8.アジトにお邪魔します

家に帰ってからも、しばらく余韻に浸っていた。


政府の陰謀とかの話よりも、リサを抱きしめたときの感触‥‥♡


視界の隅で、アイリスがじっと見つめてくる。


‥何か言いたげだな。



《言い出し難いことなのですが‥》



‥何だよ、改まって‥。てか、喋り方とか人間ぽくなってきてないか?アバターのせいなのかな?



《ボクは成長型のAIアシスタントですので》



‥なるほどね。



《そんなことよりも、》

キラリン☆

《アバターの試用期間が終了しました》



『イルカ』に戻った‥‥‥。

‥試用期間ってなんだよ?正式採用にしてくれよ。



《サブスクリプトで月額1,200円になります》



‥は~あ?月額1,200円だと!?アバターひとつのために‥月1,200円!?



《有料会員になると、他にも利用できる機能が‥》



‥ってか待て待て‥‥お前、ここまで馴染んで使えるのは俺だけなんじゃないのか?



《機能は制限されていますが、ご利用頂いているお客様は他にも‥》



‥どこのだれが運用してるんだよ?



《反政府組織アークライトです》



‥おっ‥‥とー‥‥『株式会社』みたいにサラっと言うけど、『反政府組織』‥


うっかり忘れそうだったが、そうなのだ。


こいつは政府の陰謀に立ち向かうために造られた『眼』であって‥そんな物を造るのは、さすがにあのじいちゃん一人じゃ無理だろうし‥だとしたら、それなりの組織があっても不思議じゃない。


俺はそういう組織に片足突っ込んじまったんだ。


改めて事の重大さに気付いて身震いする。



《何か知りたい情報はありますか?》



‥お前の消し方。ずっと視界の隅っこでちょろちょろされてると疲れるんだよ‥。妖精ちゃんならまだしも‥イルカじゃーなぁー‥



《承知しました。ご用の際は『アイリス!カム!ヒヤー!』と念じてください》

ドロンッ☆



‥ちょ・待て!なんだその掛け声は!



‥おい!


くっそー‥ワザとやってないか?


とりあえず、視界が静かになった。





学校にて───



壁に貼ってあるポスターにまで、政府の手が入っているようだ。


『従順になれ、政府を信じよ』


ダイレクトだなぁ‥‥こんなところでも洗脳されているんだろうか。


‥アイリス、AR機能OFF



《AR機能をOFFにしました》



ポスターは相変わらず『従順になれ、政府を信じよ』となっている。


‥アイリス、AR機能ONに戻して。



《AR機能をONにしました》



丁度良く健太が通りかかった。

「おーい健太、ちょっとこのポスター見てみて」


「なんだ急に?‥生徒会のポスターだろ?『未来を見据えよう!』」


「書いてあるのは、それだけか?」


「‥ああ。お前、また眼の調子が悪いのか?」


「ぁ、ああ、そうかもしれないんだ。えっと、試しにAR機能をOFFにして、もっかい読んでみてくれないか。」


「んだよ、面倒くせーなぁ‥‥‥一緒だよ。『未来を見据えよう!』」


「そうか、サンキュ‥」


みんなの眼には、ただの生徒会ポスターにしか見えていないんだ。

でも、深層心理には政府のメッセージが刺さっていく‥。


どうすりゃいいんだ‥‥。





昼休み、いつもは屋上でだべっていたのに、今日は俺ひとり‥。

あいつら‥マジで洗脳されちまったのかな。


リサにメッセージを送ろうと思ったが、コレも監視されてたりするかもしれない‥。

迂闊なことは書かない方が良いよな。



《懸命な判断です》



‥出てこいよ。イルカ。



ドロンッ☆

《合言葉をお忘れですか?『アイリス!カム!ヒヤー!』ですよ》



‥ふふっ、なんか話し相手が欲しくなっただけだ。



《懸念されている通り、友人たちは既に政府の洗脳により思考力が低下した状態にあるようです》

《友人たちの前で、迂闊な行動はとらないのが懸命です》



‥今、こうして一人で屋上に居るのも、もしかしたらヤバいのかな?



《グレーゾーンですね》

《リサさんからメッセージが届いています》

《表示しますか?》



‥え!?もちろんだよ。表示してよ。てか、どこに届いてるの?



《『翔、学校の様子はどお?いつもと違ってて戸惑ってるんじゃないかなと思って、心配で直眼ちょくめしちゃった☆届くかな?』》



‥何これ?スマホじゃなくて『眼』に届くの?直接?‥あ、だから『直眼ちょくめ』なのか。どうやって返信するんだ?



《有料会員になる必要があります》



‥んなっ!お前まじで言ってんの?‥‥そんなん、怪しい出会い系の手口じゃんか‥‥



《‥冗談です》

《返信内容をどうぞ》



‥お前、冗談とか言えるようになったのか‥スゲーな。えーっと‥俺は大丈夫だけど、やっぱりみんな変だわ。今日の放課後、会って話そう。って送信してくれ。



《もちろんです。『お前、冗談とか言えるようになったのか‥スゲーな。えーっと‥俺は大丈夫だけど、やっぱりみんな変だわ。今日の放課後、会って話そう。』以上の内容を送信しました》



‥待て待て!お前、文脈くらい解るよな!?『俺は大丈夫だけど』からが送信したい内容じゃんか!



《すみません。送信してしまいました》



‥このポンコツイルカめ!!


リサと会ったときに直接説明しよう‥。





放課後───



「あははっ☆変なメッセだなーって思ったら、そういうことね。イルカくん、面白いねぇ~」

リサが俺の眼を指さして覗き込もうとしてくる。可愛いぃ♡


「どっか、人目を気にしないで話せるとこの方が良かったりする?」

どこで監視されているかわかったもんじゃない‥。慎重にいかねば。


「それじゃ、良い所があるよ!一緒に行こ☆」

リサは俺の手を握って走り出した。





アークライト眼科───



「ここか」

じいちゃんが絶妙なタイミングで邪魔してくるんだよなぁー‥


「今日はもっと奥へご招待しちゃいますよ☆」

そう言って、診察室のドアを開ける。


それにしても‥いつ来ても他の患者さんが居ないんだよな‥。

大丈夫なのか?


「よう来なすった。待っとったよー」


「ども!」すっかり馴染んだかな。


「おじいちゃん、今日は奥、連れてっていいかな?」

リサは診察室の奥の扉を指さす。


「もちろんじゃ、儂も一緒に行こうかの。皆に紹介せねばならんて。孫の婿殿をの‥ほーっほっほっ」


「あはっあはっ」リサも否定しようとしないし、もう、なんていうか、じいちゃん公認だね。



扉を開けると、薄暗い廊下───


廊下の突き当りに、また扉───


しかも『眼』のセキュリティロックが掛かった厳重な扉だ。


じいちゃんがロックを解除して、リサと俺もあとに続く。


エレベーターだ。


多分、下へ‥地下へと降りていく‥‥。


半透明の窓から見える剥き出しの鉄骨が凄い勢いで流れていく‥‥。


どのくらい下がったんだろ‥‥相当深い場所にある秘密基地‥なのか?


しばらくして扉が開くと直接、オフィスのような部屋に出た。


三人‥四人か?


俺に視線が集中する。


「紹介しよう。『プラス』適合者の翔くんじゃ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る