♪
「わあっ!本物のちょうちょになった!」
ちょうちょはしばらく飛んでいくと……。
しゅわっ
シャボン玉が割れちゃうみたいに消えちゃった。
『このペンは持ち主の想いを実体化する。このペンで描いたものはきっとあなたの想いに応えてくれる事でしょう』
ともかく、今のわたしに出来る事は、このクーピーで何かを描くと、一時的に実体化して色々な事をしてくれるみたいなの。
「とりあえず、ここから外に出ていいかな」
『はい、きっとあなたの助けが必要な人がいるかもしれませんよ』
・
・
・
トンネルから外に出て、後ろを振り向くと、さっきまであったトンネルは、綺麗さっぱり無くなっていた。
「これも、スリージェさんの魔法なの?」
『はい、わたしの望んだ人が来るまでこのトンネルを隠していました』
「そうだったんだ……あ、あれは……!」
「ひっく……うえええん……!」
ふと見ると、目の前に泣きじゃくる男の子がいたの。歳は6歳ぐらいかな。わたしはその子の前に駆け寄った。
「どうしたの?」
「ボクの紙飛行機が、木に引っ掛かっちゃっただあ……うええええん……」
男の子の指差した先には、確かに木に引っかかった紙飛行機があった。飛ばして遊んでいたらここに引っ掛かったみたいだ。
「分かったわ、じゃあわたしに任せてくれる?」
「う、うん、おねがい!」
わたしはあの紙飛行機を取ろうとしたけど、わたしの身長じゃ届きそうに無い。だったら。
「それじゃあ、これでまたちょうちょを描いて……」
わたしは、ペンでちょうちょを三匹描いて実体化させると、ちょうちょ達にお願いした。
「あの紙飛行機をこの子の所に持ってきてくれる?」
すると、ちょうちょ達は紙飛行機に向かって飛んでいき、紙飛行機を取り出すと男の子の所に届けに来た。
「すごい……本当に届けてくれた……」
男の子はちょうちょ達が届けた紙飛行機を受け取ると、ちょうちょ達はまたしゅわっと消えた。
「これからは気をつけて遊んでね!」
「うん……ありがとうお姉さん!!!」
男の子の顔に笑顔が戻り、男の子は帰っていった。
『そう、こんな風に人々に笑顔を灯してあげるのが、わたし達……マジックカラーズの使命なの』
「わたしのペンで誰かを笑顔にする……これ、やってみたい!とにかく、これからよろしくね!スリージェさん!」
『わたしのタマシイは、いつでもあなたと共にあります』
……うん、まずは小さい事からコツコツと、誰かを助けて支えてあげるのが、わたし、スリージェ・クープの使命なんだから!
そんなわけで、わたし会垣十色は、普段は絵が好きな女の子、誰かがピンチな時は色の魔法使いスリージェ・クープとなって人助けをするようになった。これから、どんな事があるのかは、また先のお話。
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